6th BREAK 『大 敵−アーク・エネミー−』 第4章
2007-06-25
諸所の事情があって、アウトブレイブの方を先にアップしてみました。
よかったら読んでください♪ 4
耳を裂く様なマユの悲鳴に回りにいた男達は凍りついたように一点を凝視していた。マユの腕は肘を支点にして、まるで別の生き物のように揺れている。
痛みの為かマユは息を荒げ、泣き叫ばずとも大粒の涙を大量にこぼしていた。そんなマユを尻目にジンは顔に笑みを浮かべる。
「理解できたか? お前らがグズグズしていればいるほどマユの怪我は酷くなり、それはお前達に処罰として返ってくるだろうな。言っておくが俺を殺して止めようとしても無駄だ。その間にこいつの息の根くらい簡単に止められる。
下っ端は色々と大変だろうが、できるかぎり無事でいたいのなら俺の拘束を解け」
男達は困惑を顕にして顔を見合わせてうろたえている。そして、一分もしないうちに一人の男が怯えながら近づいてきた。今日最初に自分の顔を蹴って来た男だ。
その手には鍵のついたキーホルダーを持っているものの、すぐにでも手から落としてしまいそうなほど震えている。
「安心しろ。余計な事さえしなければ怪我はさせない。さっさとしろ」
「は・・・・はい!!」
男は怯えて何度も鍵を間違えながらも、どうにか開錠する。それと共に金属特有の重量感がジンの足首から消え去った。
足首を動かしたり、軽く上下させてどのぐらい動くかをジンは確かめる。力の入り方に少々不安が残る物のこのレベルなら充分意のままに動くだろう。
「こ・・・これでいいでしょうか?」
男がさっきまでは考えられないほど卑屈になっている、その卑屈さにジンは失笑を漏らす。
「ありがとう。助かった・・・・・よ!!」
ジンの膝が男の卑屈に歪んだ顔にめり込み、更に酷く歪ませた。男は手放したキーホルダーと共に一瞬宙を舞うが振り下ろされた踵で地面に叩きつけられ瞬時に絶命した。
ジンはマユを突き放すと共に落ちてくるキーホルダーを掴み、そのまま骸となった男を飛び越えて立ち尽くしている男達へと飛び掛かる。近場の男の頭を掴み、勢いに載せて壁にたたきつけ肘で息の根を止め、そして後方にいる残った男に回し蹴りを入れて地面にたたきつけ、倒れて呻く男の首に足を乗せて男の首を踏み折った。
「まあ、ああは言ったけど今までの分を返したっていいだろう? これで今までの分は+−0だ」
そう言いながら、ジンは手元の手錠に鍵を差し込む。やはり、この牢獄の暗さではカギの確認もままならない。一つの鍵を確かめるのに無駄に時間がかかる。
「兄さん後ろに来てる!!」
突然叫んだマユの声に反応し、ジンは反射的に背面蹴りを放っていた。その蹴りは何かに当たりそれを吹き飛ばし、鉄格子に叩きつける。
体制を整え、吹き飛んだ物を直視すると、最初に殴り飛ばした男が吐血しながらも困惑した表情を浮かべていた。
「な・・・・なぜ?」
なるほど。どうやらこの男はなぜマユが自分から声をかけたのか理解出来ていないらしい。
「なぜ?って言われてもな・・・・・・元からこういうつもりだったって事さ」
ジンは意地悪く笑みを浮かべながら、男の頭部を蹴りつける。鉄格子とジンの蹴りのサンドイッチになった男は反応する間も無く骸となった。
「まったく、大人しくしていればいいのがわからないのか、こいつら?」
溜め息をつきながらもジンは鍵を弄り回す。悪戦苦闘の末、ようやく手の拘束具を外す事に成功した。当然の事だが非常に手が軽い。足の時もそうだったが手の動きにも不安は無いようだ。
「後は・・・・・・」
ジンは肘を押さえて苦しむマユに近づき、身体を押さえつけてその右手を掴み上げる。
「ぐっ!!」
マユの口から悲痛な声が漏れるが、ジンは表情を変えない。
「動くなよ」
そう言い切るよりも早く、ジンはマユの腕を引き上げて一気にそれを押し込んだ。
「グゥッ!!」
その激痛にマユは立っている事が出来ずにその場にうずくまり、激痛に身体を震わせている。
「おい・・・・・・」
「あ、ごめんなさい。もう大丈夫。腕だって少し痛むけどちゃんと動くし・・・・・・」
「止めろ。脱臼は下手すれば骨折よりも痛むし、後から処置をしておかないと癖になりやすい。下手に動かすな」
「はい・・・・・」
マユはジンの強い口調に申し訳なさそうにうつむいた。脱臼の痛みには耐え切ったのに言葉ぐらいで簡単に落ちこんでしまうのは意味がわからない。
「しかし、抱きついたと思ったら『兄さんを脱出させる為に今から一芝居打つから自分の腕を折って欲しい。モルヒネを打ってるから足を引っ張ったりはしない』だって?
よく考えたものだが、そういうのは本当にモルヒネを打ってから言え。反応が変わらないからとっさに脱臼させて正解だった」
「だって、もし反応がおかしかったら怪しまれるんじゃないかと・・・・・・」
「それは無いだろ。こいつらはお前を人質に取っただけで完全にそんな事に気づく余裕無くなってたからな。そんな事よりもさっきの話は本当か?」
「うん。今頃・・・・・・・」
「・・・・・・できたわよ」
カズエは特殊なイスルギ独自の記憶媒体に移し変えた特機関連の武装のデータを連絡員の『タケヒロ・タカサキ(高崎 武博)』に手渡した。タケヒロはそれを受け取ると薄ら笑いを浮かべながら保護用アタッシュケースにディスクをしまう。
どうにも、このタケヒロという男が気に入らない・・・・・。カズエは下卑た笑顔の張り付いているタケヒロの顔を見るのを嫌い、すぐにコンピューターのディスプレイに目を戻した。
データの運搬係で自分の監視係だそうだが、このまだ若い子供のような男にその役目は適切とは思えない。ことある毎にカズエの体に触り、体全体を舐めまわす様な卑猥な視線を常に送ってくるのだ。女からしてみれば不快極まりない。
「早く行きなさいよ。あまり遅いと怖い会長さんに何をされるかわからないわよ」
「そうですね。ですが、その前にしないと行けない事がありまして」
「なに? だったら早く済ませて出て行ってくれない? こっちのノルマは貴方と違って余裕が無いんだから」
嫌味を言い捨ててからカズエは新たな仕事に取りかかる。ジンの身の安全を確保するには少しでもイスルギに貢献するしかないのだ。それが自分達にとって不利になるとわかっていても。
ジレンマを抱えながらもカズエは目の前の仕事を必死にこなし続けていると、ディスプレイに人影が映る。あの男だ。
「ちょっと、邪魔なんだけど。さっさと――――――」
カズエの言葉は突如遮られた。タケヒロが突然抱きつき、口元を押さえてきたのだ。
「!!」
突然の暴挙に、カズエは必死になって抗う。胸をまさぐられながらも自分を押さえている手の小指を両手で掴み、思い切り外側に曲げる。
「痛っ!!」
タケヒロは痛みに耐え切れず、押さえていた手を離す。その隙を突いてカズエは部屋の隅に逃げ、タケヒロとの距離をとった。
「こ・・・こんな事をして、なんのつもり!!」
情けない事に自分の声も身体も震えており、叫んだ言葉も間の抜けた言葉になった。それはタケヒロの方にもわかられているようだ。
「わざわざ教えないと行けないほど子供じゃないでしょう?」
「下衆!! こんな事してどうなるかわかってるの!?」
カズエの罵倒の言葉を受けても、タケヒロは下卑た笑みを浮かべながらカズエににじり寄り、カズエは壁を背にしたまま逃げる。
「わかってますよ、会長には貴女に手を出すことは禁じられていますからね。
しかし逆に考えてみませんか? 俺の望むどおりの事をしてくれれば会長の息子を助ける事だってできますよ?」
「冗談でしょう? そんな事・・・・・」
「いいんですか? このままだと会長の息子は近いうちに死にますよ? なにせ、投獄されてから彼は四六時中リンチを受けていますからね」
「え!?」
「まあ、捕虜の扱いとしては妥当でしょう? それとも丁重に客人として扱われているとでも?」
カズエは言葉も出す事が出来なかった。いくらなんでも、タケヒロの言うような客人扱いはされていない事はわかっていたが、『会長の息子』と言う立場を考慮して最低限の保護はされていると思っていたのだ。やはり、あの男はおかしい・・・・・。一体何が目的で、ここまで人の情を捨てられるのか?
「さあ、どうしますか? ここからは貴女次第です・・・・・・。僕の父は役員ですから、僕の発言によっては会長の息子を助ける事が出来るんですよ?」
カズエは視線を外し、下唇を噛み締める。自分が屈辱を受け入れればジンが助かる・・・・・・。
いや、迷う事は無い。最初から答えは出ている。
「断るわ」
「え?」
タケヒロは驚き、呆けたようにだらしなく口が開く。やはりカズエが言いなりになると短絡的に思っていたようだ。
「あ・・・貴女は会長の息子を助けたかったんじゃないのか? だったら・・・・・・」
「『俺に抱かれろ』って事? 笑わせないで!! そんな事をしたらジンの信頼を裏切るだけでしょう? あなたの力なんか借りなくても・・・・・ジンも私もここからきっと脱出して見せるわ」
「し・・・しかし!!」
「それにね、アンタみたいな親の七光りしか無いような男にそんな権限あるの? 騙されて、くだらない男に抱かれて体の中まで汚されるなんて耐えられないわよ!!」
「てめえ!!」
予想したとおり、タケヒロは怒りを剥き出しにしてカズエに襲いかかって来た。やはり、この男はまともに物を考えていない。カズエは向かってくるタケヒロから逃げて、テーブルにおいてあったコーヒーポットをタケヒロに投げつけた。
「がぁぁぁ!!」
少々冷めてしまってはいるが、一度沸騰するほど熱されていたコーヒーを頭から被ったタケヒロは床を転げまわって悶絶する。
その隙をついてカズエは出入り口のドアへと逃げる。
「誰か!! 誰か来てッ!!」
軟禁状態であるカズエにはこの部屋を出る事はできない。だから手の痛みに耐えながらも必死になって何度もドアを叩き、声を張る。だが、それでもドアの外からは反応が返らない。
「誰か来て!! お願い! 誰か来て!!」
「無駄な事してるんじゃねえよ!!」
いつの間にか背後に来ていたタケヒロが強引にカズエをドアから引き剥がす。
「黙って抱かれていればよかったのによ・・・・・。どうなろうと後悔すんなよクソアマ!!」
やはり、体力的にはカズエでは男に勝つ事はできず、最悪の状況が頭の中を覆い尽くす。
しかし・・・・
「すいませーん、何かありました?」
ドアの向こうから男の声が聞こえてきた。少々、頼りなさげな声ではあるものの今のカズエには救いの主の声だ。
「助けて!! 今――――」
叫んだ瞬間、突然息が詰まり呼吸がままならなくなった。タケヒロの手がカズエの口を押さえてきたのだ。これでは声も出す事が出来ない。
「なんでもない!! この女が逃げようとしただけだ!! こっちで何とかするから安心してくれ!!」
「あ、はーい」
(違う・・・・違うの!!)
助けを求めて必死にもがくカズエだったが、逃げる事も叫ぶ事も出来ない。
(嫌!! こんな奴に・・・・・・。 ジン! ナオト!! 誰か助けて!!)
こんな外道に屈する悔しさとこれから己が身に起こる恥辱への恐怖でカズエが涙を流したその時、突然の銃声が響き、ドアが破壊された
「!?」
鍵を破壊されて揺れるドアをゆっくりと開けて、その人影は入ってきた。その顔を見て、カズエは驚愕した。なぜ、彼がここに?
「お・・・・お前なにしに来た!? 名前と所属を言え!!」
予期せぬ展開に硬直するタケヒロ。だが、目の前にいる彼はあの時のと同じように笑っている。
「えっと、イスルギ重工 私設特別部隊の隊長、ジョウスケ・キザキです。一身上の都合で、その人かっさらいに来ました♪」
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耳を裂く様なマユの悲鳴に回りにいた男達は凍りついたように一点を凝視していた。マユの腕は肘を支点にして、まるで別の生き物のように揺れている。
痛みの為かマユは息を荒げ、泣き叫ばずとも大粒の涙を大量にこぼしていた。そんなマユを尻目にジンは顔に笑みを浮かべる。
「理解できたか? お前らがグズグズしていればいるほどマユの怪我は酷くなり、それはお前達に処罰として返ってくるだろうな。言っておくが俺を殺して止めようとしても無駄だ。その間にこいつの息の根くらい簡単に止められる。
下っ端は色々と大変だろうが、できるかぎり無事でいたいのなら俺の拘束を解け」
男達は困惑を顕にして顔を見合わせてうろたえている。そして、一分もしないうちに一人の男が怯えながら近づいてきた。今日最初に自分の顔を蹴って来た男だ。
その手には鍵のついたキーホルダーを持っているものの、すぐにでも手から落としてしまいそうなほど震えている。
「安心しろ。余計な事さえしなければ怪我はさせない。さっさとしろ」
「は・・・・はい!!」
男は怯えて何度も鍵を間違えながらも、どうにか開錠する。それと共に金属特有の重量感がジンの足首から消え去った。
足首を動かしたり、軽く上下させてどのぐらい動くかをジンは確かめる。力の入り方に少々不安が残る物のこのレベルなら充分意のままに動くだろう。
「こ・・・これでいいでしょうか?」
男がさっきまでは考えられないほど卑屈になっている、その卑屈さにジンは失笑を漏らす。
「ありがとう。助かった・・・・・よ!!」
ジンの膝が男の卑屈に歪んだ顔にめり込み、更に酷く歪ませた。男は手放したキーホルダーと共に一瞬宙を舞うが振り下ろされた踵で地面に叩きつけられ瞬時に絶命した。
ジンはマユを突き放すと共に落ちてくるキーホルダーを掴み、そのまま骸となった男を飛び越えて立ち尽くしている男達へと飛び掛かる。近場の男の頭を掴み、勢いに載せて壁にたたきつけ肘で息の根を止め、そして後方にいる残った男に回し蹴りを入れて地面にたたきつけ、倒れて呻く男の首に足を乗せて男の首を踏み折った。
「まあ、ああは言ったけど今までの分を返したっていいだろう? これで今までの分は+−0だ」
そう言いながら、ジンは手元の手錠に鍵を差し込む。やはり、この牢獄の暗さではカギの確認もままならない。一つの鍵を確かめるのに無駄に時間がかかる。
「兄さん後ろに来てる!!」
突然叫んだマユの声に反応し、ジンは反射的に背面蹴りを放っていた。その蹴りは何かに当たりそれを吹き飛ばし、鉄格子に叩きつける。
体制を整え、吹き飛んだ物を直視すると、最初に殴り飛ばした男が吐血しながらも困惑した表情を浮かべていた。
「な・・・・なぜ?」
なるほど。どうやらこの男はなぜマユが自分から声をかけたのか理解出来ていないらしい。
「なぜ?って言われてもな・・・・・・元からこういうつもりだったって事さ」
ジンは意地悪く笑みを浮かべながら、男の頭部を蹴りつける。鉄格子とジンの蹴りのサンドイッチになった男は反応する間も無く骸となった。
「まったく、大人しくしていればいいのがわからないのか、こいつら?」
溜め息をつきながらもジンは鍵を弄り回す。悪戦苦闘の末、ようやく手の拘束具を外す事に成功した。当然の事だが非常に手が軽い。足の時もそうだったが手の動きにも不安は無いようだ。
「後は・・・・・・」
ジンは肘を押さえて苦しむマユに近づき、身体を押さえつけてその右手を掴み上げる。
「ぐっ!!」
マユの口から悲痛な声が漏れるが、ジンは表情を変えない。
「動くなよ」
そう言い切るよりも早く、ジンはマユの腕を引き上げて一気にそれを押し込んだ。
「グゥッ!!」
その激痛にマユは立っている事が出来ずにその場にうずくまり、激痛に身体を震わせている。
「おい・・・・・・」
「あ、ごめんなさい。もう大丈夫。腕だって少し痛むけどちゃんと動くし・・・・・・」
「止めろ。脱臼は下手すれば骨折よりも痛むし、後から処置をしておかないと癖になりやすい。下手に動かすな」
「はい・・・・・」
マユはジンの強い口調に申し訳なさそうにうつむいた。脱臼の痛みには耐え切ったのに言葉ぐらいで簡単に落ちこんでしまうのは意味がわからない。
「しかし、抱きついたと思ったら『兄さんを脱出させる為に今から一芝居打つから自分の腕を折って欲しい。モルヒネを打ってるから足を引っ張ったりはしない』だって?
よく考えたものだが、そういうのは本当にモルヒネを打ってから言え。反応が変わらないからとっさに脱臼させて正解だった」
「だって、もし反応がおかしかったら怪しまれるんじゃないかと・・・・・・」
「それは無いだろ。こいつらはお前を人質に取っただけで完全にそんな事に気づく余裕無くなってたからな。そんな事よりもさっきの話は本当か?」
「うん。今頃・・・・・・・」
「・・・・・・できたわよ」
カズエは特殊なイスルギ独自の記憶媒体に移し変えた特機関連の武装のデータを連絡員の『タケヒロ・タカサキ(高崎 武博)』に手渡した。タケヒロはそれを受け取ると薄ら笑いを浮かべながら保護用アタッシュケースにディスクをしまう。
どうにも、このタケヒロという男が気に入らない・・・・・。カズエは下卑た笑顔の張り付いているタケヒロの顔を見るのを嫌い、すぐにコンピューターのディスプレイに目を戻した。
データの運搬係で自分の監視係だそうだが、このまだ若い子供のような男にその役目は適切とは思えない。ことある毎にカズエの体に触り、体全体を舐めまわす様な卑猥な視線を常に送ってくるのだ。女からしてみれば不快極まりない。
「早く行きなさいよ。あまり遅いと怖い会長さんに何をされるかわからないわよ」
「そうですね。ですが、その前にしないと行けない事がありまして」
「なに? だったら早く済ませて出て行ってくれない? こっちのノルマは貴方と違って余裕が無いんだから」
嫌味を言い捨ててからカズエは新たな仕事に取りかかる。ジンの身の安全を確保するには少しでもイスルギに貢献するしかないのだ。それが自分達にとって不利になるとわかっていても。
ジレンマを抱えながらもカズエは目の前の仕事を必死にこなし続けていると、ディスプレイに人影が映る。あの男だ。
「ちょっと、邪魔なんだけど。さっさと――――――」
カズエの言葉は突如遮られた。タケヒロが突然抱きつき、口元を押さえてきたのだ。
「!!」
突然の暴挙に、カズエは必死になって抗う。胸をまさぐられながらも自分を押さえている手の小指を両手で掴み、思い切り外側に曲げる。
「痛っ!!」
タケヒロは痛みに耐え切れず、押さえていた手を離す。その隙を突いてカズエは部屋の隅に逃げ、タケヒロとの距離をとった。
「こ・・・こんな事をして、なんのつもり!!」
情けない事に自分の声も身体も震えており、叫んだ言葉も間の抜けた言葉になった。それはタケヒロの方にもわかられているようだ。
「わざわざ教えないと行けないほど子供じゃないでしょう?」
「下衆!! こんな事してどうなるかわかってるの!?」
カズエの罵倒の言葉を受けても、タケヒロは下卑た笑みを浮かべながらカズエににじり寄り、カズエは壁を背にしたまま逃げる。
「わかってますよ、会長には貴女に手を出すことは禁じられていますからね。
しかし逆に考えてみませんか? 俺の望むどおりの事をしてくれれば会長の息子を助ける事だってできますよ?」
「冗談でしょう? そんな事・・・・・」
「いいんですか? このままだと会長の息子は近いうちに死にますよ? なにせ、投獄されてから彼は四六時中リンチを受けていますからね」
「え!?」
「まあ、捕虜の扱いとしては妥当でしょう? それとも丁重に客人として扱われているとでも?」
カズエは言葉も出す事が出来なかった。いくらなんでも、タケヒロの言うような客人扱いはされていない事はわかっていたが、『会長の息子』と言う立場を考慮して最低限の保護はされていると思っていたのだ。やはり、あの男はおかしい・・・・・。一体何が目的で、ここまで人の情を捨てられるのか?
「さあ、どうしますか? ここからは貴女次第です・・・・・・。僕の父は役員ですから、僕の発言によっては会長の息子を助ける事が出来るんですよ?」
カズエは視線を外し、下唇を噛み締める。自分が屈辱を受け入れればジンが助かる・・・・・・。
いや、迷う事は無い。最初から答えは出ている。
「断るわ」
「え?」
タケヒロは驚き、呆けたようにだらしなく口が開く。やはりカズエが言いなりになると短絡的に思っていたようだ。
「あ・・・貴女は会長の息子を助けたかったんじゃないのか? だったら・・・・・・」
「『俺に抱かれろ』って事? 笑わせないで!! そんな事をしたらジンの信頼を裏切るだけでしょう? あなたの力なんか借りなくても・・・・・ジンも私もここからきっと脱出して見せるわ」
「し・・・しかし!!」
「それにね、アンタみたいな親の七光りしか無いような男にそんな権限あるの? 騙されて、くだらない男に抱かれて体の中まで汚されるなんて耐えられないわよ!!」
「てめえ!!」
予想したとおり、タケヒロは怒りを剥き出しにしてカズエに襲いかかって来た。やはり、この男はまともに物を考えていない。カズエは向かってくるタケヒロから逃げて、テーブルにおいてあったコーヒーポットをタケヒロに投げつけた。
「がぁぁぁ!!」
少々冷めてしまってはいるが、一度沸騰するほど熱されていたコーヒーを頭から被ったタケヒロは床を転げまわって悶絶する。
その隙をついてカズエは出入り口のドアへと逃げる。
「誰か!! 誰か来てッ!!」
軟禁状態であるカズエにはこの部屋を出る事はできない。だから手の痛みに耐えながらも必死になって何度もドアを叩き、声を張る。だが、それでもドアの外からは反応が返らない。
「誰か来て!! お願い! 誰か来て!!」
「無駄な事してるんじゃねえよ!!」
いつの間にか背後に来ていたタケヒロが強引にカズエをドアから引き剥がす。
「黙って抱かれていればよかったのによ・・・・・。どうなろうと後悔すんなよクソアマ!!」
やはり、体力的にはカズエでは男に勝つ事はできず、最悪の状況が頭の中を覆い尽くす。
しかし・・・・
「すいませーん、何かありました?」
ドアの向こうから男の声が聞こえてきた。少々、頼りなさげな声ではあるものの今のカズエには救いの主の声だ。
「助けて!! 今――――」
叫んだ瞬間、突然息が詰まり呼吸がままならなくなった。タケヒロの手がカズエの口を押さえてきたのだ。これでは声も出す事が出来ない。
「なんでもない!! この女が逃げようとしただけだ!! こっちで何とかするから安心してくれ!!」
「あ、はーい」
(違う・・・・違うの!!)
助けを求めて必死にもがくカズエだったが、逃げる事も叫ぶ事も出来ない。
(嫌!! こんな奴に・・・・・・。 ジン! ナオト!! 誰か助けて!!)
こんな外道に屈する悔しさとこれから己が身に起こる恥辱への恐怖でカズエが涙を流したその時、突然の銃声が響き、ドアが破壊された
「!?」
鍵を破壊されて揺れるドアをゆっくりと開けて、その人影は入ってきた。その顔を見て、カズエは驚愕した。なぜ、彼がここに?
「お・・・・お前なにしに来た!? 名前と所属を言え!!」
予期せぬ展開に硬直するタケヒロ。だが、目の前にいる彼はあの時のと同じように笑っている。
「えっと、イスルギ重工 私設特別部隊の隊長、ジョウスケ・キザキです。一身上の都合で、その人かっさらいに来ました♪」
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