画像が表示されない場合の代替テキスト

 基本的に特撮・ゲーム・自作小説が中心のブログです。  小説に関しては常識ですが無断転載は禁止です。

5th BREAK 『復讐の終焉』

 5章全てをまとめて見ました
 
5th BREAK
『復讐の終焉』


 それは一瞬だった。三機のガーリオン・カスタムが、たった一体の特機との戦闘において、一合の元に破壊された。特機のパイロットは、今屠ったばかりのガーリオン・カスタムになど興味を示さず、本来の目標に対して淡々と言葉を放ってきた。
「DCの二代目総帥、バン・バチュンに告ぐ。俺の名はキョウシロウ・ミナガミ。わかっていると思うが、イスルギの者だ。今から言う要求を飲まなければ、その艦にいる全員の命が無い」
名指しされたバンは、タウゼントフェスラーの中で、突如現れた謎の特機の要求に耳を澄ませた。
「無駄話は嫌いだから率直に言う。死ね。そうすれば他のDCメンバーの命程度は助けてやろう」
「何?!」
「総帥の命を!?」
声を上げたのは、周囲にいる兵士達だった。彼らはDC崩壊時に、運良く外交に出ていたバンと共に、今まで生き残っていた親衛隊とでも言える立場の者ばかりである。
彼らは、一兵士であるジン・イスルギと科学者でしかないカズエ・ライドウが表立ってイスルギと闘い、それによって国際手配されているのに負い目に感じながらも、DCを立て直す為に必死にこの状況を利用し、暗躍していたのだった。
だが、そんな彼らの前に現れた謎の特機は、それら全てを水の泡にさせようとしている・・・・・・そんなことを彼らが許せるはずが無かった。
怒る彼らの心を知ってか知らずか、キョウシロウは火に油を注ぐような言動を続ける。
「まあ、命が惜しいのはわかる。誰だってそうだ。特にあんたらは、自分の部下だった者に戦わせても平気なほど、自分達の命が惜しい者達の集まりだろうからな」
「なんだと!!」
「貴様!よくもそんな事を!!」
キョウシロウの侮辱に艦橋内の兵士達が一斉に叫び出した。自分達の信念に基づいての行動を否定され、狭い艦橋に怒号が渦巻く。だが・・・・・・
「やめんかぁっ!!」
バンの怒声が艦橋に響き渡った。その剣幕に、怒号を上げていた兵士達の声は一瞬にして沈黙した。
「今ここで騒ぎ立ててどうする!?それは、あのキョウシロウという男の思うつぼだ!」
「は・・・・・・はい!」
 静まり返った艦橋の様子を確認した後、バンはマイクを手に取り、キョウシロウに通信する。
「こちらはDC総帥、バン・バチュンだ。貴公の要求はわかった。だが、少しだけこちらの要求も聞き入れてもらえないか?」
「要求だと?」
「正直な話をすれば、ここで無意味に死ぬのは避けたいという気持ちがある。そこでチャンスが欲しい。私の持つ特機と貴公の持つ特機で勝負してくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・」
 二人の間に緊張が走る。バンのプライドをかなぐり捨てた要求に、一体キョウシロウがどのように答えるのか・・・・・・。DCの兵士たちは固唾を飲んで見守っていた。
「断る」
「!!」
 バンの歯軋りの音と兵士の落胆の溜息が艦橋に響き渡る。しかし――――
「・・・・・・と言ったら、困るか?」
「なに?」
「特機での勝負だったら受けてもいい。こちらとしても、この特機『ヴォルバリオン』の実戦データが欲しいからな。ただ簡単に承諾してもつまらないと思ってな。ハハハハハ」
「・・・・・・貴公のユーモアと、承諾してくれた広い心に感謝の意を示す」
「つまらない挨拶は良いから、さっさと準備をしてくれ」
あまりの屈辱に身体を震わせるほどの怒りを感じても、バンは必死に自重し、紳士的に振舞ったのだが、キョウシロウはバンの態度など歯牙にもかけず、通信を一方的に切った。
バンは、少しの間だけ身体を震わせたのち、秘書のアルティアに向けて叫ぶ。
「アルティア!特機『ヴァルシオンR(リボーン)』出撃準備!!」
「はい!!」
 アルティアは、ドッグに残っている人員に対し、出撃の準備を指示し始める。その様子を横目に、バンは画面に映る特機を睨みつける。
(見ていろ・・・・・・我が誇りを踏みにじった事を後悔させてやる!!)

そして、約十分後・・・・・

「来たか。しかし、もっとさっさとできないものか?」 
キョウシロウは、ハッチから出てきたヴァルシオンRを見て呟いた。十分も時間をかけるなど、キョウシロウからしてみれば戦闘を舐めている証拠だった。本当の戦闘なら既に艦ごと落としていたものを・・・・・・と、心の中だけではき捨てた。
まあ、キョウシロウの方にも、それ相応の『準備』が出来た事を考えると、そこまで怒る必要も無かったが・・・・・・。
「待たせてすまない」
バンからの通信が入ってきた。キョウシロウは感情を抑え、できるだけ冷静に振舞う。
「準備は本当に良いんだな?」
「ああ、もちろんだ。そちらこそ―――――」
「わかっている。この勝負に勝った方がここのいる全員の命を好きに出来る・・・・・・だろ?」
「・・・・・・そういう事だ。では、行くぞ!」
「待て。その前に―――――」
キョウシロウが血気に逸るバンを諌めた瞬間、突如タウゼントフェスラーに向かって、ミサイルが放たれた。
「なっ!?」
強襲するミサイルに、バンは、とっさに反応する事が出来ずに棒立ちになった。
「ぐっ!!」
少しだけでもダメージを抑える為、バンはヴァルシオンRに防御体勢を取らせる。だがミサイルは、ヴァルシオンRに掠る事すらなく、タウゼントフェスラーに突き刺さった。
「な・・・・・・き、貴様ぁぁっ!!」
バンは、キョウシロウの突然の凶行に怒り、右手に持っていたディヴァインアームを振り上げてヴォルバリオンに襲いかかってきた。
だがヴォルバリオンは、なんら戸惑う事無く腰の鞘から大型ナイフを左の逆手で抜き、ディヴァインアームを受け止めて、鼻で笑う
「不意討ちかよ。勝負だからって何でもありか?」
「黙れ!!貴様は、自分が何をしたのかわかっているのか!?なぜ貴様は勝負とは関係の無い者達を殺した!?」
「殺してはいない。通信を取るなり、目で確かめるなりしてみろ」
「ぐ・・・・・・誰か応答しろ!」
バンは、キョウシロウの言葉を確認する為にタウゼントフェスラーに対して通信を行う。すると・・・・・・
「総帥・・・・・・こちらアルティアです」
「アルティアか!そちらの状況は!?」
「はい、不思議な事にミサイルが当たった事は確実なんですが、爆発も起こらず――――」
「当たり前だ。落とすつもりじゃなかったからな」
 突然、キョウシロウが通信に割り込んできた事に、バンは再び声を荒げる。
「だったら一体何のつもりだ!?」
「病原菌を弾頭につめて打ち込んだ」
「・・・・・・何?」
「イスルギが作ったバイオ兵器の一つだ。空気感染し、呼吸を停止させ死に至らしめる効果がある。まだ押して無いが、スイッチを押せばちょうど十分で菌が入っているカプセルが弾頭ごと破壊される。まあ、あの程度の戦艦一つ分なら、楽に全滅させられる」
 一瞬、バンは自分の耳を疑った。キョウシロウが言っている事がにわかに信じられなかったからである。バンは、必死に心を落ち着かせ、キョウシロウに問い詰める。
「なぜ・・・・・・なぜ、そんな物をタウゼントフェスラーに撃つ必要がある!!」
「お前が逃げないようにさ」
「何・・・・・・?」
「お前が特機で逃げないようにする為、タウゼントフェスラーに保険として撃ちこんだ。どれだけ能書きたれていても、土壇場になると逃げ出す奴はいるからな」
「私は違う!!」
「信用できるか。大体なんで、お前なんかを信用する必要がある?お前は、周りにDC総帥とか言われて、もてはやされているかもしれないが、俺にとっては只の標的だ。
出来るだけ俺を楽しませてから死ぬ。それだけの為にお前は存在しているんだ」
「・・・・・・」
 バンは、キョウシロウのあまりに人の心の感じられない言葉に、寒気と恐怖を同時に覚えた。それを知ってか知らずか、キョウシロウはついに動き出す。
「さあ、いこうぜ。勝負するんだろ?この十分間、徹底的に楽しもうぜ」
 そう言って、キョウシロウはスイッチを入れた。それが、バン・バチュンの人生最後の十分間だった・・・・・・。


「どうした?まさか、あれだけ意気込んでてもう終わりとか言うなよ?」
「グ・・・・・・」
バンは、息を荒げながらも必死に機体のバランスを取る。だが、既に勝負は決していた。
ヴァルシオンRは、もはや死に体だった。左腕と右足は捥がれ、装甲の所々は溶解し、ディヴァインアームもクロスマッシャー発射口も完全に破壊されていた。
それとは正反対に、ヴォルバリオンは全くの無傷・・・・・・いや、汚れすらも無く、余裕を見せながら、左手のナイフで遊んでいた。
(これが・・・・・・これが特機なのか?こんな物兵器ですらない!あんな危険な物は・・・・・・)
バンは、その悔しさを顕にするかのようにヴォルバリオンを睨みつける。だが、今のヴァルシオンRには、これ以上どうすることもできなかった。例え何か抵抗をしたところで、さっきと同じように簡単にいなされ、手痛い反撃を食らうのは間違いなかった。
CQB・・・・・・バンは、その完璧に近い戦闘術の恐ろしさを身を持って知ったのだ。
(もう、我が命は完全に尽きた・・・・・・ならば、後は―――)
「もう諦めたようだな・・・・・・。そろそろトドメと行くか!」
もはやバンを見限り、完全にトドメを刺すべく、ナイフを構えて襲いかかった。
「ぐっ!くそう!!」
既に動く事すら無理なのか、ヴァルシオンRは回避動作一つ行わず、ヴォルバリオンのナイフが脇腹に直撃した。ナイフは、胴体の3分の1ほどめり込み、あと少しでコクピットに刃が触れる直前で止まった。無論、それは装甲で止まった訳ではない。キョウシロウが、バンを馬鹿にする為に行っているのだ。
キョウシロウは、わざとナイフを止め、通信でバンを嘲笑う。
「どうした?まさか、もう駄目だと諦めたのか?どうやらDCと言う組織は、そろいもそろって根性が無い奴らの集まりみたいだな!!」
「・・・・・・」
「なんだ?!図星で反論も出来ないか!?」
「反論する必要は無い・・・・・・。これで全てが終わるのだからな!!」
「!?」
その言葉と共に、ヴァルシオンRは、残っている手足でヴォルバリオンをつかむ。そしてバンが、コクピットにあるスイッチを押すと、ヴァルシオンRのエネルギー出力が急速に上昇し始める。それは、ヴァルシオンシリーズの最大最強兵器――――
「グラビトンウェェェェェェブ!!」
ヴァルシオンRから放出された、高重力波がヴォルバリオンに襲いかかった。
「オリジナル程とはいかないが・・・・・・それでもこれを防ぐ術は無い!!重力の波に押し潰されろぉっ!!」
強力な重力によって、ヴォルバリオンの動きが止まる。しかし・・・・・・
「だからどうした?たかが重力波で、ヴォルバリオンを破壊できるとでも思っていたのか?」
キョウシロウは、バンが放った起死回生の攻撃を嘲笑う。
「こんな物ヴォルバリオンには通じない!搭載しているドミニオンシステムで、重力兵器に対して自動で防御するようになっているからな!この程度の重力なら、エネルギーが切れるまでの足止めにしか過ぎないぞ!!」
「・・・・・やはり、仕留めるのは不可能か。だが、今はそれで充分だ!!」
「なに?」
その時、キョウシロウの視界に移ったものは、タウゼントフェスラーから次々と逃亡していく小型艇だった。それを確認すると、キョウシロウは叫ぶ。
「貴様!!まさか自分を囮にしたのか!?」
「フッ、そうだ・・・・・・」
バンは、キョウシロウの問いに対して笑みを浮かべた。それは彼を笑った物ではなく、最後に自分の思うとおりに事を運ばせた事に対する満足感からだった。
「私は、まがりなりにもDCの総帥だ・・・・・・。部下を救う為にこの命を捨てるのは義務だ。その義務も遂行した今、後は貴様と――――」
「ははははははは!!」
突如、ヴォルバリオンの右腕が動き出し、ヴァルシオンRの頭を掴んだ。その瞬間、ヴァルシオンRの頭は、ほんの一瞬で砕け散った。
「囮だと!?総帥の義務だと!?本当に自分の活躍で助けられたと思っているのか?全くDCの奴らは馬鹿ばかりだなあ!!」
豹変・・・・・・その言葉が咄嗟にバンの脳裏に浮かんできた。さっきまでのヴォルバリオンとは・・・・・・いや、キョウシロウとは全く違う、その様子にバンは、言葉をつむぐ事が出来ずにいた。
「あいつらは元から逃がすつもりだったんだよ!大切な『頭』を捨てて逃げるって言う屈辱を存分に味わってもらおうと思ってなあ!」
「なに!?」
「そうしたらお前が進んで演出してくれるんだからなあ!!そういうむかつくヒーローきどりにはふさわしい死に方を与えないとなあァァァ!!」
キョウシロウの咆哮と共に、周囲の景色が歪み始める。すると、その瞬間からヴァルシオンRに・・・・・・いや、コクピットにいるバンにすら、『何か』が襲いかかって来た。
「!!!!!!!!!!!」
バンは、一瞬にして体の自由が無くなり、苦悶の呻き声を出すことすらも出来なくなった。体の表面全てが、とてつもない力で圧縮され、徐々に肉が破れ、骨が砕け始めた。
それだけではない。口や耳といった体内に通じる穴から『何か』が入り、内蔵を直接破壊し始めた。
通信機から時折入るバンの口から漏れ出る苦悶の声から、地獄の苦しみを味わう様子を察して、キョウシロウは、笑い出した。
「どうした!?いい気分だろ!?なにせ大切な部下を守って死ねるんだからなあ、総帥!!」
キョウシロウは、ヴァルシオンRの頭を掴んだ右手を決して離さず、咆哮しながら左手のナイフを幾度となく突き立てた。数度突き立てただけで、ヴァルシオンRの機体は切り刻まれ、部品が次々地上へと落ちていく。だが、キョウシロウはそれにも構わずにひたすら刃を突き立て続けた。
「なに黙ってんだ!声を出してみろよ!!苦しいんだろぅ!?痛いんだろぅ!?なんか言ってみろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ナイフの刃は、ついにコクピットに突き立てられる。抉りながらナイフを何度も深く突き入れるその姿は、まさに『狂乱』という言葉でしか表現出来ないものだった。
そして、ようやく狂気がおさまったのかキョウシロウは、つかんでいたヴァルシオンRを放置されたタウゼントフェスラーへと投げ捨てた。
「まあ、お前らは所詮前座だ。会長の息子を殺す舞台のな!!」
そう言いながら、キョウシロウは右大腿部に取り付けてあるホルスターに手を伸ばし、拳銃を引き抜き、ただひたすらにトリガーを引き続けた。拳銃から放たれた弾丸の豪雨は、ヴァルシオンRとタウゼントフェスラーに襲いかかり、すぐさま大爆発を引き起こした。それでもキョウシロウは、トリガーを引くのを止めようとしなかった。ようやくその指が静止したのは、マガジンが空になってから数分も後の事だった。
「フウ・・・フウ・・・・」
高ぶった感情がようやくおさまってきたのか、キョウシロウは荒げた呼吸を整える。その時―――――
「キョウシロウ様。本社からの連絡が入りました」
「チッ・・・・・なんだって?」
ランファからの通信に、キョウシロウは舌打ちをしながら答える。
「はい。本社からは至急、Fポイントに向かうようにとの連絡です。『ミユキ』さんと『シンタロウ』さんも既に現場に向かっています」
「わかった。すぐにバイオ兵器を回収した後、ヴォルバリオンを格納してFポイントに向かう。だが・・・・・・」
「なんでしょうか?」
「ランファ、レイファとともにFポイントにつくまでの間、いつものように俺の相手をしろ。操縦は自動で構わない」
「・・・・・・わかりました。準備をしてお待ちしています」
ランファは、笑顔を浮かべながら通信を切った。だが、キョウシロウの表情には笑みの欠片すらも浮かばず、逆に憎悪の塊としかいえない表情を浮かべて、日本のある方角をただ見つめていた。


「我が社の要求は以上です。何か問題は?」
「いえいえ!問題などあろうはずが・・・・・・・」
「それもそうですね。ではこれで」
イスルギ重工のエージェントは、そう言って話を終え、すぐさまその場所を出て行くのを『シズマ・タカギ(高木 鎮真)』は、隣にいる老人達に合わせて、頭を下げて見送った。
「ふぅ・・・・・・いつもながら、このトップ会談は緊張する・・・・・・」
横にいる老人・・・・・・日本国総理大臣『ジュンジ・キズミ(来住 純冶)』の呟いた一言に、シズマは顔に浮かぶ嫌悪の表情を隠すのに苦労した。たかが一企業のエージェントの話をただ受け入れるだけのどこがトップ会談なのか?シズマは、総理の思考を少しばかりも理解出来なかった。しかし、それでもこの男の秘書である自分は、今はこの男に付き従わなければならない・・・・・・。シズマは、必死に顔を取り繕い、冷静に対処する。
「そうですね。では、そろそろ次の・・・・・・」
「そうだな。行くぞ」
さっきまでとは180度変わった態度を見せて、総理は秘書を引き連れて、専用車に乗って公邸を後にした。
シズマは、車内で今後のスケジュールを確認しながらも物思いにふけるが、脇から総理がシズマに向かい機嫌よくイスルギの事を話してきた。
「それにしてもレンジ会長も大変なようだな。だが、娘のミツコさんが亡くなってからも、必死に日本のために苦労しているのだから、大変な物だ。私たちもあの仕事に対する姿勢は見習わないとな」
「はい、そう思います」
自分で言った白々しい言葉に、シズマは吐き気を感じた。シズマは日本をイスルギの支配下ら立て直そうと政治家を志し、実家が暴力団という事を最大限に利用して、裏表問わず工作をかけた末、なんとか総理の私設秘書になったものの、政治の世界に入ってわかったのは、自分のような人間はすぐに抹殺されると言うことだった・・・・・・。
この国に・・・・・・いや、イスルギにとって必要な政治家は、自分の志(こころざし)を持たない政治家だ。とにかく、イスルギの立てる案に対してイエスマンとなり、出された案をあらゆる規制を反故にして通過させる事がこの国のトップとして最も必要な能力なのだ。
そういう点では、今の総理は総理大臣としての役を演じるのにはもっともふさわしい男だ。メディアや国会では、どこまでも自分を高く見せ「死んでもいい」とまで言って、豪傑ぶるのに対し、イスルギに対してはこれ以上無いという位の低姿勢で、決して反抗しようという気概も無い。
「イスルギ重工は、日本の生命線だからね」と公言するとおり、彼はイスルギの援助無しでは何も出来ない。しかし、それは彼だけではない。この国の政治家の9割はイスルギがいなくなったら何も出来なくなる。つまり、イスルギは日本という国家を思いのままに出来る権利を得ているのも同然だった。
もはや、これを覆すのには革命しかない・・・・・・と、思い浮かんだ言葉を打ち消すように、シズマの携帯が鳴った。
それは防衛庁からの連絡で「日本近海にジン・イスルギが接近。総理の指示を請う」というものだった。


(う・・・・・・)
ジンは、乾ききった口内が潤っていく感覚をまどろんだまま感じる。
(甘い・・・・・・。なんだ?オレンジジュース?)
口内を潤しているのがオレンジジュースだと言うのに気づいたところでジンは目を開けた。
「あ、お目覚め?」
「カズエさんか・・・・・・」
ジンが目を開けると、カズエがオレンジジュースを満たした水差しで、自分の口の中にジュースを注いでいた。
「おはよう。気分は・・・・・・って、あまり良くないみたいね」
「まあな。しかし、また気絶か・・・・・・ヴァルゼリオンに乗ってから癖がついちまったのかな?」
 ジンは、ソファーからゆっくりと体を起こす。なにか頭がとても重い気がするが、起きていられないほどではなかった。それを見たカズエは食料を入れている箱から何個か物を取り出した。
「・・・・・・まあ、それよりもお腹すいたんじゃない?とりあえず、これでも食べなさい。食べれば少しは元気も出るでしょ」
「ああ・・・・・・って、おい・・・・・・」
カズエが手渡してきたのはチョコレート・・・・・・しかも、不味くて食えたのじゃないと有名な米国産のチョコレートだった。
「・・・・・・なあ、俺は舌おかしくなってないんだけど・・・・・・」
「知ってるわよ」
「だったら、ベルギー産の・・・・・・駄目なら日本産のくれよ」
「そんなのあるはず無いでしょう。私達は軍の基地から物資を奪ってきたんだから。そんな高級なのあるはずないでしょ?」
「ああ、そうですか・・・・・・」
ベルギーはともかく、日本産はそこまで高級じゃ無いが・・・・・・と思った物の、無駄な言い合いになるのを防ぐ為、ジンは渡されたチョコレートを溜息をつきながら頬張った。
すると・・・・・・
(・・・・・・え?)
ジンは舌の感覚に違和感を覚えた。いや、味がしないとかそういうものではない。美味いのだ。あれだけ不味いと言っていたチョコレートがとても美味く感じたのだ。
「嘘だろ・・・・・・」
そう言いながらも結局すぐに一枚全てを食べ終えてしまった。元々、米国の菓子(に限らないが)という物は、味のバランスが全く整っておらず、甘いだけや塩辛いだけというのが当たり前で、大抵の国からは嫌われている。もちろんジンが食べたチョコレートも、ただ甘ったるいだけで味に深みも何も無い。
しかし今のジンには、その極端な甘味がひどく美味く感じられた。それどころか一枚食べただけではまだ足りないという感じすらしていた。
「カズエさん。あのさぁ・・・・・・」
「わかってるわ。まだあるから好きなだけ食べなさい」
そう言ってカズエは、ジンの前に箱に詰めてあった菓子を出した。それと同時に、ジンは即座に手を伸ばし、夢中になって菓子をむさぼった。

十分後・・・・・・
「落ち着いて、改めてみると・・・・・・凄いわね、これ」
カズエは、ジンが食べ終えた後を見て、あきれて呟いた。非常用として色々詰め込んでいた菓子を、ジンが大半を食べてしまったのだから。
まあ日本も近づいていて、目的も達成寸前だから備蓄する必要も無くなったのだから、問題無いが・・・・・・。
「カズエさん、俺一体どうなったんだ?いくらなんでも、これは自分でもおかしいと思うんだけどさ・・・・・・」
食事を終えたジンがカズエに問いかける。一見、些細な事にしか見えないが、自分が今していた事がジン自身理解出来なかったからだ。
ジンは、食い散らかしたゴミを片付けながらも、カズエに対して言葉を続ける。
「俺は元々動く分、飯食う量も多いけどさ。けど、俺はここまで甘党じゃない。しかもこんな不味い物をバクバク食ってるなんてな・・・・・・なあ、俺にいったい何が起こってるんだ?」
「・・・・・・」
仕草も言葉もふざけているように思えるが、カズエを見る目は真剣そのものだった。視線を向けられたカズエは言葉に詰まるものの、一度溜息をつき、冷蔵庫から缶飲料を取り出し、ジンの前に自分の椅子を移動して座った。
「そうね・・・・・・じゃあ、ちょっと長くなるけどいい?」
「ああ。とりあえず、この怪現象がはっきりできるならな」
「わかったわ。じゃあジンはこれを飲みなさい」
「ああ、これが飲みたかったんだ」
カズエがジンに手渡したのは、500mlのコーラだった。カズエは自分用に取り出した缶コーヒーを一口飲んでからジンに話しだした。
「簡単に言えば、今ジンが糖分を過剰に摂取しようとしているのは、ジンの脳のせいよ」
「俺の脳?」
「そう。ジンの脳は、今かなりの疲労状態にあるの。それこそ、一度意識が無くなるほどのね。だから、それを癒す為に脳のエネルギー源である糖分を補充しようとしているのよ。人間の味覚は結構いいかげんだから、足りない物を口にすると、美味しく感じる事があるのよ。クエン酸を摂取した時に、摂取した人の疲労度によって酸味が軽減されるって例もあるのよ」
「なるほどね・・・・・・。だけど納得できない事があるんだけど・・・・・・」
「どこが?」
「今までヴァルゼリオンで数回戦ったけれど、ここまでの状態になった事は一度も無い。なのに、今回に限ってぶっ倒れるほど糖分が足りなくなるのはどういうことだ?」
「わからない?アレだけの事したのに?」
「あれだけの?」
「ほら、ジンが倒れる前に戦ったでしょ?ドミネーター同士でね」
「・・・・・・ああ」
ジンは、つい数時間前の戦いを思い出した。ジン自身が『最強の素人』と認めた男、ジョウスケとヴァルレオンとの激闘を・・・・・・。
「あの戦いは、今までの戦闘とは比べ物にならないくらいに脳を疲労させたの。その為に、ジンの脳は意識を失うほどに疲労困憊になったと言うわけよ」
「そうなのか?」
「貴方には実感できないと思うけどね。でも、あの戦いは人間には出来るレベルじゃないわ」
カズエは、話の途中で一口コーヒーを飲んだ後、ジンに対して今まで以上に真剣な視線を返す。
「人間の神経が脳からの命令を伝える速度は、大体300m/s。だけど、あなた達PSFユーザーの戦闘時においての伝達速度は、そんなものじゃない。ざっと見積もっても、あの戦闘時には常人の十倍以上が出ていたわ」
「・・・・・・」
「貴方はヴァルゼリオンによってPSFに目覚めた。そしてヴァルゼリオンに搭乗し続ける事によって、貴方の脳は極限状況を与えられ続けた。それによって貴方の脳と神経、それに付随するように肉体が強化・・・・・・いや『進化』と言っても良いほどのレベルで変わり続けた」
「何が言いたい?」
「・・・・・・ヴァルゼリオンへの搭乗をやめなさい」
「はぁっ!?何言ってんだ!!」
「貴方はヴァルゼリオンに乗り続ける事によって、人間ではなくなるからよ」
「人間じゃなくなる?角や尻尾でも生えてくるってのか?」
「外見上は変わらないわ。それよりも、もっと重要な問題が発生するの」
「重要な問題?姿が変わって、コンビニで立ち読みも出来なくなる以上に重要な問題ってなんだ?」
「茶化さないで・・・・・・。ジンは「ゾウの時間 ネズミの時間」って知ってる?」
「大体は・・・・・・。確か寿命の長さが違う生き物でも、主観的には同じ時間を生きてるって事だろ?」
「そうよ。そして、そういう生き物がコミニュケーションを取れると思う?」
「出来るんじゃないのか?犬や猫とだってある程度・・・・・・」
「私は戦闘中にジンに何度も呼びかけていたけれど?」
「・・・・・・」
 ジンは、カズエの言葉を聞いて、とたんに顔つきが変わる。さっきまでの余裕が消え、カズエの事を真剣に見据えていた。
「わかったでしょう?貴方の脳の戦闘時の思考速度は、もはや私達常人とは意思の疎通が不可能なレベルにまで達しているの。今はまだ戦闘時にPSFを使用した時に限定されるけれど、これ以上ヴァルゼリオンに搭乗し続けるとわからないわ」
カズエは、残っていたコーヒー全てを飲み干し、ジンに対して静かに語りかける
「ジン・・・・・・もうやめましょう?私は、貴方のこれからの人生を捨ててまでDCの敵討ちをしたくはない・・・・・・。きっと総統もナオトも、そんな事は望んでは―――――」
「話は終わりだな。そろそろ行くぜ」
カズエの話を遮るように、ジンはおもむろに立ち上がり、コクピットに向かう。
「ジン!」
ジンの態度に、焦ってカズエも立ち上がる。
「貴方は、復讐と自分の人生を引き換えにするつもりなの!?」
「ああ・・・・・・。俺が人間でなくなる程度で復讐が出来るんなら、安いもんだ」
「ジン・・・・・・」
「俺の復讐は・・・・・・俺が死ぬか、イスルギが滅びるか、どちらかをもってしか終わらないんだよ」
そう言って、ジンは立ち尽くすカズエを背に、再びコクピットへと搭乗した。残されたカズエにはコクピットへの扉が、ジンとの断絶を表しているように思えた・・・・・・。



「たった今、三宅島を通過。そろそろ自衛隊の警戒が本格的になってくるわ」
「了解」
ジンとカズエは、それだけの短い会話をして通信を切った。
今、二人の間には大きな溝がある。ジンに起きた体の変調を機に、二人の意見が大きく食い違った。
ジンの身を案じ、復讐を止めさせようとするカズエ。己が身よりも、復讐を成す事だけしか見ていないジン。結局ジンがコクピットに入り、操縦する事を止める事は出来ないため、カズエは自分の意見を通す事を止めて、ジンの身を守れるように出来るだけのフォローを行う事にした。だが、二人の間は縮まる事無く、重苦しい空気が二人を包んでいた。
しかし、ジン自身もいくら「自分はどうなってもいい」と言ったからといって、人間でなくなることを望んでいるわけではない。できる事なら、人間としての生を全うしたいとは思っている。だが、今の自分にとってしなくてはならないのは、イスルギ重工に対する復讐だ。馬鹿どもの手によって志半ばの死を余儀なくされた仲間達に、上司であり良き友人でもあったナオト。そして自分のような者に志と言う物を教えてくれたビアン総帥・・・・・・。
今のジンには、彼らの遺志を受け継ぐ義務がある。何をしてでもそれを成し遂げねばならない責任がある。そうである以上、たかが自分を守る為に躊躇う事など出来ない・・・・・・。
それなのにカズエは、死んだナオトの婚約者にもかかわらず、そのことを理解していない。大切な人が死んだのなら、その者の思いを何に変えても守らなければならない。そう考えるジンには、カズエの意思が理解出来ずにいた。その時―――――
「ジン!レーダーに機影・・・・・・!?」
「何だ!?」
ジンは、ヴァルゼリオンを停止し咄嗟に身構えた。だが見渡す限りの大海原には、空を飛ぶ海鳥は見えても、敵機などはどこにも見えなかった。
「カズエさん・・・・・・。本当に敵機がいたのか?」
「いる・・・・・・けど・・・・」
「なんだよ?いったいどうした?」
「説明がしにくくて・・・・・・自分でもレーダーで確認してみる?」
「・・・・・・!?」
ジンは、自分でもレーダーを確認してみるが、そこには確実に接近してくる機影があった。だが、妙な事に敵機をあらわす光点の動きが航空機とは思えないほど大きくぶれていて、高度を示す数字も定まらずに動き続けていた
(なんだ、この動き?こんな動きが出来る機体がイスルギに?)
ジンは、目視で敵機を捜すが、そこにも目視できる物は無い。
「ジン!上!!」
「何っ!?」
カズエの言葉に咄嗟にジンは上空に目を向ける。そこにあったのは、自分目がけて放たれた豪雨のような大量の小型ホーミングミサイルだった。
「奇襲か!?」
「大丈夫!ヴァルゼリオンならこの程度のミサイルなんか、Gテリトリーを張っていればいくら喰らってもダメージにはならないわ」
「ああ。だからこのまま突っ切る!」
ジンは、すぐさまGテリトリーを張り、ミサイルの雨を突き進む。すると、予想通りミサイルは、徐々にジンの前方から当たるようになる。これは敵機がジンの進行を止める事為の物だというのは明白だった。だが、カズエの言葉通りミサイルは全くヴァルゼリオンには通用しない。
「チッ・・・・・・たかがこの程度で――――――」
ジンは、自分の言葉に何か引っかかった。あきらかにこの攻撃はおかしい。そう思った瞬間、ジンの体は反射的にミサイルの射線から外れ、海面に向かって動き出した。ミサイルは少しずつジンを追尾し始めてきたが、ジンはさっきまでと違い、必死にミサイルの射線から外れようと動いていた。
「ジ・・・・ジン!どうしたの!?」
「多分・・・・・・あのままじゃ、まずい事が・・・・・・」
「まずい事?それってどういうこと?」
「わからない・・・・・・ただ何か――――」
その時、ジンはミサイルの中に一つだけ何か違う物を見つける。それを見た瞬間ジンは何かに気づき、背中に悪寒が走るのを覚えた。
「なるほど・・・・・・そういう事かよ」
「そういう事・・・・・・って、一体何が?」
「見ればわかるよ・・・・・・」
ジンは右手に重力の塊を生成し、飛来するミサイルに投げつける。塊は他のミサイルを巻き込みながら、ジンが違和感を感じたミサイルに命中する。すると、ミサイルの外装が砕けると同時に、中から大きな『網』のような物が飛び出し、宙を舞った。
「あれは・・・・・・」
「スパイダーネット・・・・・・。どうやらあのまま突っ込んでいたら、あれで動きを止められていたろうな」
「でも、スパイダーネットぐらいじゃ、ヴァルゼリオンは・・・・・・」
「悪いが、あのネットはアンチ・Gテリトリー仕様だ。ドミネーターでも十数秒は動きが止まる」
「!?」
「だが、あれを読むとはどうやら基本は忘れていないようだな、ジン」
「この声は・・・・・・」
「どこを見ている。後だ、ジン」
「・・・・・・オジキ」
突如聞こえてきた声に、ジンは、そう呟いてから後ろを向く。そこには今までに見た事の無い、真紅のガーリオンがあった。それこそがジンの叔父「ノブユキ・タカナカ(高中 信行)」の乗る機体『ヴァーミリオン』だった・・・・・。



変わらない、それが久々にあった叔父・ノブユキに対するジンの感想だった。真紅のリオン・ヴァーミリオンの機体ごしながらも伝わってくる独特の迫力に、ジンは無意識に身構える。
「久しぶりだな、ジン。お前が15の時にイスルギの家を出て行って以来だから、4〜5年ぶりか?」
「ああ・・・・・・。しかし、それだけ経ってもオジキは、変わらないな」
「無論だ。私の仕事は、あの方を護りぬくことだ。あらゆる手を使ってな・・・・・・」
「まだ言ってんのかよ・・・・・・。あんな奴、死んだほうがマシだろうが!」
ジンは嫌悪の感情を隠す事無く吐き捨てた。ノブユキは、なぜか父のレンジを守る為にその人生を費やしている。
自分にとっては生きる価値の無い男でしかない父・レンジを、なぜここまでして守るのかジンには理解できない。そして、その狂信とも言うべき信念は、新型のAMを持ってきてまで甥である自分を殺そうとまでしているのだ。
「オジキ、俺は、アンタが何を言おうが・・・・・・いや、何をしようが俺のするべき事は変わらない!邪魔するなら、オジキだろうが容赦はしない!!」
「だからどうした?」
「あ?」
「私はもとよりそのつもりだ。レンジ会長を守る為、お前を殺す。その為に試作型『ヴァーミリオン』を持ち出してきたんだ。闘うからには、確実に仕留めさせてもらう」
その言葉と共に、突然ジンの周囲の空気が重くなった。いや、実際に空気が重くなったわけではない。ジンが重くなったように感じているのは、ノブユキが内に秘めていた殺意を自分に対して真っ向から放ってきたからである。
(さすがオジキというべきだな・・・・・・だが、それでも)
ジンは一度だけ深呼吸をして、ゆっくりと拳を挙げて、構えを取る。
「俺は死ぬわけにはいかないんだよ・・・・・・」
ジンは、言い終わる前にその身を動かし、ヴァーミリオンの顔面部に向かい、左拳を真っ直ぐに放つ。完全に機先を制した動きに、ジンは完全に勝利を確信する。
だが・・・・・・
「ぬるいな」
その瞬間、ジンの視界からヴァーミリオンの姿が突然消失した。
「!?」
ジンは、全くの予想外の事にせわしなく視線を揺らす。
「こっちだ、馬鹿者」
「・・・・・・下?」
ジンが声の聞こえてきた方向に目を向けると、ヴァーミリオンが推進装置を切って自由落下をしていた。
「ここは空だ。避ける方法はいくらでもある」
ノブユキは自由落下を止めて体勢を立て直し、備え付けのライフルを構え、弾丸をばら撒いてきた。
「チッ!!」
ジンは舌打ちをしながら、前方に転がるようにしてばら撒かれた弾丸を回避し、そのまま間合いを詰めようとヴァーミリオンに向かう。
「あんたの強さはわかってるが・・・・・・それだけじゃ、ドミネーターとPTの差は埋められないんだよ!」
 ジンは一撃でカタをつけるべく、慣性を操作して瞬時に最高速を引き出す。だが・・・・・・
「差だと?その程度でか?」
ヴァルゼリオンと同時にヴァーミリオンも同じ方向に飛行し始めた。しかも、信じられない事にヴァルゼリオンとヴァーミリオンの間合いが全く変わらないのだ。
「な・・・・・・追いつけない!?」
「そうだジン。それにお前は、まだ私には及んでない」
そう言うと同時に、ヴァーミリオンはライフルを腰だめに構え直した。
「多くは言わん。死ね」
ヴァーミリオンのライフルから、大量の弾丸が放出される。だが、ジンは瞬時に弾丸の起動を見切り、高度を下降させて弾丸をやり過ごした。
ヴァーミリオンは、射撃を止めずに銃口でヴァルゼリオンを追って来た。だが、それと共にヴァーミリオンの速度が低下したのを確認したジンは、この機を逃がすまいとヴァーミリオンに向かって突撃する。
ジンは、ばら撒かれる弾丸を避けながら、ヴァーミリオンとの間合いを徐々に詰めていく。
右の拳に力を込め、一撃でトドメを刺すべく徐々に間合いを詰めるジン。だが、それとは対照的にヴァーミリオンはスピードを変える事無く、機械的にライフルから弾丸をばら撒き続けている。その行動を見て、ジンは勝利を確信した。
(悪いなオジキ・・・・・・怨みはあの世に行った時に聞くからな!!)
ジンは心の中でだけノブユキに対して謝りながらも、ヴァーミリオンを射程距離に捕らえた。意外にあっけなかったという思いもあったが、今はそんなことを考えている時ではない。今すべき事はノブユキを倒し、日本にいる父親のレンジ・イスルギを殺すことだけなのだから。
気の迷いを振り切るかのように、右腕を振りあげたその時、二発の弾丸がヴァルゼリオンを直撃する軌道で接近してきた。
もはや避けるのも面倒なのだが、万が一を考えてジンは弾丸を接触スレスレで避けた。
しかし、その瞬間ジンの背筋に突然冷たい物が走った。はっきりとはわからないが、その感覚から今までの物とは比べ物にならないくらい危険な物だと言う事が本能で理解できた。
ジンは、咄嗟に自分が避けた弾丸に視線を送った。だが視線の先にあった物は弾丸ではなく、凄まじい閃光だった。
「何っ!?」
「ま・・・・まさか、これ!?」
ジンとカズエが声を発すると共に、閃光はジンの視界を完全に覆った。世界が真っ白になった瞬間、ジンはノブユキの言葉が聞こえた気がした。
『所詮、お前はこの程度だ』と・・・・・・。

7
「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」
ヴァルゼリオンに感覚を転送していても、自分の体に大量の冷や汗が流れるのをジンは感じていた。
今のは一体なんだったのか・・・・・・。全て自分の目で見ていたにも関わらず、全くわからなかった。
自分の脇を通過したはずの弾丸に危険を感じ、視線を送った瞬間に視界全てが閃光に包まれた。
だが、ジンの眼にははっきりと映っていた。その閃光の中にあらゆる物が飲み込まれていくのを・・・・・・。
咄嗟に慣性を操作して回避した為に、何とか巻き込まれる事は無かったものの全く安心は出来なかった。
「さすがに、しぶとく生き残る事には長けているな」
「あんたにガキの頃から鍛えこまれたからな・・・・・・」
ジンはノブユキの挑発に軽口で答えるが、内心は平静でいられなかった。DCという軍事組織に入って数年と、日は浅いながらも知識に関しては連邦の情報すらも叩き込まれている。それでも、今までこんな兵器は見も聞きもしなかった。
ヴァーミリオンは、あの全てを飲み込む閃光を発する瞬間まで火器は持ち替えていない。今もライフルだけしか持っておらず、しかもライフルからは閃光の出る寸前まで弾丸がばら撒かれていた。
ライフル自体は、どう見ても普通の型をしている。マガジン部分も一つのみで、弾丸を自在に使い分ける構造にはなっていない。ジンは、考えれば考えるほど体温が下がっていくような感覚に襲われた。
その時・・・・・・
「G.C.W・・・・・・」
「!?」
カズエが不意に呟いた言葉がジンの耳に妙に残る。G.C.Wというのは、あのライフルの事なのか?そして、なぜカズエが知っているのか?ジンは、混乱寸前の頭を平静に保つのがやっとだった。
「さすが、『顔見せぬ女傑』カズエ・ライドウ女史。いや、『G.C.Wの開発者』カズエ・ライドウ博士と呼ぶべきか?」
「・・・・・・」
カズエの顔色が曇るのが、ジンにもわかった。ジンは、カズエが自分と知り合う前から輝かしい功績を残しながらも、「後々、面倒だから」という理由で表に出て来なかったのを知っているし、何をしたのかというのも知っている。
それでも、今まで「G.C.W」という物は聞いたことが無かった。そしてカズエが黙ったまま顔を曇らせると言う事は、よほど触れられたくなかった事実なのだと言う事はすぐにわかった。
しかし、ノブユキは無遠慮に話を進める。
「さすがに驚いたみたいだな、ライドウ博士。貴女はG.C.W理論を完成させておきながら全てを放棄した。だが捨てる神あれば拾う神ありというのは本当でな。研究員の一人が情報をイスルギに売り、それをイスルギが完成させていたのだ。完成度は見てのとおりだ」
「!!」
歯軋りの音がジンにまで聞こえてきそうなほど、カズエは強く歯噛みをした。それは、カズエにとってG.C.Wが忌まわしい物であると言う事の何よりの証明だった。
「カズエさん・・・・・・。G.C.Wってなんなんだ?」
「・・・・・・」
カズエにとって、聞かれたくない事だというのはジンも理解している。だが、それでも今聞かなくてはならない。相手の武器がどういう物かがわからなければ勝てる確率が低くなる。ノブユキとの戦いにおいては、一つのリスクで命を落とす結果になりかねないのだから・・・・・・。
「カズエさん・・・・・・。アンタにも思い出したくない過去があるのはわかる・・・・・・。だが、今はそんな時じゃないんだ!」
「え!?」
「闘う為だろうとなんだろうと、今は理由なんか問題じゃない!!今、闘えなければ死ぬんだ!!」
「・・・・・・」
ほんの少しの逡巡の後、カズエは静かに呟き始めた・・・・・・。
「『Gravity Collapse Weapon(グラビティ・コラップス・ウェポン)』・・・・・・」
「なんだって?」
「『重力崩壊兵器』。元々は『星間航行用戦艦』につける武器として開発した物よ。それがあのヴァーミリオンが持っているというわけ。さしずめ『GCライフル』とでも言うべきかしら」
「重力崩壊兵器?それは、現在使われている重力兵器と違うのか?」
「全く違うわ。現在の重力兵器は、『多量のエネルギーによって、射出する弾丸の重量を上乗せする』という方式が使われているの。
重力兵器が多量のエネルギーを使うのは『高重力によっておこる物質の縮小』の対策として『弾丸の周囲に張り巡らせるエネルギーフィールドの量を増やす』からなの。
この為に、重力兵器は本来想定されていたものよりも燃費の悪い代物になった。でも・・・・・・」
カズエは、その先の言葉を続けるのが辛いかのように言葉を止めた。だが、一度呼吸を整え、カズエは迷う事無く言葉を続ける。
「G.C.Wは違うわ。極限までに重力をかけられた弾丸と弾丸を接触させる事によって重力崩壊現象を起こして空間ごと爆縮させ、敵機に多大なダメージを与えるの。爆縮に必要なのは重力だけだから弾丸の大きさにこだわる必要はない。だから、通常の重力兵器とは比べ物にならないくらいエネルギー消費を抑えながら同等以上の破壊力を有するのよ」
「理屈はなんとなくわかったけど・・・・・・どうやってその弾丸を接触させるんだ?」
「多分、あのO/U(オーバー・スラッシュ・アンダー。上下二連式銃口をさす)ライフルの銃口から弾丸が発射されていると思うわ。私の造った物とは形式が違うから詳細はわからないけれど・・・・・さすがイスルギ重工と言う事ね。よくもあそこまで小型化したわ。そのうえ重力弾をアサルトライフルのように撃ち出すなんてね・・・・・・」
ジンは生唾を飲み込んだ。エネルギー消費の大きさと通常時の使いまわしの悪さは重力兵器のネックである。それが解消されたとなれば・・・・・・それは完全に兵器の常識を覆す事になる。
「講義の時間は終わったか?」
「・・・・・・」
「黙したか。まあ、お前ならわかるだろう。今の私に勝てるかどうかがな」
ノブユキの余裕の混じった皮肉がジンに向けられるが、ジンはただ黙ったままだった。ノブユキの実力は幼少の頃から鍛えられたジン自身が一番知っている。そのうえ、最強の兵器ともいえるG.C.Wを装備した最新鋭機・ヴァーミリオンに乗っている。更に一合目に置いて、ヴァルゼリオンはヴァーミリオンの速度に若干劣っているのを確認している。これは格闘戦用のヴァルゼリオンにおいては致命的なことだ。
もはやジンに勝機は無い。だが・・・・・・
「ククククク・・・・・・」
「!?」
「ハハハハハハハハ!!」
「ジ・・・ジン?」
この絶対的窮地にジンは笑った。その笑い声を聞いてカズエどころか、ノブユキすら驚きを隠せずにいた。
その笑いは、傍目から見れば完全に自暴自棄になっての行動としか思えないだろう。だが、ジンの笑いは決して自棄になっての事ではない。
「オジキ・・・・・・。アンタ老けたな」
「何?」
「確かにアンタの腕も知っている、ヴァーミリオンの性能も凄い、G.C.Wもどれほど恐ろしい武器かは理解できた。だが・・・・・・だからどうした?」
「・・・・・・」
「アンタに色々と教わってた時、一番最初に言われた事だよ。『武器も、実力も、勝負を決める絶対的な要素ではない』ってな。今アンタが言っていたのは、それを完全に否定した。俺にしてみれば幻滅だよ。反吐が出そうだ」
「だったら・・・・・・どうする?」
「アンタから教えて貰ったモノ・・・・・闘う術全てをアンタに叩き返す。そして俺は、アンタを超えていく」
「そうか・・・・・・。やれる物ならやってみろ。だが、教えてやろう。ガキが調子に乗りすぎるとロクな目に合わないということをな」
ジンも、ノブユキも互いに構えを取る。もはや二人の間に雑念は無くなるほどに二人の意思は研ぎ澄まされていた。ただ目の前の『親愛なる敵』を『殺す』為だけに・・・・・・。

8
対峙から数秒ほどの間も無く、ジンは先手は取った。間合いを詰めつつ、掌の中に重力の弾丸を作り出し、それをヴァーミリオンに投げつける。
 だがヴァーミリオンは間合いを詰める事を許さず、機体を落下させる。機体の推進力に重力を合わせ、機体スペックの数字以上の速度を出して間合いを取る。
 この勝負を決めるのは簡単だ。ジンは間合いを詰めてしまえば一撃でヴァーミリオンを破壊できる。反対にノブユキは間合いを詰めさせなければヴァルゼリオンの性質上反撃の恐れなく撃墜する事ができる。ともかく間合いを詰める事・・・・・・それがジンにとってノブユキから勝利を奪う為の最初にしなければならない事だった。
 だが、懸念しなければならないのが「トップスピードの差」である。先程の一合からもヴァーミリオンのスピードがヴァルゼリオンを上回っている事は明白だった。逃げる方のスピードが追う方に勝っているなら、絶対に追いつく事は無い。
 マトモな方法なら決してヴァルゼリオンはヴァーミリオンには勝てない・・・・・・マトモな方法なら・・・・・・。
(行くか・・・・・・)
 ジンはヴァルゼリオンの掌ではなく指先に重力を集めて小型の重力弾を作り出し、それを散弾のようにヴァーミリオンに放った。だが、無論その弾丸は簡単にヴァーミリオンに回避される。
「まだだ!!」
 ジンはヴァーミリオンを軸に時計回りに移動しながら、両掌に作り出した重力弾を連続で放ち続けるものの、その弾丸はことごとくヴァーミリオンに回避され、逆にすぐさまG.G.Wによって反撃してくる。
 その重力崩壊の余波までを必死に避けながらもジンはヴァーミリオンに食いついていくが、それでも徐々に間合いが広げられていく。反撃の合間にヴァルゼリオンが少し間合いを詰めても、ヴァーミリオンが詰めた距離以上に間合いを広げていくのだった。
 確実に不利になっていく状況に、カズエが声を出す。
「ジン!このままじゃ――――」
「わかってるさ・・・・・だから、これをやってるんだよ!!」
「え?」
 驚くカズエを尻目に、ジンはひたすらに重力弾を撃ち続ける。だが、その重力弾も焼け石に水程度にもならないほどに見切られ、逆にヴァルゼリオンの機体が余波を回避しきれずに徐々に損傷が大きくなっていく・・・・・・。
「どうしたジン?そんなザマで、ヴァーミリオンに勝てると思っていたのか?だとしたら、今までDCではずいぶんと甘い戦いをしていたんだな」
「・・・・・・」
 ノブユキの皮肉にも答える事無く、ただ愚直に重力弾を撃ち続けるジン。そして、ヴァミリオンは無傷のまま、ヴァルゼリオンは更に損傷を増やしつつ、ただ時間が過ぎて行った。もはや素人目にも勝負が見えてきた時、ジンはヴァルゼリオンの動きを止めた。
「頃合だな・・・・・・」
 そう呟いたジンは突如ヴァーミリオンに背を向け、最高速でその場から離脱をした。
「オジキ!!あんたが言ってた事だぜ?『目的の為なら目先の勝負は捨てろ』ってのはな!!」
 ジンは一方的にノブユキに通信した後、ヴァルゼリオンを最高速で飛び去る。
「なっ!?何するのジン!!なんで・・・・・・えっ!?」
 あまりの突然の事態にカズエは言葉が混乱していた。それを聞いてて、ジンは不謹慎ながらも笑いがこみ上げてきた。
「何って・・・・・・まあ、見てりゃわかるさ」
「見ればわかるって・・・・・・説明しなさいよ!!」
「同じ事二回説明するの面倒なんだよ。だからモニター見ろ」
「モニター?」
 カズエが見たモニターはレーダー画面になっていて、そこには自機に高速で接近する機体があった。
「これはヴァーミリオンでしょ?あっちの最高速が速いのはわかってるんだから、逃げ切れるはずが・・・・・・・」
「レーダーじゃない、ヴァルゼリオンのメインカメラに切り替えるんだよ」
「え?」
 カズエは、ジンの言われるままモニターの画面を切り替えるとそこに映っていた映像に驚愕した。
 カズエが目にした物・・・・・・それは、眼下に広がる日本列島。そしてその中心地である東京だった。
「ここは東京なの?じゃあジン、貴方はヴァーミリオンから逃げて・・・・・・」
「人聞きの悪い事言うなよ。オジキならキッチリしとめてやるさ。だからここに来る必要があったんだよ・・・・・・」
説 明をしながらもジンは降下する。降下した場所は東京湾で、いまだレジャースポットとして名高い港区・お台場の目と鼻の先だった。
 ジンがお台場の方へ目を向けると、大勢の人間がパニックを起こしかけていた。今日は日曜日、時刻は午後一時という最も混雑している時間だったのが影響しているのだろう。
「ジン、こんなに人が・・・・・・場所を変えないと大惨事になるわよ?」
「思っていた以上だな・・・・・・。これでこそ、ここに来たかいがあるもんだ」
「これでこそって・・・・・・貴方まさか!!」
「・・・・・・もう来たみたいだ。悪いが、通信は切る」
「ちょっ――――」
 カズエが何か言おうとしていたが、ジンは構わず通信のスイッチを切った。そして、ジンは追いついてきたヴァーミリオンを見据える。
ヴァーミリオンは不用意に接近することなく、およそ500m以上の距離を取っている。
「どういうつもりだ?まさかお前が敵前逃亡を行うとはな」
「今のがただの逃亡に見えるんだったら、オジキの目も頭も相当腐ってるな・・・・・・。オジキ、今の俺がどこにいるのかわかるか?」
「・・・・・・そうか、そうくるとはな」
 ジンは、ノブユキの声色が変わるのを聞いた。それにより自分の判断が正しかった事を感じ取っていた。
 ジンの周囲にあるのは日本の国土であり国民である。それは、ある意味イスルギにとっても財産でもある。それを破壊したのならばイスルギに対しても計り知れない損害があるだろう。
 それを見越したジンは日本を戦場にする事によってノブユキの動きを抑えようとしたのである。
「理解したかオジキ?ここは日本だ。戦場にすればマスコミが大量に押し寄せてくる。そんな中で、あんたは周囲を巻き込みながらG.C.Wを使えるか?」
「・・・・・・」
 沈黙を続けるノブユキの様子を見て、ジンは自分が大きくアドバンテージをとっていることを確信する。
「あきらめろ。日本に来た時点でオジキの負けは決まったんだよ。素直に降伏するならあんたの命は助けてやる。どけ」
 それはジン自身にとっても意外な言葉だった。イスルギに対する憎しみとノブユキに対する恩義が複雑に絡み合い出てきたものだった。
できるなら、ここで終わって欲しい・・・・・・。ジンはおくびに出さずそう願った。
 だが・・・・・・
「残念だ・・・・・・。本当にお前は弱くなったんだな・・・・・・」
「え?」
 思ってもいなかった言葉にジンは戸惑う。それとほぼ同時に、ノブユキは持っていたG.C.Wの狙いをヴァルゼリオンから外し、そばに立っているテレビ局へ向けた。
「!?」
「お前の愚かさ・・・・・・その目で確かめるといい」
 ノブユキはそういいきった後、何の逡巡も無く引き金を引いた。
「・・・・・・・・・・」
 ジンは一瞬、目の前で何が起こっているのか認識できなかった。ノブユキが撃った弾丸は地上付近でGC現象を起こし、その場にあるものを全て消し去った。そこに存在する大量の無辜の人々と共に・・・・・・・・。

9
「凄まじい光景だな。さすがG.C.Wと言うべきだな」
ノブユキの視線の先には、一瞬で全てが破壊されたお台場があった。細かい惨状まではわからないが、この状況から察するに、逃げ惑っていた人々は完全に屍骸すら残らず消し去られているだろう。
「私がなぜこんな事をしたか・・・・・お前にはわかるか?」
今だ途惑うジンに、ノブユキは語りかけてきた。
「無駄だからだよ、お前の立てたプランがな。お前は日本を盾にすれば私が躊躇すると思っていただろうが、実際はそんなに甘くは無い。
忘れたわけではないだろう?今の日本はイスルギが無ければ、機能しない事を・・・・・」
ジンはノブユキの言葉に沈黙をし続けるが、それは否定を示す態度ではなかった。今の日本がイスルギの掌の上というのは日本を離れる前から知っていた。
新西暦になる前から小型化したレールガン等の専売による兵器販売によって得た莫大な資金を政府に献金する事で強力に癒着し、自分達と争う企業を合法・非合法問わず、いかなる手段を使っても排除してきたイスルギは、もはやコングロマリット(複合企業)の領域すら逸脱し、完全に日本を裏から支配していた。
「例え、このような事があっても誰もイスルギと争う事などしない。日本にいる限り、イスルギと敵対する事は死に直結するからだ。今死んだ者達の家族も、破壊されたテレビ局もイスルギを糾弾する事は出来ない。
わかるだろう?この国にはお前の盾になる物など存在しない。いくらお前が逃げようと、私は全てを破壊するだけだからな」
甘かった・・・・・・・ジンは自分の甘さに辟易した。イスルギの日本に対する影響力の大きさは知っていたはずなのに・・・・・。
それどころか、このまま闘い続けると日本を焦土としてしまうのは明白だった。それはジンにとっても本意ではない。
(どうする・・・・・どうすればいい?)
打つ手を封じられたジンは懊悩する。だが、それをノブユキは悟ったのかジンの様子を嘲笑う。
「ジン・・・・・お前は勘違いをしていないか?」
「なに?」
「お前は、私との戦いを『戦争』として捕らえているだろう。DCに毒されたかどうかは知らないが・・・・・私に勝ちたいのならそんな甘い考えは捨てろ」
「甘い・・・・・だって?」
「そうだ。この戦いは『戦争』じゃない。政治、利益・・・・・およそ考えられる他者の意思による終結は無い。ただ、どちらかの息の根が完全に止まるまで殺しあう『死闘』。
それが私達の間にある唯一の物、それ以外は不要物にすぎない。もしお前が、私への殺意以外の感情を持って闘うと言うのなら、お前は決して私に勝てない!」
「!!」
ジンは頭を殴られたかのような強い衝撃を受けた。ノブユキが言っていた言葉は、昔から彼がジンに教えてきた言葉だ。ジン自身も幼い頃からそれを実践してきた。
だが、DCに入ってからはそれだけですまない事も知った。勝つだけでは意味の無い現実も知った。なにより、殺意だけでは得られない物も知った。
だが・・・・・今、それら全てが無用なら・・・・その為に勝てないのなら・・・・・・。
「わかったよ・・・・・アンタの言いたい事が・・・・・やってやるよ!日本全部を焦土にしようが俺はあんたを殺す!!」
「腹をくくったようだな・・・・・・ならば、来い。それでも勝てぬ現実を見せてやろう」
「行くぜぇぇッ!」
ジンは拳を握り、自分の中の殺意を込めてヴァーミリオンに襲いかかる。
だが・・・・・・
「!?」
突然、発生させていた反重力が消失した。通常重力に戻ったヴァルゼリオンは空中を飛ぶ事が出来ずに、海面へ落下をする。
「な・・・・・なんだ?まさか動力系に異常が!?」
ジンは、ヴァルゼリオンのコンディションを確認しようとする。だが、その瞬間に強制的にヴァルゼリオンとの直結が切断された。
「リンクの切断まで!?一体どうなってんだ!?」
ジンは、パニック寸前になりながらもカズエとの回線を復帰させ、交信を行う。
「カズエさん!トラブルが起こった!!このままじゃ俺達は死んで―――」
「いいのよ・・・・・それで・・・・」
「え?」
ジンは一瞬自分の耳を疑った。あまりにカズエの言っている事が信じられなかったからだ。だが、それはジンの耳がおかしくなった訳でもなければ、カズエが嘘をついているわけでもなかった。
「私達は死ぬべきよ・・・・・。もう復讐の意味は無いもの・・・・・」
「意味が無い!?何でだよ!!俺達はDCの・・・・・ナオトの為に!!」
「ナオトもDCも・・・・・たった今死んだからよ」
「死んだ?たった今?」
「ジン・・・・・全ては終わったのよ」
ジンは、カズエの言っている事が全く理解できなかった。
だが、ジンがいくらもがこうと、既にコントロールを失ったヴァルゼリオンは落下をし続け、海面を越えて海底のヘドロに埋もれていった・・・・・・。
10
「どうゆう事だよ、これはぁっ!」
 操縦席から戻ってきたジンは、扉を開けると同時にカズエの胸倉を掴みかかり、そのまま壁際に叩きつけた。それでもカズエは無表情のままで、それがジンをなおさら苛立たせた。
「黙り込んでるんじゃねえよ!こんな事をしやがって・・・・・・あと少しで仇が取れるってのに、全部お終いじゃないか!!」
「お終いですって?」
 ジンの言葉に反応したかのように、カズエの表情が一変した。
「ジン・・・・・あなた本当にわかってないの?自分が一体何をしようとしたかを!」
「な・・・・・?」
 カズエの表情は、ジンが今まで見てきたものとは全く違う険しい表情だった。ジンは、カズエのその気迫に一瞬、気圧されて動きが止まる。すると、カズエは掴んでいたジンの手を振り払い、逆にジンの肩を強く掴んできた。
「あなた本当に忘れたって言うの!?私達が・・・・・・DCが、そしてビアン総帥が掲げていた理想を!」
「総帥の・・・・・・」
「そうよ!連邦には出来ない事をする為に・・・・・連邦には守れない物を守る為に・・・・・その為にビアン総帥が掲げた理想・・・・・忘れたなんて言わせないわ!!」
 いつのまにかカズエはその眼から涙を流していた。総帥が死んだ時も、ナオトが死んだ時も涙を流さなかったカズエの眼から大粒の涙が溢れ出していて、ジンは、その予想外の事に言葉を出すことが出来ず、カズエの言葉を反芻するしか出来なかった。
「ビアン総帥の・・・・理想」


 新西暦188年・アイドネウス島、連邦軍とDCの戦いは、ついに最終決戦に入っていた。戦局は完全に連邦に傾いていた。DCは初戦こそ制していたものの、その圧倒的な物量差によって、総帥であるビアン・ゾルダーク自らが、最強の特機・ヴァルシオンで出撃するという事を想定しておかなければならない事態にまで追い詰められていた・・・・・・。

「『守るべきものは何か?』・・・・・・ですか?」
「そうだ。お前は一体なんだと思う?」
 ジンは、ビアンからの唐突な問い掛けに目を丸くした。アイドネウス島決戦に備え、兵士達が緊迫しながら準備に勤しんでいる最中に、自分を執務室に呼んだビアンの考えがまるで読めなかったのだ。
 ビアンは、椅子に座ったまま困惑しているジンを見つめていた。
「どうした?わからないか?」
「いや、そういうわけでは・・・・・・」
ジンは一瞬口ごもるが、当てがないわけではない。
「地球・・・・・・ですか?」
 疑問形にしてみたものの、ジンにはこれ以外の答えが浮かばなかった。ビアンは地球を守るためにDCを組織し、あえて連邦と敵対する道を選んだ男なのだから。
しかし・・・・・・・・
「違うな」
「え!?」
 ビアンの予想外の言葉に、ジンは驚きを隠せなかった。
「じゃ・・・・・・じゃあ、命ですか?」
「残念ながら、それも違う。それに私はDC戦争をしかけたんだぞ?今更、命が大事などとは口が裂けても言える訳が無い」
 地球でもなければ、命でもない・・・・・・。答えのヒントすら見つからず、ジンはさらに困惑した。
 それを見ていたビアンは、苦笑しながらも静かに語り始めた。
「私はな・・・・・・『未来』だと思っている」
「未来・・・・・ですか?」
「そうだ。今生きている者は、過去から未来へ様々な物を繋げていく義務がある。歴史、文明、思想、遺産・・・・・・それは今現在生きている者達が命を捨ててでも、未来に向けて護り通していかなければならないと私は思っている。
 だからこそ私は、連邦との戦争において都市破壊を最小限に食い止めるように厳命をした。残念ながら護る事はできなかったがな・・・・・・・」
「・・・・・・・」
 ジンは表情に影を見せるビアンを見て、ようやくDC戦争でのビアンの姿勢を理解したような気がした。それと共に単純に『戦争だから』と割り切ろうとしていた自分の思慮の無さを突きつけられた。
「ジン、今の私の思想は単なる自己満足のようなものだ。そして、その自己満足も私自身の弱さによって押し切る事ができなかった・・・・・・・」
「総帥・・・・・・」
「だが・・・・・・・いつか私の出来なかった事をやり遂げる者が出るはずだ。本当の意味で地球の未来を守りきる事が出来る者が・・・・・・」
 ビアンは顔を上げると、ジンの目を真っ直ぐに見つめる。
「ジン、もしできるならば、私の理想を継いでくれ」
「俺が!?」
「ああ、だがお前がかならずしもやり遂げる必要はない。お前が無理でも次の世代に、そしてその次の世代へ思いを託し続けてくれ。それこそが私がお前に託せる希望なのだ」
「総帥・・・・・・」
 ジンは覚悟を決めた。現在ではない未来の為に、敬愛するビアンの信念を信じ、その希望を継ぐ事を心に誓った。


 それが、ジンがビアンとの最後の会話になった・・・・・・。それ以来ジンは、心にビアンとの最後の会話を刻み付けてきた。そのはずだったのに・・・・・・。
「俺は・・・・・・また見失っていたってのか・・・・・・」
 ジンは、自分の体から力が抜けていくのを感じていた。結局、今まで為すべき事だと思っていた復讐など望まれてはいなかったのだ。
 そして、カズエが言っていた言葉の意味もようやく理解した。
「俺は・・・・・・ビアン総帥を・・・・・本当に殺してしまった・・・・・・」
「思い出したみたいね・・・・・・」
 カズエはジンを掴んでいた手を離す。すると、ジンは立っている事すらできずに床に崩れ落ちた。茫然自失のジンにカズエは静かに言葉を続ける。
「ジン・・・・・・私だって、ヴァーミリオンに勝つにはジンの言ったとおりにするしかないと思う。でも、それをやって勝ったら私達はビアン総帥やナオトの思いを完全に裏切ってしまう!
 私には・・・・・・そんな事が出来なかった。死んだDCの同胞の遺志を裏切って生きていく勇気なんか無かった・・・・・・」 
 徐々に声が小さくなるカズエの様子を見て、ジンにはカズエの辛さが伝わってきた。カズエだって死にたいと思っているわけではない。むしろ、人の命も自分の命も奪う事が出来るほど強い人間ではない。
 そのカズエが自らの死を厭わないほどビアンやナオトの遺志を大切に思っていた・・・・・・ジンは改めて自分という人間の小ささを突きつけられた気がした。ならば・・・・・・
「わかったよ。死のう」
「ジン・・・・・・」
「カズエさんの言うとおりだ・・・・・・・。俺達が生きている意味は無いんだからな。あの世でビアン総帥に謝るよ。『貴方を裏切ってしまった』ってな」
 それは諦めや自嘲から出た言葉ではない。もはや無意味となった自分自身の行動を終わらせるにはそれしかないと思ったからだ。
 ジンの覚悟を理解したのか、カズエは何も言わずに自分のPCの前に座り、キーを叩いた。
 数秒後、画面にはタイマーが現れ、カズエのキー操作によって動き出した。そこには『BLOW UP(自爆)』と書かれていた。

11
 もはや、何かを考える事すらも億劫だった。パソコンの画面上のタイマー以外動く物の無い部屋で、ジンはカズエと共にソファーに腰をおろしたまま自分達の死を待つだけだった。
「静かね・・・・・・さっきまで必死になっていたのが嘘みたい」
 隣に座っているカズエがポツリとつぶやく。その表情には穏やかさすら漂っている。自分は、ここまで死を受け入れられるのだろうか?とジンは自問する。
 おそらく自分にはこんな表情を出すことは出来ない。ただ、無表情に淡々と死を受け入れるだけなんだろう・・・・・・。
 だが、たった一つカズエに聞きたい事があった。自分だけでは決して答えの出る事の無い、胸の中にある『違和感』を消す為に・・・・・・
「カズエさん・・・・・・」
「何?」
「俺のここまでの戦いって・・・・・・意味があったのか?」
 それはカズエにとっても答えづらい問いだったのだろう。カズエは黙ったままだった。
 その沈黙が長かったのか、それとも短かったのかジンにはわからない。だがカズエはハッキリと答えた。
「意味は・・・・・・有ると思う」
「そうか・・・・・・」
「でも、勘違いしないで。例え意味があったとしても、現状を打破できない事には変わりないわ。そうである以上、私達のとっての意味は単なる言葉遊びの域を出ないわ」
「そうか・・・・・・」
 カズエらしい答えだ・・・・・・ジンは素直にそう思った。すると、ジンの心を見透かしたのかカズエが質問を返す。
「・・・・・・自分のやってきた事に自信が無いの?」
 一瞬言葉に詰まった。本当なら「違う」と言うべきだし、今までのジンならはっきりと言っていた。それが、この胸に残る違和感の正体なのだろうか? ジンは自問を続けた。
 すると・・・・・・
「え?」
 いつのまにか、カズエはジンの頭を抱いていた。
「・・・・・・カズエさん?」
 それに対して気恥ずかしさを感じながらも、ジンはカズエの腕に身を委ねていた。
「不安になる事は無いわ・・・・・・・。貴方は貴方の出来る事をしただけだもの」
 まるで子供をあやすように優しくジンを抱きしめながら、カズエは諭すように言葉を続ける。
「ジン・・・・・・。貴方がした事は良い事ばかりじゃない。でも、きっとナオトもビアン総帥もわかってくれるわ。貴方がした事はビアン総帥と同じ事なんだから」
「ビアン総帥と?」
その時、ジンはカズエの言葉に引っかかりを感じた。だが、カズエはジンの様子に気づかないのか言葉を続ける。
「そうよ。貴方もビアン総帥も、自分の正義を信じて・・・・・そして最後まで戦ったんだもの・・・・・」
 ジンには、カズエが自分を案じているという事が痛いほど伝わってきた。だが・・・・・
「やめろ・・・・・・」
「え?」
ジンは、カズエの腕を振り払って立ち上がる。
「どうしたの?ジン・・・・・」
「ビアン総帥と俺が同じだって? 冗談でもそんな事言うな!!」
「!?」
ジンの言葉に困惑を隠せないカズエ。だが、その事すらも気に止めず、ジンは叫ぶ。
「ビアン総帥は、確かに死んだ・・・・・・。だが、それは俺達とは違う!! あの人は、自分の未来を託す者を見つけながらも、決して諦めなかった!! 決して『負けて当然』なんて思わなかったんだ!!俺達と違って――――」
 そこまで言って、ジンはようやく気づいた。自分の感じていた違和感の正体を。
「なるほど・・・・・・納得できないわけだよな・・・・・」
 ジンは自嘲の笑みを浮かべて呟いた。こんな簡単な事だったのだ。それすら無視して何がDCの兵士だ・・・・・・・。今のまま死んでは、それこそビアン総帥達の死を無駄にしてしまう。
「よし・・・・・・」
 ジンは、一度深呼吸をし、キーボードの操作を行う。
「ジン! 何を!?」
「操作系統をもう一度起動させる。こうしないと叔父貴と戦う事すら出来ないからな」
「戦うって・・・・・・貴方、まだ戦うつもりで・・・・・・」
カズエが、ジンの右腕に飛びつきキーボードから手を引き離した。
「まだわからないの!! ジンとヴァルゼリオンじゃ、あの機体には正攻法じゃ勝てないのよ!?」
「わかってるよ」
「だったら、どうするつもりなのよ! 本当に日本に住む人達を犠牲にするつもり!? 貴方はビアン総帥の意思を冒涜するつもりなの!!」
「だからだよ・・・・・・ビアン総帥を冒涜するわけに行かないから無理でも戦いに行くんだよ!!」
「!?」
「総帥はハガネクルーの連中相手に戦った。自分の目的を継ぐ者に対しても、決して遠慮する事無く最後の瞬間まで勝利を信じて戦ったんだ・・・・・・。
なのに・・・・・・・俺達が『あの敵には勝てない』って、諦め半分で死ぬなんて、それこそビアン総帥に対する冒涜だ!!」
「え?・・・・・」
 驚愕の表情をカズエは浮かべ、同時にジンの腕を握る手の力が緩んだ。ジンはカズエの腕を振り払い、すぐにプログラムを起動させてコクピットへと向かう。
「ちょっと待ちなさい!!」
カズエは、ジンとコクピットへのドアの間に割り込み、立ちはだかる。
「どけよ、カズエさん。俺は何をしても、もう止まらない」
「だったら、なんだというの? 私の事を力ずくでどけようって言うの? それに、ここに私が残ればプログラムを停止させる事だって可能なのよ? 何より貴方には自爆を止める方法は教えていない・・・・・・・。あと数分もしたらヴァルゼリオンも私達も消えてなくなるのよ!? それでも行くの? 無駄だとわかっていても――――」
「無駄じゃない! 俺が・・・・・いや、俺達DCのメンバーがビアン総帥から受け継いだのは決して諦めない信念だ。例え、何があろうとな」
二人の間に沈黙が漂う。そして・・・・・・・
「わかったわ・・・・・・」
 カズエは一度溜息をついてから、体をドアの前からどける。ジンは、カズエに対して何も言わないまま、ドアを開ける。
「・・・・・・十分間よ」
「え?」
「戦闘開始から十分間。それだけの時間を貴方にあげる。それまで自爆しないようにしておくわ」
「・・・・・・ありがとう」
「礼を言う必要なんか無いわよ。それに貴方の戦い方次第ではすぐに自爆を出来るようにしておくから。それでも・・・・・・行くのよね」
 ジンは深く頷いてからドアをくぐり、そして、シートを操作してコクピットへと戻った。
十分間・・・・・・・たったそれだけの時間、いや戦闘を終わらせるのには充分な時間と言うべきだろう。
 静寂の空間に心臓の鼓動だけが響く。力強く、闘争への意思を現すかの如く。
「待っていろ叔父貴、今度は失望させないからな・・・・・・・」

「来たか・・・・・・」
 ノブユキは静かにレバーを握りなおす。それはレーダーの反応よりも早く、ノブユキの第六感が感知した。無駄足覚悟で待ってみるものだと、ノブユキを微笑む。
 そして、それはやってきた。まるで海底火山でも爆発したかのように、海水が巻き上げられ、上空に停滞しているヴァーミリオンの機体を濡らす。
 その雨のように降り注ぐ海水の中にそれはあった。さっきまでとは違う、威風堂々たる気配を帯びて・・・・・。
「来たかヴァルゼリオン・・・・・。そして、まだ抗うつもりかジン!!」
 ノブユキは、そう叫ぶ自分自身の内から溢れる歓喜を抑える事ができなかった。



12
不思議なほどジンの心は落ち着いていた。さっきまでの荒れ狂う心は治まり、冷静にノブユキを見る事が出来た。
ノブユキは既に間合いを取り、G.C.Wの発射体勢をとりつつある。だが慌てる必要は無い。ジンは心を乱さず、自然体で立ち尽くす。
(G.C.W・・・・・。その威力は確かに凶悪だ。だが、カズエさんの言葉の中にG.C.Wを攻略するヒントがあったんだ)
銃口がヴァルゼリオンへ向けられる。嵐の前の静けさというべき一瞬の間。空気すらも固まるような極限の一瞬。
「死ね」
G.C.Wの銃口から重力弾が放たれた。常人には見えぬほどの小ささと速さでヴァルゼリオンへ襲いかかる。
しかし―――
「無理だ叔父貴、もう俺には届かない」
溜息でもするようにジンは呟く。そして、迫ってくる弾丸に対して接近、そのまま迷う事無く拳を突き出した。
「馬鹿者が。そんな事をすればお前の手が―――」
そう言ってノブユキの言葉は止まった。大方『消し飛ぶだけ』とでも続けるつもりだったのだろう。
だが、黙るのも無理はない。無傷なのだ、それまでどれほど回避しようとも避け切れなかったG.C.Wを無傷でやり過ごしたのだ。
この光景を見たら冷静沈着が売りのノブユキですら黙らざるを得なかったのだろう。
「どうした叔父貴? 何を案山子みたいに突っ立っているんだ?」
「馬鹿な・・・無傷だと?」
ノブユキは再びG.C.Wを構えヴァルゼリオンを狙う。
「どんな小細工をしたかは知らないが、そんな物ができないようにしてやろう!」
その言葉と共にヴァーミリオンが不規則な軌道を描いて空を飛ぶ。ジンはノブユキが完全に自分を消滅させようとしているのを感じ取った。
その慣性を消しての不規則な動きから、G.C.Wを撃ってくるのだろう。ヴァーミリオンの機動性なら初発の着弾までにはヴァルゼリオンを包囲するほどの弾丸を撃てるだろう。
ジンの予想通り、ヴァーミリオンの速度は徐々に増していく。既にレーダーではヴァーミリオンを捉える事は出来ない。しかしそれすらも想定内だ。
今は余計な物に頼ってはいけない。ジンは精神を尖らせノブユキが動くのを待つ。視覚と聴覚を極限まで稼動させ、ヴァーミリオンの動きを意識で追い続ける。
そして、時は来た。ジンの真上にいるヴァーミリオンから重力弾が発射された。それだけではない、次の瞬間にはジンの真後ろに回りこみ重力弾を発射する。
そのドミニオン・システムを持つ機体にだけ与えられた機動力を駆使し、ノブユキは最後の勝負に出たのだ。
(自機の最大の力を理解し、それを完全に引き出して対象を破壊する。叔父貴らしいな・・・・・・。だからこそ、真っ向から叩き潰す!!)
ジンは神経伝達速度を限界にまで引き上げる。徐々にスローになる世界の中、ジンは遅い来る弾丸に拳を放った。


「な・・・・・ありえん・・・・・ありえるはずが無い!!」
ノブユキは喉から搾り出すように声を出した。その声色からは動揺が伝わってくる。
無理も無い。常識的に考えればありえないだろう『重力弾が消失する』など・・・・・・。
だが、ジンはそれを行った。己が身に降り注ぐ重力弾全てを自らの意思で完全にかき消したのだ。
「簡単な理屈だよ叔父貴。笑えるくらい簡単な理屈だ。気づいた瞬間、それまでの自分の馬鹿さ加減に悲しくなるほどな」
困惑するノブユキを嘲笑うかのようにジンは語りだす。
「『重力操作』だよ。あんたが撃った弾丸同士が接触する前に、グラビティ・フィールドを反転させて、反重力の壁を作り、その際に発せられる斥力を利用して弾丸を減速させる。
 そこへヴァルゼリオンを接触させ、その瞬間に重力を操作して弾丸の重力をかき消した。弾丸同士が衝突しなければG.C.Wとしての効果は発揮出来ないっていうのが唯一最大の欠点だからな、そこを突かせてもらった。」
「接触した瞬間にだと・・・・・・そんな事が―――」
「ありえるのさ。最近覚えた能力だが、俺は脳神経の伝達速度を常人の数倍以上の速さに引き上げる事が出来る。それと同時にヴァルゼリオンの慣性を操作すれば肉眼レベルでは確認出来ないほどの高速行動が可能だ。使いすぎたら意識を無くすような諸刃の剣だが、使いこなせればこれ位は簡単だ。
だが、原理自体はカズエさんが最初に言っていたんだよな。海に落ちて頭が冷えるまで気がつかなかった自分が情けないよ
それよりもどうする? あんたの最大の武器は封じた。もう、あんたには勝ち目が無いぜ?」
「勝ち目が無いだと? どの口がほざく? 一合した時に気づいているはずだ。お前のヴァルゼリオンではヴァーミリオンには追いつけない。接近戦用の特機が距離を取られては無意味だろう。それにお前の言う事が正しければ、私はお前が力尽きるまで逃げ続ければ良いだけだからな。所詮貴様の浅知恵など無意味だと言う事だ!」
「・・・・・・あんたは思い違いをしている。二つもだ」
「何?」
「第一に、あんたの知っているのは過去の俺だ。今の俺はそれを完全に越えている。
第二にヴァルゼリオンはたかが特機・・・・・・スーパーロボットなんかじゃない。それを今から証明してやる!!」
ジンの叫びと共にヴァルゼリオンはヴァーミリオンに向かって襲いかかった。だが、その速度はヴァルゼリオンの最高速度の壁を破ってはいない。それを一瞬で見破ったノブユキは即座に間合いを離す。
やはり最高速度の差は大きく、ヴァルゼリオンとヴァーミリオンの間合いは瞬く間に広がっていく。
「貴様がどれだけ腕を上げようと、機械の限界は超えられない。その事を悔やみながら死んでいけジン!」
今までのノブユキからは想像も出来ない感情のこもった叫びと共に再びG.C.Wがヴァルゼリオンへ牙を剥く。
ノブユキの事だ。ヴァルゼリオンが重力弾に接近する前に重力崩壊を誘発させようというのはジンには容易に想像できる。
無論、ヴァルゼリオンなら慣性支配による停止や急旋回をすれば、難なく回避する事はできる。だが、それでは意味が無い。現在のヴァーミリオン、重力弾、ヴァルゼリオンが一直線に並ぶこの位置は、最もノブユキが油断するポジションなのだ。
これを逃してはならない。ジンの中にある戦士としての本能がそう告げている。だからこそ、ジンはその本能に従い咆哮する。無慈悲に獲物へと襲いかかるプレデターの如く。

13
ヴァルゼリオンは瞬時に最高速度へと到達した。だが・・・・・・まだ遅い。ヴァルゼリオンの現在の性能ではヴァーミリオンのような高速航行用機体に追いつくには不可能なのは既に痛いほどわかりきっている。ならば、どうすればいいのか? 答えはわかりきっている。『推進力を更に加える』だけでいい。
ジンは現在の自分にとっての最大限まで脳の知覚神経を加速させる。徐々にスローになる世界の中でジンは極限まで集中力を高めていく。
今から行う事は、試した事どころか数分前までは思考すらしなかった策だ。それも確実に成功する保証も無ければ、本当に勝てるかも保障できないような、おおよそ策と言うにはあまりにも頼りないものだ。
だが、ジンは自身の勝利を確信していた。そして、決して揺るがぬ信念が勝利を呼び込む事を知っていた。
今、銃口を向けるヴァーミリオンへ、ジンは目を据える。
「応えろヴァルゼリオン! 支配者と銘打たれたのなら、その力を見せてやれ!!」
その声と共に、ジンはヴァルゼリオンの右足を腰の高さまで上げ、力強く振り下ろす。同時に、足裏に先程と同じ斥力を生じる反重力の力場を発生させ、右足でその力場を全力で蹴りつける。
ヴァルゼリオンの力なら、本来この程度の力場などは簡単に砕く事が出来るが、今のヴァルゼリオンは機体にかかる慣性を完全に打ち消している。その為、破壊力は力場により反発し、機体そのものを弾き飛ばす推進力へと転換され、飛行速度を爆発的に加速させる。
ジンは、それを連続で行う事によってヴァルゼリオンの飛行速度を数倍まで引き上げ、ついには人間の知覚速度が到底及ばない領域にまで到達した。
それは本当に時が止まったような世界だった。相対速度によって雲も、太陽も、ヴァーミリオンも、銃口から発射する寸前の弾丸も凍りついたようにその場に留まり続けているように見える。そんな状況でヴァーミリオンに追いつく事は赤子の手を捻るよりも簡単だった。
既に背後を取られたにも関わらず、カメラをヴァルゼリオンとは全く違う方向に向けたまま動く事の無いヴァーミリオンを見て、ジンはずいぶん人間離れしたものだと苦笑しつつ、急停止しながら右拳を撃ち放つ。それと共にジンの世界も元に戻っていく。
「な!?」
勘か偶然か、ノブユキは背後にいるヴァルゼリオンに気づき、振り向きながらも回避行動を取った。最初に一合した時のように落下による回避だったが、今度の拳は完全に回避する事は出来ずヴァーミリオンの左腕はヴァルゼリオンの右腕が掠った為に打ち砕かれた。
だが、決めるべき一撃を回避されたものの、それでもジンにとっては好都合だった。当たる、当たらない以前に『ヴァーミリオンの間合いへと入った』という事実が重要だったのだ。
ヴァーミリオンのようなリオン系は、機体の特性として格闘戦に持ちこまれた場合に有効な機体の動作パターンが少ないのだ。元々は射撃兵器が主要兵装である為に当然の事なのだが、今のヴァーミリオンにとっては致命的な弱点でしかない。接近を許した事自体が機体の特性を殺した事に過ぎないのだから。
それを理解していたジンは再び力場を蹴り、間合いに踏み込みつつも腹部目がけて左足で横蹴りを放つ。完全な回避が困難だと判断したのか、ヴァーミリオンは回避行動を取りつつGテリトリーを張る。だが、それはヴァルゼリオンにとってはほとんど意味は無い。
ジンは薄紙に錐を通すかのようにヴァルゼリオンの足でGテリトリーを貫通し、腰部に激突した踵が左半身を完全に破壊する。
「このままでは・・・・・終わらん!」
ヴァーミリオンは、そのまま間合いに留まり、G.C.Wの銃口を突きつける。どうやらノブユキは自爆覚悟でG.C.Wを使う気らしい。
その行動はジンからしてみれば冗談のように思えた。ノブユキは徹底したリアリストだ。そんな男が命を捨ててでも自分を殺そうと・・・・・いや、むしろレンジ・イスルギを守ろうとしている。
自分の父親はそれほどの男なのか? 命をかけて殺そうとしていた相手はそれほど必要とされているのか? ジンには未だ父親を理解していない事を知った・・・・・。
だが――――
「感情と勝負は別なんだよな? 叔父貴」
ジンは、蹴りいれていた脚でヴァーミリオンに引っ掛け、そのまま回し蹴りを入れるように脚を振るう。その動きによって銃口を機体から外し、同時にヴァルゼリオンの後方に力場を生成し、そこへヴァーミリオンを叩きつけた。
ヴァルゼリオンの脚と目に見えぬ力場の壁に叩きつけられたヴァーミリオンは一瞬にして圧壊し、リオン系独特の流線型のフォルムが無残に歪んだ。
それと共にヴァーミリオンの残った手足の動きが止まり力無く垂れる。完全に死に体になったヴァーミリオンを重力に逆らう事無く落下して行く。ジンはそれが演技では無い事を見切り、海面近くでヴァーミリオンを掴み、脳の状態を元に戻しながらノブユキへと通信する。
「叔父貴、アンタの負けだ。もうこの状態で戦えると思うほど頭も悪く無いだろう?」
「そうだな・・・・・。こうなってしまっては戦えない。G.C.Wの無いヴァーミリオンでは太刀打ちが出来ないからな」
観念したと言うより、まるで他人事のようにノブユキはつぶやく。
「私にはお前がどうしようが負けるはずが無かった。逃げるにしろ撃ち落とすにしろいくつもの戦術を詰み将棋のように淡々と実行していくだけでよかった。それほどお前の戦い方は無駄が多すぎた。
だが、それは常人の狭い了見でしかなかったようだ・・・・・・。お前は既に人とは違う場所にいたのだからな・・・・・クククク」
ノブユキは笑った。自分の浅はかさに対してかジンの強さにあきれてかはわからないが、ジンはノブユキの言葉を黙って聴き続けた。彼の言っている事は正しい。自分が垣間見た『世界』は人間には見る事の無い世界だ。
そして、普通の人間である事を諦めたのも自分の選択だ。復讐の為にそうある事を望んだのだ。人とは違う物になろうと、イスルギに関わる物を滅ぼす。それこそが今のジンに出来る事なのだ。
それを察してか、ノブユキはジンに語りかける
「さあ、私を殺せジン。私はお前との闘いに負けた。敗者には権利など無い。お前の望むままにしろ」
ノブユキの言葉を聴いて、ジンの手に自然に力がこもる。それはヴァルゼリオンに伝わり、ヴァーミリオンの機体を更に破壊する。
ヴァーミリオンからは何の反応も返ってこない。本当にノブユキは死を覚悟しているのだ。
迷う事は無い。ただ、自らの意思に従えば良いだけなのだ。それが最良の方法であると自らがわかっているのだから。
ジンはその腕に力を込め、ヴァーミリオンを破壊する。しかし、ジンはコクピットブロックには傷つけず、ノブユキをコクピットから引きずり出した。
「ジン! 何故だ!? 何故殺さない!!」
ノブユキの困惑を帯びた叫びが、通信機越しに響く。
「お前は復讐をするんじゃなかったのか? その為なら私にも容赦しないんじゃなかったのか!? それなのに何故情けをかける!!」
「終わったからだよ・・・・・・復讐がな」
「なに?」
「まあ、今まで俺がバカだったってだけだ。それ以上でもそれ以下でも無い。
それより叔父貴、俺に「望むままにしろ」と言ったな。その言葉に嘘は無いなら、こっちの要求を呑んでもらう」
「要求? 一体何をするつもりだ」
「オヤジに・・・・・・いや、イスルギ重工会長 レンジ・イスルギへの会見だ」


14
背中に回された手首に触れる鉄の冷たさが肌を刺す。腕は固定され、完全に自分の思うままには動かなくなっている。足元を見れば、脚は鎖ではなく金属の棒で固定され、歩く事もままならなくなっている。
やはり、信用されていないか・・・・・・そう思うとジンは苦笑するしかなかった。
思えば、よくここまでスムーズに事が運んだ物だ。ノブユキに父親・レンジとの会見の要請をしてから、数時間もしないうちにイスルギ本社の特別会議室での条件付会見を行える手はずが整っているのだから。ノブユキが、そしてイスルギが日本どころか連邦にも多大な影響を与えている事をまざまざと実感させられた。
「最悪ね、ここの男共は。女性の扱いを理解していないわ!」
隣の椅子に座っているカズエが、怒りをあらわにしている。
「つまんない事で騒ぐなよ・・・・・・。大体、俺よりはマシだろ?」
「なに言ってんの? これはマナーの問題よ。 人間として生きていく上で一番大事な事なんだから!」
彼女も拘束されているものの、自分と違って簡単な手錠だけですんでいるのだが、手錠をかける男が乱暴だったのに怒っているようだ。いくらノブユキの配慮によって安全が保障されているとは言え、こんな状況でよくそんな事だけでここまで怒れる物だ。やはり、女の方がこういう時の強さは上なのかと妙に関心してしまう。
ジンはカズエから視線を逸らし、強化プラスチックごしで自分の前にある椅子を見る。あと、少し待てばそこに親父が座るのだ。
「落ち着かないか? お前らしいと言うべきか・・・・・・」
「充分、落ち着いてるよ。変な気も無いしな」
「それならいいさ。私もクビにならずにすむ」
ジンの返答にノブユキは苦笑していた。やはり実力で凌駕していようが、ノブユキにとって自分は甥っ子なんだと言う事を改めて理解し、妙にこそばゆくなる。
しかし、改めて考えると非常に奇妙な話だ。自分は数時間前まではイスルギ全てを破壊しようと目論んでいたはずなのだが、今の自分にはそれほど単純に事が終わらせられるとは微塵も思っていない。
無論、レンジは今でも嫌悪の対象だ。それは少しも変わらない。それでもなお、ジンはレンジとの会見をやらなければならない。
ノブユキの携帯に、着信が入る。それに出てすぐにノブユキの表情が変わった。一分もしないうちに電話は切れる。
「来るぞ。お前は私が許可するまで動こうと思うなよ」
ノブユキの言葉と共に、向こう側のドアが開いた。それと共に自分とカズエ以外の人間の緊張が増し、その場の空気が不思議なほど変わる。
開かれたドアから、レンジは悠然と部屋に入り憮然とした表情を浮かべたまま、ジンの正面にある椅子につく。
言葉は出なかった。喉の奥に言葉が詰まっているのか、頭の奥に殺意が渦巻いているのかジン自身にもはっきりとはわからないほど、感情が混沌としていた。
「・・・・・三十分だ。それ以上は無い」
「え?」
「こちらは忙しいのだ。たかが一人のガキを相手に貴重な時間をドブに捨てるような真似などしてはいられない」
「!!」
ジンはレンジの言葉に反射的に立ち上がるが、即座にノブユキによって押さえつけられた。それでもなお、眼光に殺意を込めてジンはレンジを睨む。だが、レンジはジンの視線など意にも介していないようだった。
「言葉では反論出来ないようだな。それがお前が数年かけて得た物なのか? DCもずいぶんとくだらない事を教えていたのだな・・・・・」
レンジの言葉一つ一つがジンのプライドに容赦なく突き刺さる。自分にとってかけがえの無い物を容赦無く抉りとっていく。
殺したい・・・・・この男を殺したい!! 沸き立つ殺意が吐き出されるのを待ちきれずに体中を駆け巡る。
だが、レンジの言っている事は当然の事だ。レンジは経済力によって日本を支配下に置いているイスルギ重工の会長。自分はそのレンジの息子とはいえ、今はただのテロリストと言う立場でしかない。これはどう取り繕おうが消しようの無い事実だ。
どんな奇麗事を言おうと、現実を動かすのは一定の立場にいる人間なのだ。暴力で世界は壊せても、世界を変える事は出来ないのである。
「・・・・・・すみません。こちら側が無礼でした」
カズエが、ジンの態度を謝罪すべく深々と頭を垂れる。
「イスルギ会長の、こちら側の要望を汲み取ってくださった寛大な処置に対してこのような非礼、まことに申し訳ございません。今後このような事は致しませんので会見を続けさせてください」
謝罪するカズエに対し、レンジとノブユキ以外の人間から嘲笑が漏れる。それを見ていたジンは食いちぎれそうなほど唇を噛み締める。
自分は何をしているのだ?と・・・・・
「いいだろう。ノブユキ、そのガキを離せ」
 すぐさまジンの拘束は解かれる。
「いちいちガキのやる事に目くじら立てる必要は無いか」
「お心遣い、感謝いたします」
カズエは再びレンジに礼を言う。そして、ジンに対し視線を送り、ジンはそれに返事をする様に頷く。
カズエのフォローはここまでだ。後は自分でどうにかするしかない。ジンは一度深く呼吸をしたのち、レンジの目をまっすぐに見据えた。
「以前・・・・・イスルギ重工はその私設部隊を使い、DCを強襲し人員と資材、兵器を奪っていった。そして、歯向かう者は誰一人生かす事無く殺していった・・・・・・」
 ジンの言葉を聞いて、レンジは口唇が歪む。だがそれは苦々しく思っていると言う物ではなく、むしろ嘲笑に近い。
「それがどうかしたか? まさか『だから、お前を許さない』とでも言いたいのか?」
「違う。確かにその事を許せるかどうかは別だ。しかし、それ以上に納得のいかないことがある」
「ほう?」
「あの強襲で、イスルギに対して一体どんなメリットがあった? DCの規模は以前と比べ物にならないほど縮小していた。パイロットの技術に関しても同じだ。
例え、DCにあったドミニオン・システムを強奪するためだとしても、その後の報道管制や連邦政府に対する配慮に使った予算と比べたらデメリットが大きいはずだ。
そこまでして、あのシステムを欲しがるなんて、イスルギは・・・・・・いや、あんたは何を考えている?」
場が凍ったとでも言えばいいのだろうか? レンジはジンに続けて言葉を発する事は無く、ただ押し黙り続ける。その場にいる者達も呼吸音を立てる事すら憚られる空気に身を硬くしている。
レンジの沈黙は時間にして数十秒も経っていない。だが、今のジンにとっては貴重な時間である。焦ってはいけない・・・・・必死に自分へ言い聞かせ、凍った場が動くのを一日千秋の思いで待つ。
「仮定の話・・・・・として聞け」
レンジの口が動き始める。
「同じ事は二度とは言わん。もし、イスルギが連邦を打倒し、地球圏を統一しようとしているなら、お前はどうする? それを答えろ」
レンジの視線がまっすぐにジンの目を見据える。野心も狂気もその目からは感じられない。あの男が何を抱えているかは知らないが、今が奴の真意を引きずり出すチャンスだろう。
「答えは決まっている。あんたの計画の内容次第だ」
「ほう?」
ジンの答えにレンジが笑みを浮かべる。
「これは意外だ。『そんな事をするのは許さない』と言う答えを予想していたんだがな」
「生憎、俺もそこまで短絡的に考えてはいない。現状の連邦を見る限り、過剰なまでの軍事費削減による防衛能力の欠落は地球圏最大の問題だ。奴らは平和と言う物を不可侵の物と誤解し、全ての者に狂信的に押し付けてくる。
もしエアロゲイターのような存在が再び現れては、地球圏は以前の大戦のように抗戦する事は困難だ。それの根本的解決の為の連邦打倒なら俺も理解し・・・・・・協力も出来る」
「協力か・・・・・・。それでいいのか? お前はDCの仲間を殺させた私を許す事が出来るのか?」
「許すなんて無理だ。正直、俺はナオトを殺したキョウシロウと言う男を殺したい・・・・・・そして、それを命じたアンタを殺したい!!
だが、それじゃあ駄目なんだ。それじゃあビアン総帥の願った地球圏防衛を果たす事にはならない!! 俺も、隣にいるカズエさんも自分の感情を押し殺してでもDCの理念を守る。かつてビアン総帥が命を捨てても信念を貫いたように!! 本当に受け継がれていく物を誰かに伝える為に!!」
いつの間にかジンは立ち上がり、声を荒げていた。だが、誰も止める者はいない。彼らは、ただ立ちつくして呆然としている。ジンは再び椅子に座り、冷静に振舞う事に勤める。
「もし、アンタが連邦を打倒しようと言うなら、俺達はアンタの傘下に入る。俺とヴァルゼリオンならDC襲撃のような真似をしなくとも連邦軍と互角に渡り合える。そうすれば、大義名分を得る事も難しくは無いはずだ」
「それは交渉のつもりか?」
「そうだ。そして、俺は・・・・・いや、ヴァルゼリオンはその価値があるはずだ」
再び、この部屋を沈黙が支配した。これで、こちらが見せられるカードの半分は提示した。後はレンジの対応次第・・・・・・。ジンとカズエの両方に緊張が走る。
「そうか・・・・・ククク、そうかそうか・・・・・・よく、そこまで達した物だ。ビアンの教育は本当に素晴らしい物だったのだな」
ジンは目を疑った。笑っている・・・・・・レンジは何度も手を打ち鳴らして笑っている。
「そこまで答えたのなら、こちらも答えよう。私がDCを襲撃させたのは貴様の乗るヴァルゼリオンの中核であるドミニオン・システムを奪い、イスルギの物とする為だ。地球圏統一という目的の為にな。
だが、誤解するな。私は2代目総帥であるバン・バチュンに対して、再三の技術供与を頼み込んでいた。DCを復活させて余りある資金と引き換えに・・・・・・」
「それでも、バン総帥は拒み続けた。だから―――」
「そう。私はDC襲撃を決意した。もはやDCには以前のような力は無く、典型的なローリスク・ハイリターンの作戦だった。実質、こちら側が受けた被害は死傷者が数十名程度。
 五百人を投入し、その程度で済みながらドミニオン・システムの詳細データを奪取出来たのだからな。最も、一番欲しかった完成型は奪えなかったが・・・・・今となっては、それも無用だ」
レンジが指を動かすと同時に大型のビジョンプロジェクターが何かの映像を映し出した。
「カズエ・ライドウ博士。貴方の作り上げたドミネーターは非常に素晴らしいが、この地球圏を支配する機体としては力量不足だ。だから、こちらでそれ相応の物を用意させてもらったよ」
そこに映るのは、破壊されていくヴァルシオンRだった。ジンも開発に参加していたカズエから話を聞いているから詳細は知っている。
バンほどの実力者が搭乗し、ヴァルシオンとほぼ同等の性能を誇るRですら無残に破壊されていく・・・・・・・。
「これがイスルギの開発したドミニオン・システム搭載機『デバステイター(破壊者)』だ。新たな操縦システムを採用した事によって搭乗者制限を緩和させ、三機まで生産する事が出来た。これはそのうちの一機、『ヴォルバリオン』をキョウシロウに預けた」
「アイツに!?」
「キョウシロウは強い。素手でお前と同等の実力を持っている。そして、一つの勝利の為ならば、あらゆる犠牲を意にも解さない。
だが、お前にそこまでの真似は出来ない。どこまで強くなろうがビアンの意思を引きずり続けるお前には、そこまでの覚悟など無い」
「そんな物は覚悟じゃない! 奴はただの狂人だ!! そんな奴が必要だと言うのか!?」
「そうだ。少なくとも私が求める未来にはな!!」
レンジが手を上げると共に、部屋に居た男達が一斉にジンに拳銃を向けてきた。
「何の真似・・・・と言うだけ野暮だな」
「お前はキョウシロウの事を狂人と言っていたが、私にはお前達の方がそう見える。よくもここまで人を信用出来たものだ。寒気すら感じる」
「そうだろうな・・・・・」
予想はしていた事だった。わざわざ自分から飛び込んできた間抜けな敵を離してやる必要など無い。ノブユキも当然といった顔でこちらを見ている。
カズエも騒ぐ事をせず、目を閉じて沈黙している。
「ノブユキ、後はお前が処理をしろ」
無言でうなづいたノブユキは、銃を突きつけている男達を下がらせて自分の拳銃をジンの後頭部に押し付けた。
「やはり、こうなってしまったな」
ノブユキは溜息混じりに呟いた。
「私としては穏便に終わらせたかったのだが・・・・・・」
「叔父貴のせいじゃない。これは当たり前の事だからな、恨むのは筋違いだ」
「そう言ってくれると助かる。それじゃあ、終わらせよう・・・・・・・」
 部屋の中に乾いた銃声がこだました。

15
狭い会議室に銃声の轟音が響き渡る。周りに入る男達は銃口の先を凝視し、身動き一つ取らずにいる。
無理もない事だ。ノブユキの撃った弾丸はジンではなく天井を撃ちぬいていたのだから。そして、それこそがジンに与えられた最大の好機だった。
カズエはその場で姿勢を低くし、ジンが拘束された両足を全力で地面に蹴りつけると一瞬で四肢を押さえつける拘束具が分解される。それと同時にジンは右側面にいる男に向かい右の手の甲で顎を破壊し、左手で持っていた銃を奪い取った。
男達は慌ててジンに照準を向けようとするが、その反応は遅かった。一人を瞬時に無力化したジンは男を盾として使い、奪った銃で残りを無力化し盾代わりの男を蹴り飛ばす。
「カズエさん逃げるぞ!!」
手際良く男達を処理したジンは、既に手錠を外していたカズエの手を取り会議室の外へと駆け出し、その後にはノブユキもついて来た。
廊下では既に非常ベルが鳴り響いており、非常体制が敷かれ始めている。だが、ノブユキによって警戒が薄い箇所を選びながらヴァルゼリオンの置かれている格納庫まで比較的安全に向かう事が出来た。
それもこれも、全てノブユキのお膳立てがあっての事である。レンジがジン達を決してただでは返さない事を想定したノブユキがジン達を安全に脱出させる為に、細工した拘束具や比較的実力に乏しい警備員を配置していたのだ。無論、その代わりにヴァルゼリオンでイスルギ本社の破壊をしないと言う約束はしていたのだが。
それでも、以後どれほど不利になるかわかっているにも関わらず、自分達をサポートしてくれたノブユキのおかげで難なく脱出できるのだから、ノブユキには感謝しきれない恩が出来た事になる。
そんな事を考えているうちに格納庫のドアが見えてきた。ドアに入ると共にノブユキは手前のシャッターを下ろし、通路を塞ぐ。
「もう良いだろう、手を貸せるのはここまでだ」
「叔父貴、本当にありがとう。アンタのおかげで・・・・・」
「気にするな。今までやれなかった分の小遣いとでも思っておけ」
笑みを浮かべるノブユキの顔を見て、ジンは込み上げてくる物を必死に堪える。やはりこの男は自分にとって恩師であり、目標であった頃と変わっていないのだ。それでもレンジの計画がある限り、いつかはノブユキと再び戦わなければならないのだ。
「・・・・・・じゃあ、今度戦う時は少しは遠慮してやるよ」
「それまでに生きていればな」
ジンは感傷を隠すように悪態をつき、ノブユキに背を向ける。今はここを逃げるしか無いが、これからやるべき事は決まった。
レンジの切り札であるデバステイターの破壊とキョウシロウの抹殺。これを行えばイスルギの計画を防ぐ事が出来る。
完全に孤立無援の戦いを強いられるが、デバステイターがドミネーターと同等の存在ならば戦えるのは自分しかいないのだから。ジンは自然に血が滾り始めるのを感じていた。
しかし・・・・・・
「待てぇコラァ!!」
突然、聞こえた声にジンが反応すると突然何かが飛びかかり、ジンの腹部に衝突する。
「オラァァァァァッ!!」
それは巨体の男によるタックルだった。待ち伏せ? 叔父貴の仕業? まさか本当にはめられた? 頭の中に疑問が現れては消える中、ジンの体は即座に倒されたら危険だという判断を下した。腹部の痛みを堪えて腰を落として必死に耐え、数m.押し込まれてようやく止まる。
「やるなあ、俺のタックル止めるなんてよ!!」
「知るかよ!」
ジンは男を引き剥がそうと肘を振り上げる。だが・・・・・・
「シャァァァァ!!」
男はジンが肘を上げるのとほぼ同時に右手を股に潜らせてボディースラムを仕掛けてきた。ジンは即座に持ち上げられ一気に地面に叩き投げつけられる。
「クッ!!」
ジンは叩きつけられる前に抜け出す為に相手の左手の親指をへし折ろうと掴みかかる。だが男もそれを察知したのか左手をジンから離した。それに乗じて右手の拘束も解き脱出し、着地する。間合いを保っていては危険だと判断し、ジンは男から離れ拳を構えた。
「やるなあ・・・・・・キョウシロウが目の仇にするのもわかるぜ」
男は組み技系の構えを取って不敵な笑みを浮かべていた。ジン自身を超える2m.ほどの体型を見る限り、明らかに体力も耐久力も自分よりも大きい。しかも、念入りにスキンヘッドにしている為、こちらが掴む場所が明らかに少ない。背中まで伸びた自分の髪を面倒がらずに切っておけばよかったとジンは後悔する。
 ともかく、速さと手数で相手を牽制していかなければ、ジンは踏み込む為に腰を落とす。「痛っ!!」
真後ろから聞こえたカズエの声がジンの耳に突き刺さる。とっさにカズエの方へ目をやると見慣れぬ派手な色の髪の女が右手で自分の髪を弄りながらも左手でカズエの腕を捻り上げていた。
「アンタ、よそ見しすぎじゃない? 私が優しく無かったらこの人死んでいたわよ?」
「おいおいミユキ、乱入には早すぎないか?」
「だって、シンタロウに任せていたら、遊びっぱなしで時間かかるんだもの。こっちはさっさとお仕事終わらせたいの」
シンタロウと呼ばれた男は舌打ちをして黙った。最悪の状況だ。カズエが人質に捕られてはこちらとしてはどうしようもない。下手に手を出せばカズエの命が奪われてしまうのは必然だ。
冷静になるべきと自分を抑えようとしても、情けない事に感情ばかりが先走る。視線は定まらず、ミユキと呼ばれた女とシンタロウと呼ばれた男の間を何度も目が泳ぐ。
「言っとくけど、助けを期待しても駄目よ。ノブユキさんには強制的に休んでもらっているからね。ちなみに殺してはいないけどね」
「お前ら、叔父貴の命令で動いているんじゃないのか?」
「いーや、違うね。俺達は会長直々の命令で待ち伏せしていたのさ。何があっても良いようにってな」
ノブユキの命令では無いという事にジンは多少安堵した。だが状態が好転したわけではない。それどころかシンタロウはゆっくりと間合いを詰めてきている。もし捕まったら反撃どころか受身すらも許されない。完膚なきまで痛めつけられた挙句、捕虜収容所に入れられるのは間違いないだろう。自分はともかくカズエの事を考えるとおぞましい事この上ない。
「さあ、今度は逃がさねえぞ。俺の投げコンボを最上級のフルコースで味わってもらうぜ!」
シンタロウのかざした手が徐々に近づいてくる。カズエを助けようにも彼女が拘束された状態では、あのミユキという女を殴る前にカズエの首を折られ殺されてしまうだろう。
せめて、一瞬でもカズエから手を離せれば・・・・・・
「ジン! あたしの事はいいから!!」
「そんな事出来るかよ!!」
 出来もしない事を叫ぶカズエにジンは苛立ちを抑えられない。そして、出来もしない事をわかりきっているミユキは勝ち誇った顔に微笑を浮かべる。
「そうよ。アンタみたいな素人は簡単に殺せるんだから口には気をつけるべきよ」
「・・・・・素人馬鹿にしてると痛い目見るわよ」
「へえ、じゃあ見せてもら――」
ミユキの嘲笑を遮ったのはカズエの頭突きだった。カズエは得意げに喋っているミユキの顔に後頭部を叩きつけ、間髪入れずに足の甲を踵で踏みつけた。
足先には神経が集中しているうえに皮下の筋肉も脂肪も薄く鍛えづらい為、攻撃によっては素人でも効果的なダメージを与えられる。案の定と言うべきか、幸運にもと言うべきかミユキは足に走った激痛に耐え切れずカズエの手を離した。
「ジン!!」
「ああ! 隠れてろ!!」
カズエの叫びにジンは応じながら、彼女が作り出した好機を見逃すまいと目の前のシンタロウを無視してミユキに向かい一気に踏み込み、少しでも早く届かせる為に拳では無く貫手を喉元に放った。
ミユキはカズエの方へ集中していた意識を、反射的にジンに向けるが防御の為に両腕を上げるが、ジンの貫手は腕の間をすり抜ける。
「くっ!!」
ミユキはとっさに首を曲げて喉への直撃を防ぐ。しかし、指先が喉に掠り、皮膚が裂け鮮血が飛ぶ。
「逃がすかよ!!」
ジンは指先に絡まるミユキの髪の毛を掴み、ミユキの身体を強く引きこみ、同時に左のフックをミユキの顔面に撃ち放つ。
だが、ジンの拳は空を切った。ミユキが後方に飛びのいてジンの拳を避けたのだ。それよりもジンが驚いたのはミユキの髪が突然短くなっていた事、そしてミユキの髪だったはずの物を右手にまだ掴んでいたと言う事である。
「ヅラかよ」
「語彙が無いわね。せめてウィッグって言ったら!?」
吐き捨てるような言葉と共にミユキが反撃に転じた。ミユキは地面を踏み抜かんばかりの勢いで蹴り、その勢いを掌底に乗せてジンを狙う。
その動きからジンはミユキのスタイルを八極拳と推定した。八極拳は一撃必殺を身上とする剛拳で、破壊力の高さは特筆物である。
受ける事は危険だと判断したジンはミユキの腕には触れずに足を使って回避し、ミユキの後に回りこむ。大技は回避さえしてしまえば反撃は容易く、ミユキの無防備な背中をへ向けて回し蹴りを放つ。
決まれば絶命確実の一撃。しかし、その一撃はミユキには届かない。ジンの足とミユキの間にシンタロウが割り込んできたのだ。
シンタロウの腕に受け止められた足先から、相当な衝撃が伝わってくる。この男の身体は重く硬い。まるで数本束ねたサンドバックを蹴ったようだった。
「くぅ〜痛てえなあ。やっぱり単身でイスルギをぶっ潰そうって奴ならこれ位やってくれねえと盛りあがらねえぜ!!」
シンタロウ蹴られてなお笑みを浮かべつつ、その太い腕を振り回してラリアットを振るうが、ジンはそんなテレフォンパンチを食らうような素人では無く、反射的に頭下げて簡単に回避する。
だが・・・・・
「甘いわよ!!」
シンタロウの背後からミユキが奇襲して来た。シンタロウのラリアットはフェイントで、ミユキはジンが回避の為に頭を下げる事を予測し、その高さに肘を撃ってきた。
ジンはとっさに肘を掌で受け止めようとするが突進の勢いを止められるはずも無く、受け止めようとした掌ごと顔面を叩きつけられ、地面に転がった。
「あらあら、かっこ悪いわね」
「相当やるって聞いてたのに、タッグ程度でこのザマか? 新人の前座だってもっとマシだっつーの」
二人の嘲笑がジンの耳に響く。顔にダメージはあるがごく軽い物だ。確実に今の一撃は遊んでいた・・・・・。
そして、いくらフェイントをかけられたとは言え、今の攻めは連携としては初歩であり、そんな物喰らった自分の愚かさを口内の血と共に飲み込んだ。
だが、相手の攻め方がわかれば対処の仕様も組み立てられる。幸い『武器』は確保できる位置にある。肘を受け止めた掌も痛みはあるものの動きに支障は無い。まだ充分戦える事を革新してジンは立ち上がる。
「なに〜? まだやる気?」
「今度こそ起き上がれないように、俺の必殺技でも喰らわせてやるか?」
ジンは笑みを浮かべる二人には答える事無く構えを取り、二人も呆れ顔をしながらも構えを取る。
やはり、ミユキはさっきと同じようにシンタロウの陰に隠れ、ジンの視界には映らない。おそらくシンタロウの動き次第で死角から襲いかかってくるはずだ。そして今度打撃を当てられれば確実に止めを刺されるだろう。シンタロウを無視してミユキを狙おうとしてもシンタロウにやられるだけだ。
攻防一体の完全なる連携・・・・・おそらくミユキもシンタロウも思っているだろう。だが、それが虚構でしか無い事をジンは知っている。いかなる戦法にも突き崩す手段はある。
ジンは構えを維持しながら、シンタロウの間合いを取る。
「間合いとってどうするつもりかは知らないが・・・・・・お前に俺らのタッグは破れねえ!!」
シンタロウは再びジンに向かいタックルを仕掛けてきた。シンタロウに捕まろうが、逆にカウンターを入れようがミユキの追撃を防ぐ事は出来ない。それは二人が止めを刺しに来たのと同意であり、逆にジンにとってはまたとない逆転の好機でもあった。
「破れないんなら叩き潰すのみだ」
ジンは足元に落ちているミユキのウィッグを蹴り上げて手に掴み、シンタロウの顔へと投げつけた。
「!?」
一瞬視界を防がれたシンタロウは反射的にウィッグへと手を伸ばす。その瞬間をジンは見逃さなかった。
 ジンは気を取られたシンタロウの後頭部にハンマーナックルを叩きこむと共に馬飛びのように彼の身体を飛び越えてミユキに対してあびせ蹴りを放った。
「!!」
予想通りミユキは完全に反応が遅れていた。連携と言う物に重要なのはタイミングだ。しかも、完璧な連携であるほどタイミングは繊細になる。それをこちらで少しでも崩してしまえばたった二人の連携など簡単に瓦解する。そして片方を潰してしまえば連携は出来ない。その為にジンは最初にミユキを潰す事を選択した。
ジンの蹴りをミユキはギリギリで防御する。だが、ジンは攻撃がそれだけで終わるはずが無い。着地と共に体勢を立て直し、ガードをし続けるミユキの腕を掴んで走り出す。
「ちょ・・・・・なにを!?」
その言葉には聞く耳持たず、ジンはそのままミユキの身体を資材用コンテナに叩きつけた。車同士の衝突音のような轟音が響き、その衝撃の大きさの為ミユキの呼吸と動きが一瞬止まる。そこへ間髪入れずにジンは拳を撃った。
女の命である顔を殴られながらもミユキは両腕を必死に前に出してガードに徹して反撃の機会をうかがっているのがありありと伝わっていた。しかし、それは最初の数発までだった。機関銃のように繰り出す拳とコンテナのサンドイッチにより、ミユキの腕が瞬く間に紫に染まっていき、その顔は苦痛に歪む。ジンはそのままミユキの腕を潰そうと、更に拳を撃ち続ける。
「ミユキィィィィィィィィ!!」
背後から聞こえてきた声にジンは振り向くと、シンタロウが走りながら拳を振り上げている。
「今助けるぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
シンタロウの力任せのスイングブローが顔面にぶち当たった。その威力は凄まじく、一撃で意識が刈り取られる。
「あ・・・・・」
シンタロウは口を開けたまま表情が固まり、顔色も悪くなる。まあ、当然の事だろう。なにせ助けようとしたミユキがジンによって盾代わりにされ、そのせいで顔面を思い切り殴りつけてしまったのだから。
「ミ・・・・・ミユキ!! すまねえ!!」
シンタロウは完全に我を忘れてミユキにすがりついた。予想以上の効果を確信したジンは持っているミユキを投げ捨て、シンタロウの股間を蹴り上げる。
「!!!!!!!」
男にしかわからない痛みと苦しみを顔全体で表現しながらシンタロウは身悶える。
「そんなに大事ならポケットに入れて大事にしまっとけ」
蹴られた急所を抑え、脂汗を流しながら前かがみになるシンタロウに、ジンは即頭部へ掌底を叩きつける。掌を耳に覆いかぶせるように叩きつけた為、シンタロウの耳の中から出血する。確実に鼓膜は破れているだろう。もはや崩れ落ちるしかないシンタロウに追い討ちの肘を後頭部に叩きこむ。
倒れたシンタロウの身体を蹴りつけても起き上がらない。一応、息はしているようだが戦闘不能には間違いないようだ。後は長居は無用、脱出して一から出直しだ。
「カズエさん、逃げるぞ!!」
「ええ!」
ジンはカズエを連れて、ヴァルゼリオンに逃げ込むべく搭乗用通路を駆け上がる。あと少しでここから逃げ出せる。
だが・・・・
「危ない!!」
ジンはカズエに飛びつき覆いかぶさる。それとほぼ同時にジンとカズエの頭があった場所を銃弾が通過する。
「派手にやったもんだなあ。ハハハ、通路は塞がれてるし、ミユキもシンタロウもボロボロじゃねえか。こいつらなにしてんだかな」
笑い声と共に奴は倒れているミユキとシンタロウを蹴りつける。今回は二人の女を脇に連れているが、やはり奴自身は変わらない。顔を見るたび、声を聞くたび殺意が膨れ上がる。
「どうした会長の息子! 少し会わなかったら憧れの男の仇の顔を忘れたのか?」
「キョウシロォォォォォォ!!」
倒れている身体を起こし、キョウシロウを睨む。今度こそ殺す。今度こそ、薄汚い笑みを浮かべるあの男を人の原型が無くしてやる。
ジンは通路の柵に足をかけ、飛び降りようとする。
「やめて!!」
寸前でカズエが腕にすがりつき、必死に引き止めた。その行為にジンは怒り、声を荒げる。
「止めるな!! あいつはナオトの仇なんだぞ!!」
「知ってるわよ!! あの顔も声も忘れるはず無いじゃない!!」
「だったら何で止めるんだよ!! それにあいつさえ殺せば親父の計画も頓挫させる事が出来る!! あいつだけはこの場で・・・・・」
「殺せるの!? そんなにあいつは弱いって言うの? そんなはず無いでしょう!!
 結局必死に戦って、こっちも重症を負って、そんな状態で逃げる事が出来るって言うの!? その間に銃を持った私兵に囲まれたらどうする気!? 
敵はあいつだけじゃないのよ!! アンタの父親が次の計画を行う事は考えないの!? だからあんたはまだまだガキなのよ!!」
カズエのこれまでに無い怒声にジンは怯み、冷静になる。確かにカズエの言う通りだ。今の自分にキョウシロウを秒殺するほどの実力は無い。それが出来なければキョウシロウを殺したところで脱出が不可能になってしまう。
堪えるしかない。殺意に身を任せたい衝動をジンは噛み殺す。組織だったレンジの計画を潰すのに、自分達は徹底的に安全策を取り続けなければ戦力・物量の差で簡単に敗北してしまうのだから。
ジンは深くうなづき、柵から足をおろす。カズエはジンを信用したようで、引きとめていた手を離し微笑んだ。もう迷ってはいけない。今はカズエと共に逃げるしかない。
「ハハハハ、『キョウシロォォォォォォ!!』とか息巻いて、結局は女の尻に敷かれてるのか? とんだお坊ちゃんだな、会長の息子」
キョウシロウの嘲笑が耳に響き、屈辱と殺意が身体の中を走る。それでもジンはキョウシロウに一瞥もくれてやらず、背部の搭乗口に急ぐ。
「まあ、いいさ。悪の組織に立てつく正義の味方には重い重い使命があるみたいだからな。
だけどいいのか? 大局ばかり見ていると、小さな幸せ潰れるんじゃないか?
ランファ、見せてやれ」
「はい、キョウシロウ様」
それと共に何か大きい物が地面に倒れる音がする。それに反応し、つい視線を送るジンが目にした物は予想すらしていなかったものだった。
「嘘・・・嘘だろ・・・・・なんで・・・・・」
ジンの身体が唐突に震えだす。心臓の鼓動も早まり、呼吸も荒くなり息苦しくなる。自分の見ている物をジンは信じられなかった。自分のそばでカズエが何かを言っているのも聞き取れない。
そこに居るのは病院着を来ている女・・・・・地面に倒れ、長い髪を乱れさせているその女からジンは目を離す事どころか、指先一つ動かせなかった。
「どうした? どうせなら喜んでくれよ。数年ぶりの自分の女との再会だろ?」
キョウシロウは笑いながら女の髪を掴み、自分の顔に引き寄せる。
「あ・・・・・アヤネ!!」
 思わず、ジンは彼女の名を叫ぶ。それがおかしくて仕方ないのか、キョウシロウは笑い続ける。
「ハハハハハハ! しっかり名前覚えているんだな。反応がおかしいから他人を連れてきたかと思ったぜ。
そう、こいつは紛れも無く『アヤネ・ヤシロ(八代 綾音)』本人だ。病院でノンビリ過ごしていたのをランファに連れてきてもらったんだよ。どうだ? 色々と思い出が蘇ってきたんじゃないか?」
キョウシロウの言う通りだった。アヤネの生気の無い表情、焦点の定まらない目、もはや生きる事を諦めたような表情はジンにとって最も忌まわしい記憶を呼び起こす。
キョウシロウはジンの反応を楽しむかのように銃をアヤネの頭に押し付ける。
「もうわかるだろ、会長の息子? お前がここから逃げようとするならこの女を殺す。
まあ、ただじゃあ殺さないってのはお前の予想通りだけどな」
「やめろ! 頼む、やめてくれ!!」
ジンは必死にキョウシロウに懇願する。その時出た声は、自分でも聞いた事の無いほどの情けない声だった。
当然と言えば当然だ。アヤネはジンにとって不可侵の部分。決して癒えぬ古傷であり、何物にも変えがたい存在なのだから・・・・・・。
「カズエさん・・・・・・・すまない。これがどれだけ自分勝手な事かはわかっている。でも、俺はあいつを、アヤネを見捨てられないんだ!!」
「ジン・・・・・・・」
ジンはカズエを見る事が出来なかった。自分のエゴでカズエを巻き込んでしまう事が何よりも心苦しい。彼女には生き続けるのが何より耐えがたい苦痛になってしまうのだから・・・・。
それを見ていたキョウシロウは本当に楽しそうに笑っている。
「ハハハハハハ! 決まったようだな。ランファ、レイファ、あの二人を拘束しろ」
「ハッ!」
キョウシロウに返事をすると共に、脇に居る二人の女がジンとカズエを拘束し、キョウシロウの前に引きずり出す。
キョウシロウは拘束しているジンの顔を覗き込み、下卑た笑みを浮かべる。
「なんて面だ。今にも泣き出しちゃいそうだな会長の息子。そんなにこの女が大事か? 
まあ、確かに良い女だ。今ここで喰らいたくなるほどにな」
キョウシロウはアヤネの顔に近づき、彼女の頬に舌を這わせる。まるで人形のように無表情のアヤネを汚すように・・・・・。
「やめろ!!」
「やめろ・・・・・・だぁっ!?」
キョウシロウの銃底がジンの眉間に叩きつけられた。その衝撃にジンは膝から崩れ落ち、地面に倒れ伏せる。
「わかってないのか? お前の態度次第で、この女はいつでも殺せるんだ!! それも理解できねえほど頭が悪いのかお前は!!」
地面に倒れたジンに容赦無くキョウシロウは蹴りを入れ続ける。
「だが、俺は人間が出来てるからな!! 今回はお前を半殺しにするだけで許してやるぜ!!」
豪雨のように降り注ぐキョウシロウの蹴りを受け、ジンの意識は次第に薄れていく。
「すま・・・・ない・・・・」
意識が消える直前に呟いた言葉は一体誰に向けたものなのか。それはジン自身にもわからなかった。

次回予告
 投獄され、虐待を受け続けるジン。
もはや、死ぬのを待つばかりの極限状況でもたらされた微かな異変。
 それがジンに何をもたらすのか?
 次回『大敵・アークエネミー』

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://suou00.blog57.fc2.com/tb.php/138-d4998b85

 | HOME | 

プロフィール

蘇芳

Author:蘇芳
特撮とケームとマンガをこよなく愛するオタクです。

 最近の流行についていけないながらも、色々と頑張って生きてます。

 どうやら小説などのようにある程度の長文を開いた時に表示が完全にされないバグのようなものがあるらしいです。


 原因はわかりませんが、対処法としてはツールバーの履歴アイコンを2回ほど押せば直るようです。

 ただ、これはIEでの対処の仕方です。他のソフトを使っている場合は申し訳ありませんがどう対処すればいいかわかりません。

 少々不便でしょうがよろしくお願いします。

メアドです
suou00●hotmail.co.jp
●を@にしてください。

 ミクシィにもいますので、入れる人はよかったら見てください。

 もし気に入ってくれたら下のバナーをクリックしてください。
 
 

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ

[PR] 英会話 生命保険