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 基本的に特撮・ゲーム・自作小説が中心のブログです。  小説に関しては常識ですが無断転載は禁止です。

3rd BREAK 『追跡者 来襲』

 またまたで申し訳ないのですが、以前うらのあさんのページ「シャイニングウィザード」に載せていた小説をアップしました。

 
3rd BREAK
『追跡者 来襲』


「う・・・・・」
 ジンは、まだ重い瞼をゆっくりと開く。するとそこはヴァルゼリオンの居住スペースだった。ジンはそこにあるソファーベッドに横になっていたのだった。
 だがジンは何故ここで寝ているのかがわからなかった。確かジンは、イスルギが送り込んできた小隊を壊滅させた後、イスルギ本社の在る日本目がけてヴァルゼリオンを飛ばしていたはずだった。しかし、記憶があるのはそこまでだった。そこからの記憶は途切れ、今はこうして理由もわからずソファーベッドに横になっているのだった。
「あ、起きたのジン?」
 ジンが声のする方を見ると、カズエがタオルのような物を持って立っていた。
「カズエさん・・・・。一体何が――」
 ジンは体をカズエに向けて起き上がる。しかしその時、突然ジンに急激な目眩が起き、立ってる事もできず膝が崩れた。
「あ?」
 ジンは突然の目眩に驚く。だがそれは目眩だけではなかった。ジンの目の前の景色は、まるでメリーゴーラウンドに乗せられている時のように回転を起こしていて、ジンは立ち上がる事もできなかった。
「ちょっとジン!大丈夫?」
 カズエは倒れそうなジンを引き起こし、再びソファーベッドに横にする。そして持っていたタオルをジンの額に置く。タオルは水で冷やしていたらしく、今のジンにはその冷たいタオルが頭に心地よく感じられた。
「これでよしと。しばらく横になっていた方がいいみたいね」
「カズエさん・・・・」
 ジンは少々頭が朦朧としながらも、カズエに話し掛ける。
「何?」
「俺、一体どうしたんだ?さっきまでヴァルゼリオンで日本目がけて飛んでたはずなんだけど」
「ええ、そうよ。でも途中で気を失って、海に落ちたのよ。それで今は太平洋の海の底よ。まあ、ヴァルゼリオンはそれくらいの水圧じゃ何とも無いけど」
「そうか。それより俺が気を失ったらしいけど・・・・なんでだ?」
「詳しい事はわからないわ。ただ・・・・」
「ただ?ただ、なんなんだ?」
「これは仮説だけども・・・・原因はジンが使ったPSFだと思うのよ」
「PSFが?」
「ええ。多分ジンはPSFの負荷によって意識を失って倒れたのよ。多分、今の状態はPSFを使った後遺症みたいな物ね」
「負荷に後遺症?どういう事だ?」
「PSFは、人間の脳が通常使っている能力の軽く十数倍の力を発揮するって言ったでしょ?」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「人間は通常、自分自身を壊さない為に身体能力にリミッターをつけてるのはわかるわね。それと同じ事が脳にも起こっていると思うの。本来PSFのような能力は人間が生きていくだけでは必要の無い能力よ。それを無理やり使ったから、脳に強大な負荷がかかって一時的に機能が麻痺したのよ。一般家庭にあるブレーカーと同じね」
「家電と同じ扱いかよ」
「しょうがないわね、本当にそうなんだから。それよりもこれからの予定が狂う事になるわね」
「そうみたいだな・・・・」
 ジンは、カズエの言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような表情をする。これで日本へのイスルギ襲撃が事実上不可能になったからだった。
 イスルギ重工は、以前のDC戦争やエアロゲイター戦役以来、日本の都市復興にも協力していたために、東京都内に皇居並の広大な敷地の保有を許可されていた。
更に警視庁や防衛庁とも話をつけて、敷地内を大量の私兵や自衛隊が警備しているのだ。それどころか自社製のAMも本社、支社問わず大量に完全稼動状態で待機していて、もし本社に非常事態が起きた場合、すぐさま全社からAMが集結するようになっている。
その為、イスルギ重工は下手をすると小国以上の戦力を有している。それに自衛隊の戦力を合わせると仮定すると、現在の自分では奇襲が成功する確率など、とてもあるとは思えなかった。
「まさかここで、こんな躓きかたをするなんてな・・・・」
「すまないわね」
「え?」
 カズエが言った突然の謝罪の言葉にジンは驚いた。
「私がヴァルゼリオンを完全に調整していればこんな事には・・・・」
「何言ってんだ?こんなのカズエさんのせいじゃないだろ?」
「でも・・・・」
「それに、まだやり方はあるさ。少々遠回りになるけどな・・・・」
「遠回りって・・・・なにが?」
「ああ、それは――」
 もう一つのやり方をカズエに説明しようとしたその時、突然ジンに睡魔が襲ってきた。どうやらこれも後遺症らしく、かなり強い睡魔だった。
「悪いカズエさん・・・・。ちょっと寝るわ」
「え?」
「話の続きは・・・・・後で・・・」
 そう言いながらジンは目を閉じた。その時にカズエの声が聞こえたような気もしたが、意識を繋ぎ止めるまでには至らず、ジンはそのまま深い眠りについた。


ジンとカズエが太平洋の海底で、新たにヴァルゼリオンに生じた問題に辟易していた頃、地球連邦軍に新たな動きが起きていた。

地球連邦軍 極東支部。そこの支部長室に二人の若い男女のパイロットが転属の届けと挨拶を出していた。
「メリエル・F(フィニス)・ウェルマー少尉です。現時刻より極東支部に転属になります」
「トウマ=ミナグチ(御奈口 兜眞)少尉です。現時刻より極東支部に転属になります」
二人のパイロットは、共に自分の名前を名乗り敬礼をした。メリエルと名乗ったパイロットは背が小さく、少女のような風貌で、もう1人のトウマと名乗ったパイロットはどこか頼りない感じを体から出していた。
だが彼らは見かけによらず、ATの操縦技術に特化していて、同世代のパイロットとは雲泥の差の能力を持っていた。そのような凄腕のパイロット二人が極東支部に同時に配属されたのは、ある理由があった。
「うむ」
 極東支部長ヨシオ・イシガキ(石垣 義雄)は、新任のパイロット、メリエルとトウマを笑顔を浮かべ、話しかける。
「わざわざ北米支部からよく来てくれた、歓迎するよ」
「ありがとうございます」
「支部長直々のお言葉光栄です」
「うむ。二人ともいい返事だ。これなら、これからの特別任務にも期待が持てるな。ああ、勿論君達は特別任務について聞かされているだろう?」
「はい。私達に与えられた任務はイスルギ重工製の特機、ヴァルゼリオンの拿捕と・・・」
「Sクラステロリスト、ジン・イスルギの捕縛です」
「そのとおりだ!」
 イシガキは、さっき二人に見せた以上の笑顔を顔に浮かべる。
「ジン・イスルギは、自分が所属していたDCから特機を奪った憎むべきテロリストだ。いくらDCが平和への歩みを無視し続ける愚かな組織でもそれは関係ない。テロリストは断固として許されない事だ!」
 イシガキは、興奮して唾を飛ばしながら演説し付ける。メリエルもトウマも、飛んでくる唾をなんとか避けながら、イシガキの演説が終わるのを待ち続ける。
 だがイシガキの演説は、まだ終わりそうに無かった。
「いまや、地球は平和なのだ。先のエアロゲイター戦役も、もはや既に過去のものでしかない。これからは誰もが争わない平和な地球圏を作っていくべきなのだ!私達はその為に汚らわしい武力を振るってでも世界平和の敵であるジン・イスルギを捕まえなくてはならない!わかるな?」
「はい」
「勿論です」
「よろしい」
 メリエルとトウマの歯切れよく聞こえた返事にイシガキは満足した。
「それでは君達、短いがこれで私の話は終わりだ。これから世界の平和の為に頑張ってくれたまえ」
「はい!」
 メリエルとトウマは声をそろえて返事と敬礼をして支部長室から立ち去っていった。だが二人は支部長室から退室してから数mもしないうちに大きなあくびと背伸びをした。
「・・・・まったく。ここの支部長は何考えてるんだか」
 メリエルはさっきのイシガキの言葉への不満を隠す事無く言い放つ。
「あの脂ぎった笑顔で口を開けば、唾を飛ばしながら平和、平和って・・・・。そんなに戦うのが嫌なら軍の仕事につかなければいいのに・・・・」
「まあまあ、メリエルちゃん、あんなオヤジの言う事は気にしない方がいいよ」
「気にしないわけにはいかないわ。あのオヤジは私達兵士の事を『汚らわしい物』として全否定したのよ?」
「仕方ないよ・・・・。だってあのオヤジ、ガッチガチの『恒久平和派』だもの」
「そうなのよね・・・・」
 メリエルは、トウマの言葉を聞いて現在の連邦の体制を思い返し、頭を抑えながら諦めと馬鹿馬鹿しさの混じった溜息をつく。
 エアロゲイター戦役以後、地球連邦は大きく二つの派閥に分かれた。今後も、エアロゲイター以外の異星人が来ると想定し、更なる軍備の増強をして地球圏の統一を行なう『防衛継続派』とエアロゲイターとDCを撃退した事により、以後の地球圏に争いが起こらないと想定し、恒久に続くであろう平和の為に軍備を収縮して地球圏の平和を謳歌しようという『恒久平和派』に分かれた。
 軍事における常識に照らし合わせれば恒久平和派の言っている事は妄言と言っても間違いない。敵は何処から襲ってくるかわからないうえ、どんな兵力を有しているかわからないのだから。
その為、連邦政府内での分裂当初の議論では、明らかに防衛継続派が優勢だった。だが、恒久平和派に『ブラームス・ルーステッド』と言う男が現れてから事態は一変した。
ブラームスは『情報公開』と言って全マスコミに極秘に行なわれていた議論の内容を公開したのだ。しかも敵である防衛継続派のイメージをできるだけ落としながら・・・・・。
軍事学の基本すら知らない大衆と、勉強する気の無いマスコミは、防衛継続派に対して徹底した罵詈雑言を言い放ち、まるで彼らを犯罪者のように仕立て上げた。
その尻馬に乗ってブラームスは、偏向報道を助長しながら、政府内外の人物を味方につけ、防衛継続派の議席を減らし続け、ついに前代未聞の地球規模の地球連邦政府総選挙を行い、防衛継続派を完膚なきまでに叩きのめした。
その為、ブラームスは地球連邦政府最高責任者となり、軍備大幅縮小を行ない、その為に連邦軍の戦力はエアロゲイター戦役時の半分以下にまで落ちてしまっていた。そのうえエアロゲイター戦役で活躍したノーマン・スレイ少将のような有能な軍人は、一方的に解雇され、その代わりにブラームスに賛同していた銃も撃てないような三流以下の軍人が台頭し始めた。
その様子を見ていたコロニー統合府のブライアン大統領は、あまりに無知な地球連邦を見限り、『以後、地球連邦政府は相手にしない』との声明を出し、軍備の増強を始めていた。そしてそれに呼応するかのように、つい先日壊滅したDCも復活し、地球防衛の為に軍備の増強を図っていたのだ。
これがエアロゲイター戦役からほぼ一年少々で起きた事だと思うとメリエルもトウマも頭が痛くなるような気がした。
確かに平和であるならそれに越した事は無いが、戦争と言う物はいつか必ず起こるものである。それを見越して戦力を増強するのが常識であり、政治家の仕事のはずだ。だが、当の政治家は妄想を信じ込み、大衆に根拠の無い安心を与えている。
こんな状況で異星人が侵攻してきたら地球はひとたまりも無いだろう。そして侵略を防げなかった責任は結局兵士に降りかかってくるのだ。
メリエルは、遠くない未来に起こるであろう事を想像し、再び深い溜息をついた。その様子を見て、メリエルの鬱な気持ちを察したのかトウマはメリエルの肩を叩く。
「メリエルちゃんがそんなに深く考える必要ないよ。確かに今の俺達はただの兵士かもしれないけど、いつかは連邦を変えられる様になるかもしれないじゃないか。それに初代ATXチームのキョウスケ先輩達もいる事だし、そんなに悪いことにはならないと思うよ」
「・・・・・確かにそうよね」
「そうそう。それよりも早く持ち場に行こうよ。極東支部は礼儀とか細かい所にうるさい人多いからね」
「わかったわ。でも、それより・・・」
 メリエルは体の向きを変え、トウマを睨みつける。
「あたしにちゃん付けするのやめてくれない?あたしはこれでもあなたより年上なのよ?」
「あ、ごめん。メリエル・・・さん」
「まったく・・・・今度から気を付けなさいよ」
 そう言って二人は誰もいない廊下を歩いていった。


「行くぜ、カズエさん」
「ええ」
 ジンは、カズエの返事と共に海上にヴァルゼリオンの姿を現した。そこはイスルギ重工の東南アジア支局の一つ、マレーシア工場の港だった。ジンはそれを確認するとゆっくりと岸を目指して足を進めた。足を動かす度に港を航行している船が転覆しそうなくらいの波を受けていた。ジンはそれを横目に見て、ある事を思い出す。
「なあ、カズエさん。つまんない事聞くけど怪獣映画の怪獣ってこんな感じなのかな?」
「何、本当につまんない事言ってんのよ。冗談言ってる場合じゃないでしょ」
「それもそうだな」
 そう言ってジンは足を速める。そして岸にたどり着き、体を水中から出し、港に仁王立ちになる。
 それを見た職員達は突然の特機の襲撃にあわてふためき、我先にと逃げ出した。それを見てジンは、カズエに声をかける。
「カズエさん。準備はできてるか?」
「ええ。もう完璧よ」
「よし、じゃあ・・・・」
 ジンは一度首を動かし、軽く深呼吸をし、大声で叫ぶ。
「イスルギ重工 東南アジア支局 マレーシア工場の職員全員に告ぐ!!」
 ヴァルゼリオンから突如聞こえてきた声に全職員が一種動きを止めヴァルゼリオンを見上げていた。
「俺は、現在地球連邦政府によりSクラスのテロリストとして国際指名手配されているジン・イスルギだ!
俺の要求はただ一つ!ここにいる全職員の工場からの撤退と工場の設備全ての『接収』だ!もしこれが聞き入れられない場合、この工場を全て破壊させてもらう!その際、職員の生命は保証しない!制限時間は今から十分だ!」
ジンの横暴としか言えない要求はすぐさま受け入れられた。その証拠に目の前の建物などから大量の人間が必死の形相で走っていくのが確認できたからだ。その様子をヴァルゼリオンのカメラアイごしに見ていたカズエは溜息をついた。
「はあ〜っ・・・。これじゃあ、あたし達本当に犯罪者ね。もう無実だなんて言えないわ」
「しょうがないさ。これもイスルギを潰す為だ」
「それはわかってるんだけどね・・・・・。あ、もういいみたいよ。人の動きが無くなったわ」
「よし、じゃあ手筈どおりに行くか」
 そう言ってジンは管制塔の一つに向かって足を進める。だがジンは一、二歩踏み出した途端、突然動きを止めた。
「どうしたの、ジン?」
「上から来る・・・」
「え?それって―――」
「決まってるだろ!敵だ!!」
 その瞬間、ヴァルゼリオンの頭上から何かか飛んできた。ジンはそれを難なく避け、上空を見上げた。そこにはイスルギ重工製のAMの一種で、砲撃戦用に特化されているバレリオンが3体飛んでいた。彼らはジンを中心に扇状に展開し、ジンを包囲していた。
「ちっ、パトロールに出ていたのがいたのか」
 ジンは空からこちらに狙いをつけているバレリオンを見て舌打ちする。だがその様子からは失敗したといった様子は無く、むしろ喜んでいるかのようだった。
「ま、ちょうどいい。海の中でレクチャーしてもらったヴァルゼリオンの能力を試させてもらうぜ!!」
 そういうとジンは左手を突き出すと、掌の空間がヴァルゼリオンの重力操作によって徐々に歪みだした。空間の歪みはすぐにヴァルゼリオンの頭と同じぐらいの大きさになった。
「いくぜぇっ!!」
 ジンは咆哮と共にその歪みを左掌から離し、それを右手のアッパーで殴り飛ばした。殴られた歪みは弾丸となって高速で中央のバレリオンに向かって飛んでいく。
 その光景の異様さに、バレリオンは一瞬反応が遅れ、頭部に付いているビッグヘッド・レールガンの砲身に歪みの弾丸の直撃を受けた。すると歪みの弾丸はバレリオンに接触すると同時に崩壊し、バレリオンの機体そのものを歪ませた。歪みによって砲身はへし折れ、海に落下していった。
 それを見てジンは歪みの弾丸を使った攻撃の効果の高さを確信し笑みを浮かべながら叫ぶ。
「ラッキーだな、機体への直撃じゃなくて。だがなあ、何度も幸運が続くか!?」
 叫びながらジンは左手に歪みの弾丸を作る。しかも今度は単独ではなく、複数を連続で作り出した。
「おらよっ!!」
 ジンは複数の歪みの弾丸を生成すると同時に、殴ってバレリオン達に向かって撃ちだす。バレリオン達は既にその威力を身を持って理解していた為、必死に歪みの弾丸を避け続けた。
 だがバレリオンに乗っているパイロットも素人ではなかった。彼らはジンの撃つ歪みの弾丸を避けながらも、ミサイルランチャーを使い、ジンに向かって反撃をしてきた。だがその攻撃すらもジンにとって何の障害にもならなかった。
「カズエさん、ミサイルぐらいなら『アレ』で耐えられるよな?」
「確かにそうだけど、あまり無茶しないでよ」
「わかってるさ」
 ジンは、目前に飛んでくるミサイルに対し防御行動を取らずに立ち尽くす。だが――
「行くぜ!『グラビティ・テリトリー』展開!!」
 ジンの叫びと共に、目前まで来ていたミサイルが、ヴァルゼリオンの機体に触れる事無く爆発した。そればかりか爆風もヴァルゼリオンに向かわなかった。その様子を見ていたジンは嬉しそうに呟いた。
「成功したみたいだ。まさか、Gテリトリーまで積んでいるなんてな」
「当たり前よ。ヴァルゼリオンはエアロゲイターとの戦いの為に作られているんだから」
「ハハハ、違いないな」
 ジンはカズエの自信に満ち溢れた態度に笑い出す。前の戦闘では自分の未熟さを嘆いていた人物と同一人物だとはとても思えなかったからだ。
「なに、笑ってんのよ。いいから早く、あの敵をやっつけたら?」
「それもそうだな」
 カズエに注意されたジンは笑うのを止めて、構えを取った
「機能の方のテストは終わったしな。今度は俺が、どれくらい動けるかだ」
 そう呟いてジンは一瞬、体を沈める。そしてミサイルの無効化に驚いていて停止した右方向のバレリオンに向け飛び上がった。だが、その飛行速度はガーリオンを一瞬で落とした速度よりもかなり遅く、通常使用されている戦闘機程度の速度だった。
 狙われたバレリオンは、たじろぐ事無く向かってくるヴァルゼリオンにビッグヘッドレールガンを撃ってきた。無論ジンはそれも想定をしていたが。
「あめえよ!」
ジンは、咄嗟にドミニオン・システムを使用して慣性を無効化して、自らの軌道を変えて、弾丸をかわしながらバレリオンの背後に回りこんだ。
「教習所からやり直してきな!もっとも生きてたらだけどな!!」
 ジンはバレリオンの胴体に強烈な左回し蹴りを入れる。更に蹴りが当ると同時にドミニオン・システムで慣性を消し、右の回し蹴りも叩き込んだ。バレリオンは初弾で吹き飛んでいたためカウンター効果を誘発し、バレリオンを刃物で斬ったかのように両断した。
「次だ!!」
 ジンは蹴り抜いた右足を完全に戻さずに、中央にいたバレリオンに向かって行く。今度もヴァルゼリオンの速度は通常のものだったが間断なく攻めて来るヴァルゼリオンに、バレリオンは完全に反応できなかった。
「鈍いぜ!指に神経かよってんのか!?」
 ジンは悪態をつきながら今度は拳を撃った。その拳は以前ガーリオンを撃墜したものと同じで、バレリオン目がけ左アッパーと右のチョッピングライトがほぼ同時に放たれた。その拳は左右ともバレリオンに突き刺さり、機体をまるで万力で潰したかのように歪ませた。
「ラストだ!」
 ジンは爆発しながら落ちていくバレリオンには目をくれる事無く残った最期の機体を睨み、すぐさま間合いを詰める。
バレリオンは必死に後退しながら残っている武器を全て使って必死に弾幕を張り、ヴァルゼリオンの接近を阻もうとする。だがそれは無意味な行為でしかなかった。ジンはさっきと同じように慣性を操作して、バレリオンのほぼ真上に回った。
「これで終わりだ!!」
 そう叫ぶと共に、ジンはバレリオンの頭に高速の踵落しを叩き込んだ。バレリオンの頭部のレールガンは中心からへし折れ、機体のシルエットを著しく変形させながら落下していった。そして戦況を確認したカズエがジンに話しかけてきた。
「終わったわね。ジン、体のどこかに変調は無い?」
カズエの言葉に、ジンは体を動かして確かめる。体に違和感は無く、気分も悪くは無いし倒れる気配も無い。
「大丈夫だ。別に体には異常が無い。しいて言うなら少しばかり疲れたぐらいか」
「なるほど。それなら通常の状態なら、脳に大きな負担がかからないんだわ。だとしたらPSFを継続使用する事に問題があるようね。多分脳内のニューロンが―――」
「カズエさん。そんな細かい事は今言う事じゃないだろ?」
「あ、そうよね。ごめん」
「いいさ、それよりも行こうぜ。もたもたしてると、何時、連邦の奴らが来るかわからないからな」
「わかったわ。じゃあ、こっちは準備をして待ってるわ」
 カズエはそう言って通信をきった。ジンはそれと共に地上に降り、この工場の中央にある建物に近づいていった。


4 
「ふわぁぁ・・・・・」
ジンは口を大きく開けて、大きなあくびをするが、それを見たカズエが睨みつけてきた。
「ちょっとジン!あんた気を抜きすぎよ!!」
「あ、悪りい」
 カズエのドスの効いた睨みに、ジンは口元を抑えた。
「まったく・・・。ちょっとくらい緊張感を持ったらどうなの?何時連邦軍がここに来るかわからないのよ?」
「それはわかってるさ。一応ここは敵地だからな」
「一応もなにも敵地に決まってるでしょ?そうじゃなければ、あんたが言ってた『地図』を、ネットに繋いでないここのホスト・コンピューターから取り出せるはず無いじゃない」
「そりゃそうだ」
 カズエの苛立ちを察したジンは、以後、余計な口を出すまいと思い、口を閉じた。
ジンとカズエがいる場所は、二人が攻め込んだイスルギ重工の東南アジア支局、マレーシア工場の中央棟の中にある支局長室だった。カズエはジンに言われて、この場所からここのホストコンピューターに接続し、その中にある今後の自分達の戦いに重要な『地図』とジンが呼ぶデータを検索していた。
カズエは、ディスプレイから目を逸らさずに検索終了を待ちながらジンに話し出した。
「ねえ、ジン。本当に『地図』って役に立つの?」
「ああ。じゃなけりゃこんなオヤジ臭そうな所に来ないさ」
「そりゃねえ・・・。でもジンの言う事を信じないわけじゃないけど、なんでこれからの行動に『極東地域にあるイスルギ重工関連施設のデータ』が必要なのか、まだ理由がわかんないのよ」
 カズエはディスプレイ越しに、怪訝そうな表情をジンに見せる。だがジンはそれを見ても大して深刻そうな表情を浮かべる事も無くカズエに言葉を返す。
「大丈夫だって。データ見れば、カズエさんにも、ここにわざわざデータ取りに来た理由がわかるって」
「そう言われても・・・・・あ、開けたみたい」
 カズエは、検索終了の表示を見て、出てきた複数のファイルを次々に開いた。だがいくらか開いてみても収支報告や部品受注などばかりで大した事が書いてなかった。
「ちょっとジン!何を開いても大した事書いてないわよ!これじゃあいくらファイルを見ても理由がさっぱりわかんないわよ!!」
 その無意味に思える作業に苛立ったカズエは、ジンにその苛立ちをぶつけた。だが、それでもジンは余裕のある態度を崩さなかった。
「いいから。開いて行けばわかるさ」
「まったく・・・・。何も出なかったらどうするつもりなの?あたし達このままだと、単なる無駄足どころか―――」
「出た!!」
「え!?」
 ジンは、何かがディスプレイに映ったと同時にカズエを押しのけるようにディスプレイに詰め寄った。ディスプレイには、極東地区の地図と、そこに書いてある何かを現しているらしい記号だけだった。
「よし、ビンゴだ!!これなら襲撃のプランが練れる!!」
 ジンはその画像を見て興奮し、嬉々とした表情をあらわすが、カズエには今だ何が起こっているかがわからず、困惑を隠せなかった。
「ちょっとジン!これがあんたが言ってた地図ってやつ!?一体なんなのよ、これ!?こんなの見たところであんたが喜んでる理由が見当もつかないわよ!!」
「落ち着けよカズエさん、今から細かい事教えるから」
 そう言ってジンは、カズエから奪い取っていたマウスを使って、地図上に点在している記号の一つにカーソルを合わせてダブルクリックをする。すると、画面上に別なウインドウが出て、何かの建物の3Dモデルと何かのデータが出てきた。
「これは・・・」
「そう。これがイスルギが持つ総戦力だ」
カズエは、表示されたデータを見て、驚きの声を漏らした。そのデータはジンが言うとおり、イスルギ重工の有する戦力の詳細だったのだ。現在保持しているAMの数、支局ごとの稼動可能なAMと人員の数、他支局からの援護にかかる時間といった物までもが事細かに記されていた。
「どうだカズエさん。このデータは、イスルギの上役しか見る事のできないもので、社内でも極秘扱いのデータだ。普通だったら一生こんなの見る事ができないぜ?」
「確かにそうかもしれないけど・・・これをどう利用するつもりなの?」
「言っただろ?これは地図だって。これを使って俺達は今後のルートを決めるんだ」
「地図?ルート?ジン、あんたもしかして・・・・・」
 カズエはジンの言葉を聞いて、ようやくジンの伝えたかった事が理解できた。だが、それでもカズエは自分の結論を信じきれなかった。それはあまりにも常軌を逸した事だったからだ。
「もしかしてあんたは、イスルギの支局を全部ヴァルゼリオンで壊滅させようっていうの?」
「そう。ようやくわかったみたいだな」
「やっぱり・・・・」
 カズエはジンの言葉を聞いて、無謀な事を行なうジンに対しての驚きや怒りよりも、ジンの事をある程度理解しているのにも関わらず、もっとも行いそうな事を考えもしなかった自分に対する脱力感だけだった。
 しかし、ジンはカズエの様子を察する事無く話を続けた。
「もし、真っ直ぐ日本に行ってイスルギの全戦力を持ち込まれたうえ、自衛隊や連邦軍まで呼ばれて消耗戦に持ち込まれたら、いくらなんでもこっちが持たないからな。喧嘩と同じで、弱い奴からさっさと仕留めとかないとな」
「だからと言って、そのプランは時間がかかりすぎじゃない?全支局を回っている間に戦力とか整えられたらまずいんじゃないの?」
「それだってわかってるさ。だからここからは、なるべく不眠不休でいくだけだ」
「不眠不休ねえ・・・・。無謀にも程があるでしょうに・・・・・」
 カズエはジンのシンプルかつ無謀なプランにあきれて溜息をつきながら頭を抑えた。だが、その目にはジンに対する不信の色は皆無だった。
「でも・・・現状では一番可能性が高いプランだってのも確かね」
「ああ。もう俺達には他の手段を考える余裕は無い。後はヴァルゼリオンの力を、俺がどれだけ引き上げるかだ。機体だけならイスルギの量産品なんかには絶対に負けないからな」
「信用してくれてるのね。ヴァルゼリオンの事・・・・・」
「当たり前だろ?イスルギにはカズエさんみたいな天才はいないからな」
「ありがと。でも、ずるいわねジンも」
「何が?」
「そうまで言われたら、こっちとしても頑張らない訳には行かないでしょう?」
 そう言いながら、カズエはジンの持っているマウスを取って再びコンピューターに向かい合った。
「私はここからイスルギのデータを調べて、これから役に立ちそうなものを探しているわ。ジンはその間に、食料とか水とかこれから必要な物をヴァルゼリオンに積んでおいて」
「いいのか?そんなにゆっくりしていて」
「何を言ってるの?こういう時に少しでも補給しておかないと、後で困る事になるでしょ?それにデータの検索の時間もあるんだけど、多く見積もっても30分ほどで終わらせるから連邦軍も間に合わないだろうしね」
「さすがカズエさん。ビアン総帥に認められた天才なだけあるな」
「お世辞でも褒められるのは嬉しいものね」
「謙遜すんなって」
「あら、いい女は慎み深いものなんだから」
「ハハハハ、なるほど。確かにその通りだな。じゃあ、俺は食料品なんかを探してくる」
 ジンは、そう言いながら、既に廊下へと駆け出していった。それを確認したカズエはさっき以上に真剣な目でコンピュータに向かった。


5 
「よし、これぐらいでいいかな?」
 ジンは、薄暗いハンガー(格納庫)の中に入れていたヴァルゼリオンの内部の居住スペースの中を見回して呟いた。そこには、まるで主婦が買い物から帰った後のように、ジンが工場などから持ってきた荷物が雑然と置いてあった。
 荷物の殆どは食料品や水で、ジンは工場で使っていたキャリアーなどを利用して、20分ほどでヴァルゼリオンの生鮮品貯蔵用や水用のタンクをほぼ満タンに満たす量を運んでいた。
「これぐらいあれば十分だな。そろそろカズエさんを呼んで、こんな所から出て行かないとな」
 ジンは、居住スペースから降りて、カズエを迎えに行くべくハンガーの通路を駆け出した。
 だが、数歩走った時、ジンの背筋に突然冷たいモノが纏わりつく感覚があった。その冷たいモノは、背筋から徐々に全身に広がっていき、ジンの体から冷や汗を噴き出させていた。
「これは・・・」
ジンは、一度、大量に冷や汗が噴き出す手に目を落とした後、すぐさま目を前に向ける。するとジンの目の前には、さっきまでは確実にいなかった一つの人影が立っていた
(この感じは・・・・間違いない、敵だ。しかも並の奴じゃない)
 ジンは、いつのまにか拳を握り締めていた。頭では無く体が、ジンに纏わりつく冷たいモノに反射的に反応したのだった。 
 ジンには纏わりつく冷たいモノの正体がわかっていた。それは人間の、それも高度な腕を持つ者だけが放つ『殺気』だった。
しかし、それがわかった所でジンの警戒心は少しも解けることは無かった。ジンは幼少の頃から喧嘩を続けていた為、強い者とは何度も会っていた。だがこれほどの殺気を持つ者などは、ほぼ存在しなかった。
唯一、これに似たようなモノを感じたのは、DCにいた時、示現流剣術の達人であるゼンガー・ゾンボルト少佐の持つ真剣を相手にした時だけである。それ以外は数十人に囲まれた時にすら感じた事は無かったのだった。
(アレと同じくらいの殺気なんてな・・・。改造人間かなんかか?)
 ジンは徐々に纏わりついてくる量を増やしてくる殺気の主に対する警戒を強めながら、ゆっくりと歩みを進めた。それに呼応するかのように、殺気の主もジンに向かってあるって来た。
薄暗いハンガーの中では顔の確認はできないが、体格は確認できた。殺気の主は、体格から言って男で、身長は自分とほぼ同じ190cmほどで、体つきもほぼ似ていた。少し違うところは自分よりも細身な所と金色に染めた髪の毛ぐらいだった。そして何よりも、殺気の主には武器を携行している様子が全く見られなかった。拳銃を懐に隠している事も考えられるが、それを考慮してもこの殺気の量は尋常ではなかった。
そして両者は、ついに互いの顔が見える距離まで間合いを詰めきった。それにより、ようやく互いに相手の顔を確認できた。だがジンは相手の顔を見て驚愕した。
「お前は・・・ナオトを殺した・・・・」
 殺気の主は、ジンの親友であるナオトを殺したイスルギの私兵の1人だった。だがジンにはその男がどうしてここにいるのかがわからなかった。この男の左目と右腕はジン自身が潰していて、とてもこんな早くに戦場へと復帰できる体ではなかったはずだった。
「ハハハハハ・・・」
 困惑するジンの心を読んだのか、男は突然笑い出した。
「どうした?会長の息子。そんなに俺がここにいるのが驚いたか?こんな事で驚いているんだったら、あの会長の息子とは到底思えないな」
「なんだと・・・」
 ジンは男の言葉を聞いて突然激昂し、表情を変えた。
「何が、会長の息子だ!!二度とその言葉を口にするな!!」
「何を怒っている。お前がレンジ・イスルギ会長の息子だという事は一生変わらない事だろうが」
「だから腹が立つんだよ!!俺とあの男に血の繋がりがあるって事がなあ!!」
ジンは拳に込める力を一層強める。ジンにとって実父であるレンジは、嫌悪の対象でしかない。その為レンジと血縁関係にある事を指摘されると、反射的に激昂してしまうのだ。 
ジンは血が滲みそうなほど握り締めた拳を胸まで上げ、構えを取った。それを見た男は、口元を少し歪ませながらジンに話しかけてきた。
「何だ、その拳は?腹が立ったから、もしかして俺を殺そうとでもいうのか?」
「ああ!大体お前はナオトの仇だ!!あの時、逃げる為にトドメを刺せなかった分を上乗せしてぶっ殺してやる!!」
「殺すだと?」
 男はさっきまでの笑みを浮かべた表情とは一変し、ジンを突き刺すような視線を浴びせながら拳を腹の所に上げて構えた。
「それはこっちの台詞だ・・・。腕と目をお前にやられて、義眼と義手にして以来、苛つきが一度も止まらないんだよ」
「だったら止めてやるよ・・・・。てめえを殺してな!!」
 ジンは感情の高ぶるままに男へ襲いかかった。ジンは、今度は男の右目を潰すべく、顔面目がけて左の拳を弾丸の如き速さで振るった。だが・・・・・・
「遅いな」
「なにっ!?」
 男は、ジンの左拳を右手で軽く受け流すと、同時に素早くジンの左側面に回りこみ、右膝をジンの脇腹に差し込んできた。
「くっ!!」
 ジンは、足での防御が間に合わないと判断し、拳を流された勢いを逆に利用して、体をそのまま回転させて右腕の上腕部で男の膝を受け止めつつ、男が片足立ちで不安定なの見計らい、男の左足目がけて右足で足払いを放った。
 だが、男はジンの咄嗟の反撃すらも読みきっていたのか、ジンの足が当る前にジンの背中に左の掌低を突き入れた。
「うっ!?」
 掌低の威力によって、逆にジンはバランスを崩し、前のめりに地面に倒れこんだ。
地面激突のダメージを最小限にすべく、ジンは咄嗟に受身を取ろうとする。しかし、地面に倒れこむより早く、男が間合いを詰めて、倒れるジンの頭を目がけて膝と肘で挟み込むように同時に突き立ててきた。
「くそっ!!」
 ジンは、咄嗟に男の服を掴み、そこを支点にして一気に体を捻り、男の背中に蹴りを叩き込んだ。
「ぐ!?」
 男はジンの蹴りによって体勢を崩し、攻撃が不発に終わった。ジンも無理な動きを行なった為、受身を取る暇がなく、背中から地面に落下した。
 背中に走る鈍痛を堪えながらも、ジンは即座に体を起こして数mほど間合いを取った。男の方にも多少の痛みはあったらしいが、影響するほどのダメージを与えたわけではないらしく、顔色一つ変えずにさっきと同じ構えを取っていた。
「『CQB』か・・・・」
 ジンは、男の構えを凝視して舌打ち混じりに小さく呟いた。CQBとは『クローズClose クォーターQuarter バトルBattle(近接戦闘)』の略称で、銃火器を携行して行う格闘および白兵戦闘用技術の総称である。 
CQBは、一つ一つの技法自体に重点をおかず、その時々の自分や周囲の状況によって千差万別の戦術を見せ、いかなる相手に対しても優位に立つ事ができるのだ。
 今、男が見せた動きはCQBにおいての素手格闘の基本で、相手の突進を払い、左右から掌低・膝・肘を使用しての対人制圧を行うものである。
圧倒的な打撃攻撃によって相手を撃破するジンのスタイルにとっては少々厄介な相手だが、相手のスタイルさえわかれば対処方法はいくらでもある。CQBは、強い事は強いのだが、無敵というわけではない。ジンは頭の中で幾つもの対処方法をシミュレートしながら間合いを詰めるべき一歩足を踏み出した。
しかしその時―――
「!?」
 ジンは一瞬自分の目を疑った。男が、自分を目の前にしておきながら構えを解いたのだ。男はそのままジンに背を向け、格納庫から出ていこうとした。
「ま・・・待てっ!!」
 男の唐突な行動に、ジンは一瞬あっけにとられたが、すぐに我に帰り去って行く男を追った。
「止まれ」
「なに?」
 男が呟くと同時に、ジンの目の前で爆発が起こった。ジンの体は爆風を喰らい、10mほど吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
体中を痛みが覆うものの、何とか受身を取ってダメージを最小限に抑えたジンはすぐさま起き上がり、男を追おうとした。
だが、それは不可能だった。ジンの目の前には今の爆発によってできた瓦礫の山が通路を埋めていた。
その瓦礫の山を見て、ジンの頭に嫌な想像がよぎった。もし、あの男の目的が自分とカズエとの分断だとしたら・・・。そう考えるとジンの体をさっきとは別の冷や汗が流れていった。
「くそっ!あの畜生が!!」
 ジンは必死に瓦礫をかき分けるが、その量は大変な物で、男がカズエの所に辿り着いて殺すまでの間に通路を確保できる事は完全に不可能だった。
 自分の手を、今だ高熱を発する瓦礫で傷つけながらも、ジンはカズエを救おうと必死になって瓦礫をかき分ける。
 その時――
「精が出るな」
「え!?」
 瓦礫をかき分けるジンの腕はその声を聞いて止まってしまった。その声は間違いなく、さっきの男の声だった。
 男の考えが全くわからず混乱するジン。男はそれを察したのか、笑い声まじりでジンに再び語りかけてきた。
「十分だ」
「なに?」
「今から十分だけお前に時間をやる。その間に、お前が俺の指示通りの事をできなければ俺はあの女を殺す」
「なんだと!?ふざけるのも大概にしろ!ぶっ殺すぞ!!」
「殺してみろ。そこからお前がどうやって俺を殺すか興味がある。もっともヴァルゼリオンを使ったら、すぐさまあの女を殺すがな。わかるだろ?どっちが早いかなんてな」
 ジンは男の態度に拳を握り締めて無言で激昂する。だが、この瓦礫で隔てられている以上、今のジンにはどうする事もできないのは明白だった。
 それは男も理解しており、ジンの事を嘲笑する笑い声をまじえながら話を続けた。
「ハハハ、どうやら自分のできる事を理解したみたいだな。わかるよ、お前の顔が見えなくても。悔しそうに涙をこらえる顔がわかる」
「くだらねえ事言ってんじゃねえ・・・・。それよりさっさと何をするか言えよ」
「それもそうだな。お前には――」
その時、突然振動と轟音が基地の内部に響き渡った。ジンは一瞬転倒しそうになりながらも倒れないようにと必死に堪えた。
「来たか。やはり連邦は動き出すのが遅いな」
 男は独り言のように文句を呟いたあと、ジンに再び語りかけてきた。
「今の振動は、連邦の部隊がついた音だ。ほら、指揮官の声が聞こえてくるだろう?」
 確かにジンの耳にも声が聞こえていた。だが、そんな物は今のジンにとってはどうでもいい代物だった。男もそれがわかっているのか、外の声を無視して話を続けてきた。
「さっき言おうとしていたのは、今降りてきた部隊と戦えって事だ。お前があいつらと交戦してから十分以内にあいつらを全滅させたら、俺はあの女を殺さないでやる。簡単だろ?」
「何だと?あいつらはお前の仲間じゃ―――」
「そんな事はどうでもいい事だ。それとも無駄話している間に、あの女を殺しに行ってもこっちはかまわないんだぞ?」
「グ・・・」
 ジンは込み上げてくる怒りを抑えながら、踵を返して歩き出した。どう考えても、カズエを助ける方法があの男の言いなりになるしかなかったからである。湧き上がる屈辱と怒りを堪えながらジンはヴァルゼリオンの元へと向かった。
「おい」
 二、三歩歩くと背後から再びあの男の声が聞こえてきた。
「俺の名前はキョウシロウ。キョウシロウ・ミナガミ(皆上 響士郎)だ。覚えておいたほうがいいぞ、それがお前の友人を殺した男で、今からお前の女を殺すかもしれない男の名だからな」
「なんだとっ!!」
「とりあえずせいぜい頑張るんだなジン・イスルギ。いやレンジ会長のご子息殿」
「てめえ!!」
「ハハハハッ!じゃあな」
 そう言って男、いやキョウシロウは笑いながらジンから遠ざかっていった。
「・・・・・クソッ!!」
 ジンは叫びながら、近くにある手すりに蹴りを入れた。鉄で作られているはずの手すりはジンの蹴り一撃だけで形が歪んでしまった。
ジンはそばにある物に対しところかまわず当り散らしながら叫ぶ。
「あの野郎、何のつもりだ!?ナオトを殺しただけじゃなくカズエさんまで殺すだと!!」
 今のジンの心はさっき以上に怒りで埋め尽くされていた。込み上げてくる怒りを発散させる為に目の前の物を壊しまくった。そうでもしなければジンは、怒りでどうにかなりそうだったからだ。
 そしてその怒りの対象は、そばにあるものから別な物に移っていた。
「上等じゃねえか・・・・。殺ってやるよ!連邦の部隊を!!その後はおまえ自身を血祭りに上げてやるぞ、キョウシロウ!!」


6 
「ゼロワン01より各機へ。ただちにフォーメーションAを組め」
「03から07『Gアイゼン』、所定の位置につきました」
「08から12『Gリッター』、所定の位置につきました」
輸送機『タウゼント・フェスラー』からの降下を終えた連邦の部隊は、隊長である『メリエル・F・ウェルマー』からの指示ですぐさま隊列を整え、イスルギ重工・マレーシア工場の中央棟に対して2〜3kmほど距離をとりながら銃口を向けていた。
 この部隊は、エアロゲイター戦役で敵中枢を破壊した『ハガネ・ヒリュウ改 連合部隊』を模して、世界各国にある連邦の支部から、有望な若年兵を集めて組織された部隊である。彼らは後々、連邦の特務部隊として世界中を駆け回る事が決定されている。
 無論、装備の面でも彼らは優遇されていた。彼らの乗る機体はエアロゲイター戦役において予想をはるかに上回る活躍をした機体『アルトアイゼン』と『ヴァイスリッター』の量産型である次期主力兵器『G(ゲシュペンスト)アイゼン』と『G(ゲシュペンスト)リッター』を優先的に回されていた。更に隊長機である01と副隊長である02には、アルトとヴァイスの生みの親である女性特機設計者マリオン・ラドム博士によって両機の発展型である『ノイアイゼン』と『シュヴァルツリッター』が廻されるという破格の待遇だった。
 そして隊長機であるノイアイゼンとシュヴァルツリッターには、部隊内で最も成績優秀だったメリエルと相棒であるトウマ・ミナグチが搭乗していた。
「メリエルちゃん、メリエルちゃん」
 突然、メリエルの通信機から声が聞こえてきた。それはトウマからのプライベート通信だった。
「なに?」
「そっちの機体の様子はどう?操作する時、違和感は無い?」
「別に無いわ、前に乗ったアルトと同じよ。そっちの方は?」
「こっちもヴァイスと変わりないよ。でもこれ、あのマリオン博士が作った物だからね・・・・」
「まあね」
 メリエルは多くは語らなかったが、トウマの言葉に意義は無かった。二人ともこの部隊に配属される前は、連邦軍 北米支部のATXチームに所属していたので機体や、その製作者の事もよく知っていた。
 アイゼンシリーズとリッターシリーズの生みの親であるマリオン博士は、とにかくEOTを機体へ使う事を拒否するうえ、製作する機体はどれも極端な仕様になり、能力的に優れているものの乗り手までも極端に選んでしまうほどである。(その為量産計画は彼女ではなく、元・夫のカーク・ハミル博士主導で動いていた)
 無論メリエルやトウマが乗る機体も、仕様がかなり極端になっている。メリエルが搭乗するノイアイゼンは、装甲と攻撃力の増加と引き換えに運動性が急激に低下していて、トウマが搭乗するシュヴァルツリッターは、ノイアイゼンと逆に運動性と攻撃力を装甲を犠牲にして強化していた。その事を気にしてトウマはメリエルに声をかけたのだが、メリエルはさほど機体に違和感を抱いてはいなかった。
「それよりもこの作戦を成功させる事を気にした方がいいわよ。最初の作戦で失敗したら洒落にならないわ」
「大丈夫だよ。どうせ敵は単機だろ?」
 メリエルの言葉にトウマは笑って答えた。
彼らのようなエリート部隊がわざわざイスルギ重工・マレーシア工場に出撃した理由・・・・。それはこの場所に現れたSクラステロリスト、ジン・イスルギの捕縛及びヴァルゼリオンの拿捕であった。
 連邦軍上部は、いかにヴァルゼリオンが強力でも、単機である以上強力な部隊をぶつければ拿捕は可能だと、過去のヴァルシオン撃破から判断して、この部隊を派遣したのだった。
戦力は以前にヴァルシオンを撃破したハガネ改の部隊よりも機体のスペックもパイロットの操縦技術も格段に上がっている。特にノイアイゼンとシュヴァルツリッターのスペックは、エアロゲイター戦役で戦っていた機体よりも高く、この部隊が負ける要素は欠片も無いはずである。
しかし、それでもメリエルの心には何かが引っかかっていた。人に話せば初めて部隊を指揮する立場に対する不安と言われて終わるだろうが、メリエル自身には全く説明できない不安感が拭い去れずにいた。
(駄目・・・・。こんな根拠の無い不安に影響なんかされちゃいけない)
 メリエルは自分の中の不安を払拭するべく、一度大きく深呼吸をし、あるスイッチを押して大きく声を出した。
「テロリスト、ジン・イスルギに告ぐ!我々は地球連邦軍 極東支部に所属する特務部隊である。我々の目的はそちらがDCより強奪したヴァルゼリオンの回収である。無論、抵抗したらそれなりの措置を取らせてもらう。もちろん無抵抗でヴァルゼリオンを供出した際には今後の裁判に対して便宜を図る。これより五分以内に回答をしていただきたい」
 メリエルの降伏勧告は、特殊スピーカーを介して工場の敷地に響き渡る。だが一分経っても二分経っても、ジン・イスルギが立て篭もっているらしい工場からは何の動きも見えなかった。
「トイレにでも行ってて、聞こえなかったのかな?」
「・・・・そうね。もう一度言ってみるわ」
 トウマの少々間の抜けた呟きを聞き流しながら、メリエルはもう一度勧告をするべく、再びスピーカーのスイッチを入れようと手を伸ばそうとしたその時、突如ハンガーの一角が破壊された。
「えっ!?」
「な、何だ!?」
 メリエルもトウマも、突然の爆発に目を奪われ、その方向へ目を向けた。そこには壁を破壊し、そこからゆっくりと姿を現すヴァルゼリオンがあった。
「あれが・・・ヴァルゼリオン」
 メリエルは、悠然と立ち尽くすヴァルゼリオンの威容を見て驚愕し、思わず呟いた。その自分達の機体の二倍ほどもある全長に、あのヴァルシオンを模したフォルム。
だが何よりもメリエルを驚愕させたのが、ヴァルゼリオンの中から感じられる『威圧感』と『凶悪な殺気』だった。
(アレは危険だ・・・)
 それがメリエルの頭に、真っ先に浮かんだ言葉だった。それこそ何の根拠も無いただの思い過ごしにしかすぎない。だがそれ以上にメリエルの本能と言うべき部分が警報を発していた。
「全機、攻撃準備・・・」
「え?メリエルちゃん、何を言ってるんだよ?あいつはまだ抵抗してないんじゃ・・・」
 突然のメリエルの言葉を聞いたトウマは、聞こえた事が信じられなかったのか、メリエルに聞き返してきた。だがメリエルは苛立ちながらトウマを冷たく突き放す。
「見てわかんないの?あいつは何の返事も無くあの機体を起動させてきたのよ?確実に降伏する意思は無いわ」
「でも・・・・・・」
「いいから!!早く全機攻撃準――」
 メリエルがトウマを無視して攻撃を開始しようとしたその時、突如ヴァルゼリオンが襲いかかって来た。ヴァルゼリオンは、最も近くにいたGアイゼン目掛け右腕を伸ばした。
「ひっ!?」
 パイロットは、襲いかかるヴァルゼリオンに対し、反射的に左腕の二連マシンキャノンを向けた。だがヴァルゼリオンはそれよりも早く、Gアイゼンの角を掴んで機体を振り回し、地面に叩きつけた。
それどころか、ヴァルゼリオンは倒れているGアイゼンのコクピットに拳を振り下ろした。ヴァルゼリオンの拳はGアイゼンの装甲を問題にすることなく機体を貫通した。
メリエルとトウマは殺されたパイロットの断末魔を、通信機を介して耳にしながらもヴァルゼリオンの姿から視線を離せずにいた。
その悪鬼の如き姿から・・・・・・。


「クソッ!!やっぱり通信が妨害されてやがる!!」
 ジンは怒りを噛み殺しながら、ヴァルゼリオンのコクピットに座り、ヴァルゼリオンを起動させた。
 ジンには、あの男・・・キョウシロウの真意は全くわからない。だが、それより重要な事は、今から自分が、ここに来た連邦の部隊を壊滅させなければ、カズエがキョウシロウによって殺されてしまうという事実だけだった。
 そんな事をさせるわけにはいかない。ジンはすでにヴァルゼリオンと化している自分の右手を強く握り締めた。
キョウシロウには既に親友であるナオトを殺されている。もう二度とそんな真似をさせるわけにはいかない。ジンはその決意を表すかのように、目の前にあるハンガーの壁を拳で破壊した。ハンガーの壁は簡単に崩れ落ち、ヴァルゼリオンが出る事が出来るほどの大きな穴が開き、そこから薄暗いハンガーの中へ太陽の光が差し込んできた。
ジンはゆっくりと外へ出た。突然薄暗い所から明るい所へ出たため、光を眩しくながらも連邦軍の部隊を見つけるべく目を凝らしてあたりを見回す。
「いたか・・・・・」
 ジンは敵戦力を把握する為に彼らを睨みつける。目視できる敵機の数は12体、機種は、DCの情報には無い新型であるが、外見からエアロゲイター戦役で活躍したアルトアイゼンとヴァイスリッターの発展型と量産型(以下、発展型がノイアイゼンとシュヴァルツリッター、量産型がGアイゼンとGリッター)である事が見て取れた。
(なるほど・・・・新型の実験ついでってやつか。なめやがって・・・・)
そう感じたジンは更に苛立つ。だがその苛立ちを押さえつけるように先手を取られてもすぐに対応できるように、警戒しながらゆっくりと一歩ずつ確実に間合いを詰める。
(一気に片付けたいが・・・・・後の事を考えれば全力を出すわけにはいかない。クソッ・・・)
ジンは焦りで無意識のうちに舌打ちをした。確かにジンの考えどおり今のヴァルゼリオンが全力を使えばこの部隊など十分以内に壊滅させる事ができる。だが、ヴァルゼリオンがいくら力があっても、ジンの脳がその負担には耐え切れないのも確実であった。
もし全力で壊滅させたところでキョウシロウが約束を守るとはわからない。その際に失神していてカズエを助けられないという間抜けな事態を起こす訳にはいかないのである。
その為ジンは相手の隙を伺いながら、自分の有利な間合いを確保する為、連邦の部隊に近づいていったのだ。
ヴァルゼリオンが一歩踏み出すごとに、間合いは詰まっていく。それでも敵は警戒はしても手を出してはこなかった。そしてついにジンと敵部隊の距離がヴァルゼリオンの射程内にまで詰まりきった。
「いくか・・・」
ジンは視線を、一番近いGアイゼンに移し、それを攻撃するべく右腕を伸ばした。Gアイゼンは、伸ばした腕に反応して左腕を上げた。だがそれもヴァルゼリオンのハンドスピードには間に合わなかった。
ジンは量産型アイゼンの角を掴み、そのまま持ち上げて機体を振り回し、地面に叩きつけた。
「死ね」
 ジンは、掴んでいた角から右手を離し、一度振り上げてからコクピットにたたきつけた。ヴァルゼリオンの手から触覚は伝わっては来ないものの、本能的にパイロットが死んだ事を察知して、ジンは右手を引き抜き、立ち上がった。
 今度は視線を固定せず、部隊を見回した。機体自体に目立った動きは無いが、かすかに部隊そのものが後退していた。それは完全にジンの思惑通りだった。
 集団戦闘においての鉄則は、弱い物から撃破する事である。その際、決定的な力の差や残虐さを見せる事によって相手を萎縮させる事ができる。ジンはそれをDCに入る前からの経験からその有効性を知っていた為、即座に実行したのだった。
それに彼らが乗っているのが新型だったのもジンにとっては幸いだった。起動兵器搭乗者の多くは、新型を任せられた際、今までの機体以上の戦果を上げられると錯覚しがちである。スペックや武装以上に『新型』と言う言葉の魔力がそうさせるのだ。
だからジンはその心の動きを利用した。たった一撃で機体を破壊するどころか、パイロットも殺す事によって、新型を使っても手も足も出せないという印象を植え付けようとしたのだった。
案の定、敵の部隊は同僚を殺された怒りをぶつけてくるどころか、自分達が殺されないように後退を始めた。それを見て、ジンは口元を歪ませ、笑みを浮かべた。
『恐怖に囚われた味方は、敵に勝る』それが戦いの鉄則である。恐怖に思考を奪われてしまっては、的確な判断はできなくなる。的確な判断ができなければ勝つ事は不可能になのだ。
ジンは、今の連邦軍の目に、自分自身が化け物のように映っていると推察した。このままいけば労する事無く全滅できる。ジンはそう思い、もう一機撃墜するべく一歩間合いを詰めた。
 だが、その時、突如後方にいたはずのGリッターが二体動き出した。Gリッターは、ヴァルゼリオンを左右から挟み込むように旋回し、ホーミングミサイルと左腕からの二連ビームガンを撃ってきた。
 ジンは、敵機の動きに多少面食らったものの、即座に心を切り替えて、向かってくるミサイルとビーム弾の間を突き抜け、自分の左舷にいるGリッターへ向かって飛んだ。
 ヴァルゼリオンの動きを見て、Gリッターは、即座に銃口を向けようとした。だが銃口を向けるための手を動かす前にGリッターのコクピットをヴァルゼリオンの右足の爪先が貫いていた。
「あと十体」
 ジンは、Gリッターを突き抜けたままのつま先を抜こうとせず、そのまま足を振り回して離れて固まっている複数のGリッターへ、スクラップと化したGリッターをたたきつけた。そのジンの唐突な行動に、連邦の部隊は反応できず、飛んできたGリッターの直撃を食らい、機体バランスを崩して、落下をし始めた。
 連邦の部隊は、その衝撃的な光景を目の当たりにし、ジンが飛ばしたGリッターと落ちていく仲間達に釘付けとなり、ほんの一瞬ヴァルゼリオンから注意が完全にそれた。だが、それもジンの目論見の一つだった。Gリッターを叩きつけた事は、布石でしかなかったのだ。
 ジンは全員の視線が逸れた瞬間、最も近くにいたGリッターの頭を右手で掴んだ。Gリッターのパイロットは、慌ててヴァルゼリオンを引き剥がそうとするが、それよりも早く、左手の貫手が機体のコクピットを貫通した。
そしてジンはそのままGリッターの頭を掴み、連邦の部隊が最も密集している所へ投げつけ、それと同時に左手に巨大な歪みの弾丸を作り出した。
「人間爆弾ならぬPT爆弾。威力は桁違いだぜ!!」
ジンは、高速で連邦軍との距離を取りながら、左手に作り出した歪みの弾丸を右手で撃ちだし、Gリッターに叩きつけた。歪みの弾丸はGリッターの体にめり込み、機体内にある動力炉を爆発させた。
Gリッターの動力炉は、最新型にふさわしく、高出力の物を積んでいる。その為、動力炉が破壊された際に起きる爆発はかなりの被害を及ぼす。ジンはそれを利用して敵全てを破壊しようとしたのだ。
案の定、爆発は凄まじかった。500m以上距離を取ったものの、近くにいた機体が誘爆を起こした為、かなり広範囲に被害を及ぼした。とっさにカズエのいる中央棟はヴァルゼリオンとGテリトリーで守ったものの、周囲にいた機体は運が良ければ半壊、運が悪ければ跡形も無く焼け焦げていた。
「終ったか・・・・・」
 自らの起こした惨状を見て、ジンは安心したように呟いた。無論、連邦軍と戦った事で自分達の立場を悪くして知ったかもしれないが、それ以上にカズエを守りきれた事がジンには重要だった。
「よし、さっさと戻ろう。カズエさんを助けた後は、キョウシロウを殺さないと」
 ジンは急いでカズエの所へ向かうべくヴァルゼリオンを走らせる。だがその時、ジンの感覚に連結しているレーダーに突然反応が出てきた。反応はジンの上空にあり、高速で徐々に落下してきた。
「なんだっ!?」
 とっさにジンは上空を見上げた。そこには既に目視可能な距離にまで垂直に降下、接近していたノイアイゼンがいた。ノイアイゼンは両腕に装備されているリボルビング・ステークを叩きつけようと構えを取った。
「クソッ!!」
 ジンは、ノイアイゼンの攻撃を受け止めるのは愚策と判断し、高速で降下してくるノイアイゼンに右足で飛び回し蹴りを放った。回し蹴りは確実にノイアイゼンの左肩に命中した。だがそれでもノイアイゼンは少しも逸れる事無く、逆に攻撃してきたヴァルゼリオン目がけて、右腕のリボルビング・ステークを叩きつけようとしてきた。
「させっかよ!!」
ジンは蹴りを入れた右足を、とっさに引き込んで回転し、左足での後ろ回し蹴りを叩き込みノイアイゼンを吹き飛ばし、両者とも空中で体勢を崩す事の無いまま地面に着地した。更にノイアイゼンの背後には、いつのまにかシュヴァルツリッターが待機していた。どうやらこいつがノイアイゼンを上空から落下させたようだ。
(隊長機が生き残っていたか・・・)
 ジンは、今の一合で、ノイアイゼンのパイロットの実力を知った。あの爆発を回避し、そのうえ自分に奇襲すらかけてきた二機の実力を警戒し、構えを取った。
その時―――
「ヴァルゼリオンに乗っているジン・イスルギ。聞こえている?」
「ん?」
 突如、どこからか少女のような声が無線を通して聞こえてきた。
「こちらは連邦軍特務部隊隊長メリエル・F・ウェルマー。ノイアイゼンのパイロットよ。戦いの前にそちらに忠告したい事があるわ」
(忠告?)
 ジンは、突然話しかけてきたメリエルをいぶかしみながらも、自分の方も無線を入れた。
「こちらジン・イスルギだ。一体忠告とはなんだ?手短に言ってもらおう」
「そう。なら用件だけ言わせてもらうわ。私達は貴方の逮捕と、ヴァルゼリオンの拿捕を命令されているわ・・・・」
 メリエルの声は、最初は静かに淡々と言葉を出していた。だが、言葉を出すごとに語気が強くなってきた。
「でも貴方は私達の仲間を殺した・・・・。それもコクピットそのものを狙うような残酷なやり方で・・・・。そんな輩をただ捕まえる事なんて私には出来ないわ・・・。今から私は貴方を捕まえようとは思わない!!貴方を殺し、その上で残骸になったヴァルゼリオンを回収させてもらうわ!!」
 その叫びと共にノイアイゼンはジンに向けて高速で突撃してきた。だが、それでもジンは竦む事など無く、それどころか顔に笑みさえ浮かべた。
「殺す気で来るか・・・。その意気は認めてやる。だがな・・・・てめえじゃ俺には役不足だよ!!」


「アアアアアアアアアアアッ!!」
「ハアアアアアアアアアアッ!!」
 ジンとメリエルは、互いに外部スピーカーのスイッチを切る事すら忘れて、相手に向かっていった。
「いかせてもらうわよ!!」
 先手を仕掛けたのはメリエルだった。メリエルはノイアイゼンの背中に装備していたM950マシンガンを左手に装備し、接近しながらもヴァルゼリオンに射撃をしてきた。
「ぬるいぜ!!」
 ジンは、ばら撒かれる弾丸の軌道を即座に察知し、弾丸を跳躍して回避すると同時に、そのままノイアイゼンの頭部目がけて、左足で胴回し回転蹴りを放つ。ジンは、AMやPTの様な通常の機動兵器が、レバーとスイッチを介して、一定の行動を取る物として作られている事を知っている。例えパイロットが反応した所で、機体が防御行動を取る前にヴァルゼリオンの足がノイアイゼンの頭を砕くのは明白だった。
 しかし、ジンが足を振り上げると同時に、突如ノイアイゼンの後方からシュヴァルツリッターがロシュセイバーを手に持って接近してきた。シュヴァルツリッターは、機体の動く方向をヴァルゼリオンの左側にずらし、剣道の胴を打つような動作で、振り上げていたヴァルゼリオンの足、しかも大腿部にロシュセイバーを振るった。
(こいつ俺の足を?させるか!!)
 ジンは、とっさに慣性を操作し、右後方へ飛んで、ロシュセイバーを回避する。だが、ジンが飛んだ場所には、いつのまにかノイアイゼンが回りこんでいた。
「もらったわ!!」
 メリエルは、既にノイアイゼンのリボルビングステークをセットしていて、飛んでくるヴァルゼリオンの背中を目がけ、絶妙なタイミングで放ってきた。
「クソッ!!」
 ジンは、背中にステークが突き立てられるより早く右手で裏拳を放ち、ノイアイゼンに叩きつけるが、ノイアイゼンの質量の重さと突撃の速度の為に、さっきの蹴りの時と同じように、突撃を止める事が出来なかった。
「ウ・・・・ウオオオアアアッッ!!」
 ジンは、ヴァルゼリオンの出力を一気に高め、強引にノイアイゼンを弾き飛ばした。そして、そのままノイアイゼン・シュヴァルツリッター両機から距離を取った。メリエルの方も、弾き飛ばされながらも体勢を整えて、再びシュヴァルツリッターと立っていた。その様子を見て、ジンは大きく舌打ちをして呟く。
「そういえば、そっちの名前も聞いていないカラス野郎がいたんだったな・・・。あまりの影の薄さに忘れていたぜ・・・」
「トウマ・ミナグチだよ。まあ今ので忘れられなくなっただろう?」
「まあな・・・。嫌らしい野郎だってのはわかった」
 ジンもトウマも、互いに相手に対して言葉での牽制を行う。すると、そこへメリエルが口を入れてきた。
「ずいぶんと余裕があるみたいね、ジン・イスルギ」
「まあな。後はお前達を殺すだけだ。余裕も出てくるさ」
「よく、そんな強がりを言えたものね。あたし達のコンビネーションに翻弄されていたくせに・・・・・・」
「強がりかどうかは確かめてから言えよ」
 その言葉と同時に、ジンは、ノイアイゼンに向かって一気に間合いを詰め、左右時間差無しの回し蹴りを放つ。
それに対してノイアイゼンは微動だにせず、ヴァルゼリオンの足は、ノイアイゼンの両肩にヒットした。だが、確実に蹴りが入ったはずのノイアイゼンは、ダメージどころか微動だにすらしなかった。二倍の身長を持つヴァルゼリオンの攻撃を喰らったのにも関わらず・・・・・。
(堅い?いや重いのか?蹴りは確実に入ったはずなのによろめきすらしない・・・)
「やっぱり・・・」
 メリエルは呟きながら、動きの止まっているヴァルゼリオンの足を掴んできた。
「確かめてみたけど・・・やっぱり強がりみたいね」
 その言葉と共に、ノイアイゼンがヴァルゼリオンの足関節を取って、足そのものを壊そうとしてきた。いくらノイアイゼンのようなPTが、複雑な動きが不能だとしても、ヴァルゼリオンの足程の大きさのものならへし折る事は容易なのだ。
「くっ!!」
 ジンはノイアイゼンの腕に力が込められる前に、地についている左足を上げ、ノイアイゼンの顔面に前蹴りを入れる。その蹴りの衝撃でノイアイゼンは右足から手を離した。それを確認したジンは、蹴った反動を利用して間合いを取るため、後方へ大きく跳びあがる。だが、ジンの動きに示し合わせたかのように、トウマの乗るシュヴァルツリッターが絶妙なタイミングで飛び込んできた。
「それはちょっと甘すぎる!!」
 トウマは、ヴァルゼリオンを完全に捕捉し、至近距離でオクスタンランチャーの銃口を突きつけてきた。
「この間合いだったら絶対に外さない!!チェックメイトってやつだ!!」
「どうだかなぁ!?」
 ジンは、その言葉と共に、もはやヴァルゼリオンの身長ほども距離の無い地面に向かい急加速をかける。だがジンは地面に激突する寸前に慣性を操作し、着地の衝撃をほぼ無効化して跳躍し、瞬く間にシュヴァルツリッターの真下に入り込む。
「何っ!?」
「この近距離で真下に入られたら、お前の銃は役立たずだ!!」
 ジンの言葉どおり、トウマはオクスタンランチャーを使ってヴァルゼリオンを退ける事は不可能だった。シュヴァルツリッターのオクスタンランチャーは、遠距離用射撃兵器であるがゆえ、砲身が長いうえ発射までほんの少しの間がある。
そのためにトウマは自分から接近した事が仇となり、ジンに容易く懐に入れられた。
「お前、読みが甘すぎるぜ!まあ、死ぬ奴に言っても遅いけどな!!」
「くそっ!!」
ジンは、トウマを直接殺そうと、シュヴァルツリッターのコクピット目がけて右腕でアッパーを放った。ヴァルゼリオンの速さは、人間の知覚神経を越えていて、既にトウマには、ロシュセイバーでの切り払いどころか、回避をする暇(いとま)も無かった。
シュヴァルツリッターに吸い込まれるかのごとく打ち出された拳を見ながら、ジンは既にトウマの死を確信していた。だがその時、突然、衝撃と共にヴァルゼリオンの腕の動きが止まった。いや、腕だけではない。足も、体も、頭すらも動かす事が出来なかった。
 ジンは、突然動かなくなったヴァルゼリオンの体に目を落とし、驚愕する。ヴァルゼリオンの体には六本の鎖が体に巻きついていた。その見知らぬ鎖に雁字搦めにされて、ジンは戸惑う。
「な・・・なんだこの鎖!?」
「トライアンカー・・・・」
 ジンは声が聞こえた方向へ目を向ける。そこには両肩からヴァルゼリオンの動きを封じているトライアンカーという名の鎖を射出しているノイアイゼンがいた。
「どんな武器かは・・・わかるわよね?」
 メリエルは、小さく、だがハッキリと呟くと、両肩のチェーンを高速で巻き取り始めた。更に、それと同時にノイアイゼンの頭部の角がプラズマエネルギーを帯びて青白く輝きだした。
 ジンは、プラズマで輝くノイアイゼンの角を見て、背中に冷たい物が伝うのを感じる。そのことを知ってか知らずか、メリエルは、冷徹に呟いた。
「怖がる事は無いわ。コクピットを一撃で潰すから。苦痛を感じる前に体は蒸発するはずよ」
 ジンは、メリエルの呟きにを感じとれ無かった。確かにメリエルは確実にコクピットをあの角で突き刺しに来るだろう。だが、ジンはその状況で笑いを浮かべた。
「そいつは良かった・・・・。だけどな―――」
 その言葉と共に、ジンは巻き取っているトライアンカーに逆らう事無く、逆にヴァルゼリオンをノイアイゼンに向けて急加速させた。
「えっ!?」
 メリエルは、ジンの動きを予想していなかったのか、その動きに戸惑い、一瞬隙を作ってしまった。無論ジンは、その隙を見逃す事は無い。
「お前如きに殺されるわけにはいかねえんだよ!!」
「くっ!!」
 メリエルは、向かってくるヴァルゼリオンに向かい、必死にプラズマホーンを突き出す。だがそれも無駄な抵抗でしかなかった。
 ジンは、突き出されるプラズマホーンを右半身で避けつつ、左手でノイアイゼンの後頭部を掴む。
「メリエルちゃん!!」
 メリエルを助けようと、トウマはヴァルゼリオンに向かっていくが、もうジンの攻撃を止める余裕は無かった。ジンはそれを横目にしながらメリエルに対して叫ぶ。
「コクピット潰したいんだっけ?俺は嫌だから、代わりに潰れてみてくれよ!!」
 憎まれ口と共に、ジンは左の膝をコクピット部分に叩きつける。それと共にノイアイゼンは、膝蹴りの直撃箇所が爆発した。ジンは、撃ちこんだ左膝を戻し、鎖を引き千切って間合いを取り、今度はシュヴァルツリッターに向かい拳を構える。
「お前・・・・・よくもメリエルちゃんを!!」
 トウマは、メリエルを殺されて、機体越しにもさっきが伝わってくるほどに激怒していた。だが、その怒りもジンの心には全く響かない。
「へえ・・・・・。女を殺されて、怒り心頭ってか。そんなんじゃ、戦場だとやってけねえぞ?」
「うるさい!!大切な人を殺されて、黙っている人間がいるかよ!!」
「だったら黙ってねえで、さっさと来いよ!!」
「当たり前だぁぁぁぁぁっ!!」
 トウマは、咆哮と共にロシュセイバーを振り上げ、ヴァルゼリオンに襲いかかって来た。
「くたばれぇぇっ!!」
「けっ!!」
 ジンは、大上段から振り下ろされるロシュセイバーを受け止めようと左手を出す。しかし、ジンは突如シュヴァルツリッターに背を向けた。
「何!?」
 ヴァルゼリオンは、掌に圧縮展開したGウォールで直撃寸前の攻撃を受け止めた。だが、その攻撃はシュヴァルツリッターの物だけではない。ジンは左手でシュヴァルツリッターのロシュセイバーを受け止め、右手で背後から飛んできた『拳』を受け止めた。
それはヴァルゼリオンの背後から襲ってきた破壊したはずのノイアイゼン、そして死んだはずのメリエルからの攻撃だった。メリエルは攻撃を受け止めたヴァルゼリオンを見て、悔しそうに呟いた。
「やるわね・・・・・。完全に不意をついたはずなのに・・・・・」
「あれだけ殺気出してりゃ馬鹿でも気づく・・・・・それにしてもリアクティブアーマーとはな。PTの命の機動力を殺してまでつけるもんじゃねえぞ?・・・・・」
「開発者が、ちょっと特殊なのよ。その腕前に比例してね!!」
「なるほど・・・・・こっちと同じってわけか!!」
 ジンは、受け止めていた拳とロシュセイバーを下へ払い、そのまま間合いを取った。
「だが、もうコクピットを守るリアクティブアーマーはねえ!今度こそコクピット直撃の一撃をくれてやる!!」
「それはどうかしら?トウマ、アレでいくわよ!!」
「え?あ、うん!!」
「モード変更!!高速格闘戦モードへ移行する!!」
 メリエルの声と共に、ノイアイゼンは機体中についている外装と武装の殆どをパージし、マニュピュレーターをスライドした装甲が覆った。肩のアンカー射出装置までパージしたせいか、機体のフォルムは完全に変わり、今までの重装甲の火力重視型から軽装甲のスピード重視型へと変貌していた。
「行くわよトウマ・・・そしてノイアイゼン!!」
 メリエルが呟くや否や、シュヴァルツリッターの援護射撃と共に、ノイアイゼンが先ほどまでと全く違う速度で、ヴァルゼリオンに襲いかかって来た。
 ジンは、飛んでくる弾丸を回避しながらも、咄嗟に迎撃しようとヴァルゼリオンの左拳を突き出す。だが、狙った所には既にノイアイゼンの姿は無く、次の瞬間、ヴァルゼリオンの腹部に、強烈な衝撃が走った。
 それは、ノイアイゼンの放ったアッパーだった。メリエルは、ヴァルゼリオンが撃ってきた左拳をその下に潜り込んで避け、そのまま懐に入ってショートアッパーを決めてきたのだ。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
 ヴァルゼリオンの懐に潜り込んだノイアイゼンは、コクピットのある腹部を目がけ両拳をマシンガンのように叩きつけた。ジンは、打ち込まれる拳を少しでも防ぐべく、拳と腹の間にヴァルゼリオンの腕をねじ込んで防御に徹する。打ち込まれる拳に耐えながら、ジンは一計を案じる。
(いくら格闘専用になったところで、操作方法はPTと同じだ・・・・。だったら格闘戦の際に必要な動きは再現しきれていないはずだ。そこをつけば!!)
 ジンは、形勢逆転を狙い、まるで攻撃に耐えられないかのように膝をついた。
「とどめ!!」
 メリエルは、ヴァルゼリオンを粉砕するべく、頭部目がけて大振りのストレートを撃ってきた。
「かかったな、素人が!!」
ジンは、咄嗟に左手を地面に置き、そこを軸にして足払いを放った。ヴァルゼリオンに使われているB.D.Lのような人間の動きを再現するシステムでもなければ、足元への突然の攻撃にはPTやAMは、操縦のシステム上、対処できないのだ。そして足さえ払って転倒させれば確実にコクピットを潰し、殺すことができる。ジンは十分すぎるほどの確信と勝算を持って足払いを放ったのだ。
だが・・・・
「素人?どっちが?」
「何っ!?」
その時、ヴァルゼリオンの足が当たるよりも早く、ノイアイゼンは前方へ小さくジャンプして足払いを回避した。そして、足払いを外して背中を向けているヴァルゼリオンの背中に、踵を叩きつけた。
ヴァルゼリオンは、その一撃で、地面にうつ伏せの状態で倒れ伏せる。そこへノイアイゼンは、何の躊躇も無くヴァルゼリオンの上に馬乗りになる。
「知らなかったでしょうけど、ノイアイゼンは格闘戦用モードになると操作形態が変わるのよ。実践用に想定されている何百ものパターンをボタンの組み合わせで再現できるようにね・・・」
「けっ・・・それじゃあ、まるで格闘ゲームのキャラだな!?」
「そうかもね。でも、あなたは、その格闘ゲームのキャラに殺されるのよ」
 そう言ってメリエルは、ヴァルゼリオンの背面部に両拳を乱打する。いくらヴァルゼリオンの装甲が堅強に作られているとはいえ、背面を集中攻撃されては耐え切れないのは明白である。
「くそっ!!」
 ジンは、ヴァルゼリオンを襲う殴打の嵐に堪えながら、右腕でノイアイゼンの右足を掴む。
「なめてんじゃねえぞ!!この女(アマ)!!」
 ヴァルゼリオンとノイアイゼンの全長差を利用し、ノイアイゼンの足を掴んで無理やり引き剥がす。
「ウッ!!」
「メリエルちゃん!!」
トウマの叫びとほぼ同時に放り投げられたノイアイゼンは、受身も取らずに地面に叩きつけられた。メリエルが衝撃に苦しみ、それをトウマが心配している間に、ジンは何とかヴァルゼリオンを立ち上がる。
「なるほど・・・・・確かに嘗めていたみたいだな」
ジンは呟きながらも、タイマーを映す。タイマーは戦闘開始から6分を切っていた。
「あと三分か。仕方ねえ・・・・・『全力』で行く!!」
 そう呟いたジンの目には尋常ならざる殺気が渦巻いていた。


 全てが頭の中に入ってきた・・・・・。色も、形も、音も・・・全てがヴァルゼリオンの機体越しにジンの脳内に止め処無く入ってきて・・・更に、同時に全てを理解できるのを感じていた。
 PSF・・・・・カズエが名づけたその特殊能力が、脳を活性化させ、この感覚を引き起こしているらしい。そしてこの能力によってジンはヴァルゼリオンを自在に動かせるのだ。
この能力を理解し、使えるようになったのは最近だが、この感覚自体は、ジンにとっては目新しい物ではない。
高校を辞める直前の喧嘩で数十人相手にした時・・・・・。
DC入隊時にジーベル・ミステルに銃を向けられた時・・・・・。
たった一人で、基地を占拠しようとする連邦の歩兵部隊と戦った時・・・・・。
 この感覚が出た時は目の前の敵が死ぬか、再起不能になるか、ほぼどちらかだった。
そして今、ジンは目の前の二体のPTを破壊し、パイロットであるメリエルと言う女と、トウマと言う男を殺すためにその力を解放した・・・・・。

「アアアアアアッ!!!」
 ジンは、起き上がりかけているノイアイゼン目がけ、右拳を振りかぶって襲いかかる。
「クッ!!」
 メリエルは、咄嗟にスウェーをして、横薙ぎに振るわれるヴァルゼリオンの右拳を、両腕で受け止めた。ヴァルゼリオンは自分の攻撃の勢いと慣性で大きく態勢が崩れる。
「甘いわね。そんな――」
 メリエルがジンの無策な攻撃に対して挑発しようとした時、言葉より速く、ヴァルゼリオンの拳がノイアイゼンの頭部に襲いかかった。
だが、ただ拳が襲いかかって来たわけではない。ノイアイゼンが今受け止めた右拳だったのだ。
「ウラァァァァァッ!!」
ジンは咆哮しながらノイアイゼンに、先程の復讐とばかり拳と蹴りを叩きつける。だがノイアイゼンの時と違うのは、ヴァルゼリオンの猛攻を防げてないと言う事だった。メリエルは、ノイアイゼンより巨大なヴァルゼリオンの拳や蹴りを両腕でガードしようとするが、なぜか防御した所に攻撃は来ず、防御の開いた所のみに拳や蹴りがめり込んできた。無論その一撃は、ノイアイゼンを凌駕しており、一撃入るごとに装甲が歪んでいった。
ノイアイゼンは、ヴァルゼリオンの猛攻に耐え切れず、膝を屈してしまった。無論ジンは、それでも微塵も躊躇する事無く、拳と蹴りを途切れる事無く叩きつける。
「キャアアアアアッ!!」
「メリエルちゃん!!」
 その不思議な光景に驚いて、立ちすくんでいたトウマだったが、メリエルの叫びを聞いて、咄嗟にヴァルゼリオンに襲いかかって来た。
「!!」
 その時、トウマは自分の目を疑った事だろう。メリエルを助けようと向けたはずのオクスタンランチャーの銃身が、なぜか、こちらを見てすらいないヴァルゼリオンの手に握られていたのだから・・・・・。
「うるせえよ・・・・・!!」
 ジンは、一言呟いてオクスタンランチャーを奪い取り、それを棍棒代わりにシュバルツリッターを薙ぎ払い、銃底を叩きつけると、シュバルツリッターは吹き飛んだ。
「てめえは後だ。まずはこっちを始末してからだ」
 ジンはオクスタンランチャーを放り捨て、膝をついて動けなくなっているノイアイゼンの角を右手で掴んで、引き上げた。
「お前らの命なんか、興味ないからどうでもいいがな、ぶっ殺さねえと大切な人が殺されるんだよ。さっさと死んでくれ」
「だからって!!」
 ノイアイゼンは、一矢でも報いようと右拳を撃とうとする。だが、それは避けられるどころか、肩が少し動いた時にヴァルゼリオンに掴まれて、攻撃を阻止されていた。
「えっ!?」
「無駄だ。お前の攻撃は、出した瞬間に何が来るかがわかるんだよ」
 ジンは、言葉とほぼ同時に、ノイアイゼンの胸部に左足で膝蹴りを入れる。しかも膝を入れると同時に、ノイアイゼンの角を離したため、機体は、転がりながら大きく後方に吹き飛んだ。
「うぐっ!!」
 コクピット内で体を激しく打ちつけたのか、メリエルは苦悶の声を漏らす。
「痛いか?だろうな。いくら対衝撃用スーツをつけているとはいえPT程度には、パイロット保護用の慣性制御システムも着いてないだろうしな」  
冷徹に言葉を叩きつけるジンに萎縮したのか、メリエルは、一言も発さずに沈黙していた。
「ハッ・・・。どうやらビビって、口も利けないみたいだな。わかった。時間も無いし、そろそろ殺してやる」
 ジンは、そう言い放って、倒れているノイアイゼンに歩み寄る。すると・・・
「冗談じゃ・・・・ない!!」
メリエルの叫びと共に、ノイアイゼンは再び起動し、起き上がりざまに、ヘッドスプリングの要領でヴァルゼリオンの頭部目がけて渾身の蹴りを放った。
高質量の金属同士が衝突する音と砕ける音が響く。ノイアイゼンが放った渾身の蹴りは、ヴァルゼリオンの頭部にヒットしていた。
「やった・・・・」
メリエルは、その様を見て、自分の勝利を実感した。だがその時、思いもよらない事態が起きた。
ヴァルゼリオンの頭部を破壊したはずのノイアイゼンの右足が、砕けていたのだった。その足は、膝が曲がり、脛から下は裂け、足首などは砕け散って原形を留めていなかった。
「え?あ?」
あまりにも予想外の事態に、メリエルはそれ以上の言葉を発せられずにいた。
「どうした?まさか、殺したとでも思っていたのか?」
ジンは、砕け散ったノイアイゼンの足を掴む。
「確かにあそこから蹴りが出せるとは思わなかったから少しは驚いたけどな・・・・。だが、お前の足が当たる瞬間に、スウェーして回避した。ついでに、頭に重力を集めて頭突きをしたんだよ。お前らの乗っているPTと違って、こっちは全身が凶器だからな」
「そんな・・・・そんな事ができるわけ・・・・」
「できるんだよ、俺には・・・・」
 そう言ってジンは、ノイアイゼンの足を持ち上げて宙吊りにする。
「俺の脳は特別なんでな・・・・・。五感に入ってくる情報全てを同時に処理する事ができるようになっている。その中でも、敵の動きを見る為の『視覚』、空気の流れを感じるための『触覚』、関節の動きや飛来する物体を感知する『聴覚』。これをフル活用すればどんな攻撃もあたらねえし、例え防御されてようが、その隙間に拳や足をねじ込む事ができる。わかんだろ?俺の言っている意味・・・・」
 その言葉を聞いてメリエルは、ノイアイゼンを操縦できないほど体が震えだし始めた。それはメリエルが、戦場で恐怖を初めて覚えた恐怖だった。同時に、自分がこのジン・イスルギと言う男に敵わない事を理解した。それは機体の差と言うレベルでは無い。ジンと自分とは、存在そのものの『格』のような物が違っているとしか思えなかった。
「さあ、そろそろ終わりだ・・・・・。できるだけ痛い思いをしてな!!」
 ジンは、ノイアイゼンの足を持ち、機体そのものを振り回し、地面に音速を超える速さで叩きつけた。
「!!」
 メリエルの体に、スーツ越しにシートベルトが食い込む。その痛みの為、メリエルは叫ぶ事ができない。
「おい、安心してんじゃねえぞ!?機体とパイロットが砕け散るまで叩きつけてやる!!」
ジンは、その言葉どおり、ノイアイゼンの足を持ったまま、ありとあらゆる方向へ音速を超えた速さで振り回し,叩きつけた。
ノイアイゼンの装甲は完全に歪み尽くし、原型がなんだったのかを判別する事すら難しくなってきた。それと同時に、コクピット内のメリエルの生命も危険に晒されていた。
PTのパイロットは対衝撃スーツを着て身を守るものの、もはやそれは意味を成してはいなかった。メリエルは常軌を逸した衝撃に、呼吸もままならず、体中の骨が悲鳴を上げた。
「そろそろクライマックス行くか!!」
その言葉とともに、ジンは空中高く飛び上がった。
「特別サービスだ。無料でスカイダイビングを楽しませてやるよ!!」
 ジンは、雲すらも下に臨む高度からノイアイゼンを地面に向かって投げつける。ノイアイゼンは、数秒もしないうちにジンからは目視できなくなっていた。
「さあ・・・・終わりだ!!」
 ジンは、ノイアイゼンを完全に破壊するべく、急降下を始め、更に同時にヴァルゼリオンの右掌に極限まで重力を集め、重力の塊を握りこんだ。その為、右拳はブラックホール化寸前で、ヴァルゼリオンが通過した場所には、空間の歪みが軌跡の様に連なっていた。
「見えた!!」
ジンは、着地の衝撃で既に半壊しているノイアイゼンを目視する。それに止めを刺すべく、ジンは一度拳を引き、半壊したノイアイゼン、そして瀕死のはずのメリエルがいるコクピットに狙いをつけた。
 その時・・・・
「させるかあっ!!!」
「!?」
 突然シュヴァルツリッターが、ノイアイゼンを庇ってオクスタンランチャーを手にしてヴァルゼリオンの前に立ちはだかった。
 操縦者であるトウマは、力量差と機体差の激しすぎるヴァルゼリオンの前に立ち、覚悟を決めて叫ぶ。
「メリエルちゃんは殺させない!!例え僕の命を犠牲にしても!!」
「プッ・・・・馬鹿か、てめえは!?」
「何っ!?」
「お前は犠牲にもなれねえよ!!なんせ二人一緒に俺に殺されるんだからな!!」
 トウマの決死の覚悟すら嘲笑い、ジンは更に加速する。
「じゃあな!!カラス野郎!!怨むんなら自分の馬鹿さ加減を怨んでろ!!」
「!!!」
 ジンはシュヴァルツリッターごとノイアイゼンを破壊する為、右拳を放つ。トウマは、最接近してきたヴァルゼリオンを撃ち落そうと、ヴァルゼリオン目がけてオクスタンランチャーを両手で構えて撃った。
だが、あろうことかヴァルゼリオンは、オクスタンランチャーの弾丸に拳をぶつけた。既に高重力の塊となっているヴァルゼリオンの拳は、弾丸ごとオクスタンランチャーを砕き、シュヴァルツリッターの顔面を撃ち抜いた。
「うわあっ!!」
 シュヴァルツリッターの頭部を完全に破壊され、コクピットの中のモニターが次々と死んでいった。
「ちょっとだけ先に逝ってな!すぐにお友達を送ってやるからな!!」
 ヴァルゼリオンの拳は、シュヴァルツリッターを貫通しながらノイアイゼンのコクピット目がけて近づいていく。
 既にノイアイゼンもメリエルも動ける状態ではなく、ジンの勝利は完全な物になっていた。
 しかし・・・・
「させるかぁぁぁぁっ!!」
「んだとぉ!?」
 ヴァルゼリオンの拳がノイアイゼンに激突する瞬間、突如シュヴァルツリッターがブースターの最大出力を出した。
「なんのつもりだ!?」
「言っただろう!!自分を犠牲にしてもメリエルちゃんを助けるって!!」
 トウマは、シュヴァルツリッターのブースターを使い、ヴァルゼリオンの腕を方向修正しようとしたのだ。
 だが、今のヴァルゼリオンの腕にかかる重力はブラックホールになろうかというほどである。シュヴァルツリッターのブースターの出力が、いかに連邦で最高峰に入る物であったとしても、今のヴァルゼリオンの拳では、ただ機体を押しつぶしていくだけでしかなかった。
しかしそれでもトウマは諦める事無く、ブースターの出力を高めながら絶叫する。
「ま・・・・負けるかぁぁぁぁっ!!」
「負けるかじゃねえっ!!お前はとっくに負けてんだよっ!!」
 トウマの叫びすらかき消すような、ジンの無慈悲な咆哮が響き、ヴァルゼリオンの拳がノイアイゼンの胸部を貫いた。
「あああっ!!」
「オラァァァァッ!!」
 トウマの絶叫は、悲鳴へと変わった。そしてそれを再びかき消すかのように、ジンはもう一度咆哮し、倒れているノイアイゼンをシュヴァルツリッターごとごみのように放り捨てた。
 ノイアイゼンもシュヴァルツリッターも、もう完全なスクラップでしかなかった。二機とも大きく音を立てて地面にぶつかり、転がった。その様子を見るまでも無く、ジンには両機がもう立ち上がってこない事を理解していた。
「へ・・・。てこずらせやがって・・・」
 ジンは悪態をつきながら、活性化していた脳の状態を戻す為に気を静めた。数秒の沈黙の後、ジンの感覚は、まるで何かが途切れたかのように沈静化していった。
「さあ・・・・今度こそカズエさんを・・・・・」
 ジンは、急激な感覚の変化による一時的な変調を堪えながらも、カズエのいる支局長室へ急いだ。
 しかし・・・・。
「・・・・・・・あ?」
その時、ジンの目に映った物は意外な光景だった。カズエがいる支局長室が炎上していたのだ。
「え?あ・・・え?」
 ジンは、顔面蒼白になりながら、そこへと足を向けた。心身ともに乱れながらも、円状する支局長室の中にあるガレキをヴァルゼリオンの手でどかしてカズエを探した。
「そんな・・・・遅かったのか?」
 ジンは愕然としながらも、タイマーに目をやった。だがそこに映る数字は、10分を過ぎていなかった。
「え・・・・?まさかアイツ・・・・!!」
 ジンは炎上する支局長室の中にある、ある物を見つけて体が震え出した。それは、さっき破壊したばかりの、シュヴァルツリッターの固有兵器・オクスタンランチャーの破片だった。
「あ・・・ああ・・・・」
 ジンは、あまりの衝撃に体中から力が抜けていった。その破片は、ジンが破壊した為にこの部屋に飛んできたのだった・・・・。
 あの時、回避をしておけば・・・・。しかし、それも後の祭りでしかなかった。ジンは、ただその場に膝を着いている事しかできなかった・・・・。


10
自らの過失によってカズエの生命を失ってしまったジン。だが、事態はジンに嘆いている事を許さなかった・・・・・。
「ん?・・・・」
その時、突然、この支局から離れた上空に敵機の反応があった。しかも輸送艦であるタウゼントフェスラーがたった一つ・・・・・
「敵機?今ごろか?」
突然の襲撃に、その意味がわからず困惑するジン。だがその間にもタウゼントフェスラーは、何かに導かれているかのようにこの場所に向かってきていた。
「チッ・・・・何が目的だ・・・・・」
 ジンはタウゼントフェスラーと交信する為、連邦の周波数へと合わせ、会話を試みる。
「こちらジン・イスルギ。旗艦との交信を求める・・・・。こちら・・・・」
 ジンは、何度もタウゼントフェスラーに対して呼びかけるが、一向に返事が来なかった。それでも応答を続けるものの答えが返ってくる事は無かった。その意図の見えない沈黙に、ジンは異様な重圧を感じ始める。
 その時・・・・ジンは通信の中に何かが聞こえてきた。
「ん?・・・・・これは・・・」
 聞こえてきた物は、肉声ではなく、コンピュータで作った人工音声だった。そして、その音声は、ジンをも驚愕させる事を告げていた。
「―――せる。繰り返す。本艦は、イスルギ重工会長の意向によって、イスルギ重工 東南アジア支局 マレーシア工場を爆撃する。その際の脱出行動については各自の判断に任せる。繰り返す。本艦は―――」
「なっ!?・・・・・・あっ!?」
 あまりに想像を絶した警告に、ジンは上手く言葉が出てこなかった。当然と言えば当然である。たった一機の敵を破壊する為に支局の工場、そして人員や兵士すらも犠牲にしようと言うのだ。
「くそっ!ふざけやがって!!」
 警告を聞いたジンは、血相を変えた。そしてヴァルゼリオンのカメラを最大限までズームさせ、爆撃をすると言うタウゼントフェスラーをその眼で確認する。
 タウゼントフェスラーは、少々バランスを欠いた動きをしていて、カメラ越しに見ただけでも、それが、爆撃用に積載量を超える弾薬を積んでいて、航行にまで影響を与えているのがわかった。
「ち・・・・・ヴァルゼリオンなら簡単に破壊できるが、ここからじゃ狙えないし、格闘するわけにも――」
 その時、突然ジンを強烈な頭痛が襲ってきた。あまりに凄まじい痛みの為、五感すらも徐々に麻痺していくほどだった。
(マジかよ!?こんな時に『負荷』が!!・・・・・)
 ついに襲いかかって来たPSF使用の負荷によって、ジンはヴァルゼリオンを立たせている事すらできなかった。
(やばい・・・・早く逃げないと・・・・)
 迫り来る爆撃から必死で身を守ろうとするものの、既にジンはヴァルゼリオンを自在に動かす事ができなくなっていた。歩行しようとすると足が縺れ、飛行しようとしてもドミニオン・システムを上手く操作できなかった。
 そのうえ負荷の大きさは徐々に増していき、ジンの意識はすぐにでも消え去ろうとしていた。
「駄目だ・・・・・このままじゃ死ぬ・・・・」
 もはや、抵抗する事も諦めたジンは、地面に倒れ、全てがどうでもよくなったと言わんばかりに空を見た。 
 その時・・・・・・・
「そのまま!!」
「え?」
 突然、通信機から謎の声が聞こえてきて、それと同時にヴァルゼリオンから離れていたブロックの工場から突如爆発が起こり、その爆発の中から、一筋の流れる物が空に飛んでいった。そして一拍の間を置いて、地表に衝撃が来るほどの大爆発を起こした。
 それは既にあらゆる物がぼやけて見えるジンの目にも、爆撃をしようとしていたタウゼントフェスラーが爆発した物だと認識できた。
 何が起こったのか理解できず、あっけに取られているジン。すると、通信機から再び声が聞こえてきた。
「やったわよジン!!爆撃機を私が撃ち落したわ!!」
「カズエさん・・・・・。生きてたのか・・・・・・・?それに何を・・・・」
 通信機から聞こえてきた声は死んだと思っていたカズエの声だった。
「あ・・・・・もしかして、やばい状態?待ってて、今こっちに『収容』するから!!」
「こっち?収容?クソ・・・・わけわかんねえ・・・・」
 その一言と共に、ジンの意識は完全に途絶えてしまった・・・・・。


「う・・・・・」
 ジンは、まだ重い瞼をゆっくりと開く。すると、そこはヴァルゼリオンの居住スペースだった。ジンはそこにあるソファーベッドに横になっていたのだった。
「またかよ・・・・・」
 と言いながらジンは体を起こす。だが、やはり負荷の後遺症が残っているからか、体が思うように動かなかった。
「あ、気がついた?」
 頭の方から聞こえてきた声に対し、ジンは声だけで答える。
「またやっちまったな・・・・。悪いな、カズエさん・・・・」
「いいから、いいから。今はゆっくりと休む事に専念しなさい」
「ああ。なるべくそうするわ」
その声の主・・・・・・カズエに対して、まだ痛む頭をこらえながら返事をした。しかし・・・・・ジンの頭には、安心より気持ちよりも根深いものが残っていた。
「あのさ・・・・・」
「なに?」
「あの時・・・・・・一体何してたんだ?」
「あの時って?」
 カズエの間の抜けた答えに、ジンは頭の痛みが多少増した気がした。
「島が、爆撃受けそうだった時だよ・・・・。あの時、俺はカズエさんが死んだのかと・・・・」
「ああ。あの時ね・・・・・。あ、ちょっと待って、額の冷却パッド張り替えるから」
 カズエは、既に温くなっていたジンの額の冷却パッドを新品と交換しながら話を始めた。
「ジンが、ヴァルゼリオンに荷物を搬入しに行った後、私はコンピューターのファイルの中から良い物を見つけたのよ」
「良い物?」
「そう。良い物よ。ちょっと待ってね、冷却パッドも張り替えたから、今どんな物か見せるから・・・・・」
 そう言ってカズエは、多分基地からくすねて来たであろうPDFを取り出し、ジンに画像を見せてきた。
「・・・・・・これは?」
カズエの見せた画像にジンの目は釘付けになった。そこに写っていたものは、かなり大型のテスラ・ドライブを搭載している戦闘艇だった。
しかし、それだけだったらさほど目を引く事は無い。それでもジンがその画像に釘付けになったのは、その画像の中に見た事のあるモノがあったからだった
「これは・・・・・・ヴァルシオン!?」
驚くべき事に、戦闘艇の画像にはヴァルシオンが共に写っていた。よく見ると、その戦闘艇はヴァルシオンの機体を完全に格納していた。
「カズエさん・・・・・これは?」
「『ヴァルシオン・リリーフシステム・シップ(ヴァルシオン救護機構搭載艇)』。略して『ヴァルリーフ』よ。」
「ヴァルリーフ?」
「ええ。ファイルを調べていたらこれを発見したの。以前のDC戦争時に、イスルギがヴァルシオン専用の修理用の戦闘艇を作っていたらしいのよ。でも、完成直前にDC戦争が終結しちゃったから放棄されていたみたいなの」
「そうか・・・・・・。その前にヴァルシオンは破壊されたから・・・・・」
「ええ。だから、貰って来たのよ。」
「は?貰って来た?」
「そうよ。今、ヴァルゼリオンは、ヴァルリーフに格納しているの。こういうのがあるとこれから楽だしね。」
「・・・・・・・・・」
「それにしても、やっぱりヴァルシオンを元にしていたから、サイズがピッタリだったわ。もし格納できなかったらと思って心配して損したわ」
「・・・・・・・・・・」
 ジンは、カズエのバイタリティに心底あきれ、言葉が出ない。しかしそんなこと気にする事無く、カズエは話を続ける。
「まあ、機体そのものは、完全に組みあがっていたのが幸いだったわ。操縦するプログラムを送り込むだけだったから、空爆前に爆撃機を撃ち落す事に成功したし」
「は・・・・はは・・・。そうだったのか・・・・。はは・・・・・」
 カズエの話を聞いててジンは、ようやく理解した。カズエは、自分が連邦と戦っている時には、既にヴァルリーフを見つけて、手に入れる算段をしていたのだ。自分が何に狙われているかも知らず・・・・・。
 だが、ジンにとってはそれでよかった。下手に狙われていた事を知って怯えるよりも、知らないほうが彼女も幸せなのだ。
 ジンはようやく本当に安堵を得た気がした。ジンはそのまま、カズエの説明を子守唄代わりに、再び眠りに着いた・・・・・。


11
「生存者発見!!どうやら少女のようです!なにやら強い衝撃を何度も受けたようで、全身の骨が全損し、呼吸も絶え絶えで、極めて危険な状態です!!」
「こちらの青年の方もかなりの重体です。まるで、極めて高質量な物体に押しつぶされたかのように脊髄が損傷しています!」
「わかった!!両者共にPTから出すんだ!ちょうど、上半身部分が完全粉砕してるからそこから出せ!!」
「了解!」
 連邦の医療部隊は、完全に破壊されたノイ・アイゼンとシュヴァルツリッターから、既に瀕死の状態のメリエルとトウマを救出していた。それと共に、回収部隊はもはや原形を留めていない両機を見て、慄然としていた。 
 そして、その様子を離れた所から見守っている男がいた。
「はい・・・・・・。現在回収されています。連絡から到着までの時間は予想より早かったですね」
 その男は、カズエを殺そうとしていたキョウシロウだった。彼は、女性二人を自分の背後に立たせて携帯電話を使い、誰かにここで起こった事を説明していた。
「・・・・・ええ。やはりヴァルゼリオンは、相応の戦闘能力を見せていました。パイロットのジン・イスルギもあの機体を完全に操っていたようでしたし・・・・・。やはりこちらもある程度の事はしておかないと・・・・・」
 キョウシロウは、あの常識を超えた戦闘を行ったヴァルゼリオンを見ても、取り乱す事も驚く事も無く、淡々と電話の相手に説明していた。
「・・・・・・・・・はい。わかりました。言われた通り、連邦に捜査した情報を与えた後、奴らの追跡を開始します。それでは、また報告します、会長・・・・・」
 キョウシロウは、そう言って『レンジ・イスルギ』との通信を終了した。
「蘭華(ランファ)、麗華(レイファ)」
「はい、キョウシロウ様」
 名を呼ばれた女性達は、前に歩み出る。その瞬間、キョウシロウの掌が顔に叩きつけられた。
「ランファ、C4を仕掛けた場所が悪い。レイファ、爆発のタイミングが違っていた。気を付けろ」
殴られたランファとレイファの口などからは大量の血がこぼれ出すが、ランファもレイファも顔色一つ変えなかった。
「もうしわけありません・・・・・・」
「以後、気を付けます・・・・・・」
 沈痛な表情を浮かべ、申し訳なさそうに頭を下げるランファとレイファ。その二人を見て、キョウシロウは、微笑む
「わかればいい、これからは気を付けろ。お前達は俺には無くてはならないからな」
 キョウシロウが微笑みかけると、ランファもレイファも今浮かべていた表情が嘘のように、喜びの表情を浮かべた。
「もったいないお言葉です」
「私達の全てはキョウシロウ様の物なのですから・・・・・・」
 二人は、その美しい顔から血を流しながらキョウシロウに寄り添いながら微笑む。キョウシロウは、そんな彼女らと共に自らが乗ってきた三人乗りに改造されているメッサ−に向かいながら笑みを浮かべた。
彼が何を考えているかはその表情からは読み取る事は出来ない。ただ一つ言える事は、その微笑みは人間らしい感情が伝わらないほど冷たい物だということだけだった・・・・・。

次回予告
 東アジアのあらゆる所へ出没し、イスルギの基地を破壊して戦力を削り続けるジンとカズエ。
 だが、イスルギもそれを黙って見ていた訳ではない。ついにイスルギはヴァルゼリオンに匹敵する機体を投入してきた。
 次回『壮絶なる遊戯』


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蘇芳

Author:蘇芳
特撮とケームとマンガをこよなく愛するオタクです。

 最近の流行についていけないながらも、色々と頑張って生きてます。

 どうやら小説などのようにある程度の長文を開いた時に表示が完全にされないバグのようなものがあるらしいです。


 原因はわかりませんが、対処法としてはツールバーの履歴アイコンを2回ほど押せば直るようです。

 ただ、これはIEでの対処の仕方です。他のソフトを使っている場合は申し訳ありませんがどう対処すればいいかわかりません。

 少々不便でしょうがよろしくお願いします。

メアドです
suou00●hotmail.co.jp
●を@にしてください。

 ミクシィにもいますので、入れる人はよかったら見てください。

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